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日陰者の楽園(2)

 学園都市海上スタジアム

 全校朝礼のような大規模行事、あるいは各分野の決勝戦や表彰式などを行う、学園都市の象徴であり最強表明の場でもある。

 その大きさは学園都市の土地面積並みに大きく、移動手段は船舶や専用の大橋、通称“グロウリー・ブリッジ”のみとなっている。

「其処が占拠されたのか!?」

「そう言う事になるかな。バーサクモードの量産なんて考える奴が、妙な野望を考えたっておかしくはない」

「セキュリティを整えたところで、バーサクモードが量を備えれば無理か……くそ!」

 そこへ、裕樹と龍星のD-Phoneに通話が。

「もしもし宇宙?」

『ユウか? 今、スタジアムが……』

「占拠されたんだろ?」

『--知ってたのか。その一団が略奪や占拠じゃなく、各地に暴力目的の襲撃を仕掛けている』

「何?」

 裕樹がちらりと龍星を見ると、同じ内容らしく歯噛みをしている。

 その一方で、既に踵を返して後にしようとする太助を見て……

「--なら俺は、直接スタジアムへ向かう」

『え!?』

「スタジアムを占拠した連中の仕業だってんなら、元を断つ方が早い。それにこれは、立場がある他の3人じゃできない事だろ」

『……わかった。ただし、俺の方で編成した潜入班の1員としてだ』

「合流はスタジアムの前で頼む」

 そこで通話を切り--

「悪いけどダンナ、裕香とつぐみの事頼めるか?」

「頼まれなくてもそうするが、せめて相談位しろ--俺は生徒会議事堂ビルに向かう」

「ああっ」

 そして次に、太助に目を向ける。

「……行くんだろ、スタジアム」

「うん……バーサクモード・オルタナティヴの完全消去の為に」

「待て、開発した奴を捕らえる気はないのか?」

 太助を制止する龍星の声に--

「--勘違いしないで欲しいけど、僕はボランティアでこんな事やってる訳じゃない。自分たちで何とか出来る内から頼るな」

 そう言った太助の表情--主に目は、かつて主治医を務めていた太助を知る龍星には信じられない冷たさだった。

「……僕は手を差し伸べるだけだよ。それ位の事、貴方なら理解してると思ったんですけどね」

「ああっ、すまん。今のは失言だった……だがお前、そんな冷たい目をする奴じゃなかったのに」

「--あなたの主治医を務めていた事はよく覚えてますよ。今こうして元気で居てくれてる事が、喜びたい位には」

 そう言って太助はその場を後にし、裕樹もそれに続く。

 残された裕香とつぐみを連れて、龍星は一路生徒会議事堂ビルへ。

「--さて、つぐみ、裕香ちゃん、生徒会議事堂ビルへ行こうか」

「うん」

「はーい」、

 ふと龍星は、闘病生活の頃を思い出し--頭を振って、それをかき消した。

「--あいつ程優しく笑う男なんて、会った事なかったんだがな」




 --所変わって


 ガンっ!! ガンっ!!


 学園都市外周、学園都市食品衛生管理課

 そこもまた、バーサクモード・オルタナティヴを発動させた者たちの襲撃を受けていた。

「チダ! チヲナガセ!!」

「ブシャットチノシャワーガアビテエ!!」

 そこには重度に侵された者が多い所為か、きちんと異常さを言葉に込めている

「何よあいつ等」

「--保安部は?」

「ダメです。連絡がつながりません」

「ねえ支倉さん、朝霧裕樹は!?」

「そうよ! 最強の1人なら、きっと助けに来てくれる!」

 その中には、ひばりもいた。


 Prrrr! Prrrrr!


「--はい!」

『……そちら、学園都市食品衛生管理課でよろしいですか?』

「はい。すぐに助けを呼んでください。変な奴らが--」

『成程、そんなに怖いですか? 我が兵は』

「え……?」

『ならば、取引ですーーそちらの職員に、支倉ひばりという方がいらっしゃるはず。その方を引き渡していただければ』

 通話は周囲にも聞こえていて、全員が耳を疑った。

「……どうして支倉さんを」

『イエスかノーかで答えてください』

「ふざけないでください。職場の仲間を犠牲にするなんて--」

「あたしがそっちに行けば、皆の安全は保障してくれるんですか?」

「支倉さん!?」

『嘘ついたって仕方ないでしょう。ではそちらの第一搬出口の前に、電子召喚獣が控えてます。その後ろの荷車に載っていただければ--要求がのめないなら、全員即血祭りに』

「皆に傷をつけないなら、大人しくします」

『よろしい--では、すぐに撤退させましょう』

 そこで通話が途切れ、バーサクモード・オルタナティヴの亡者たちの気配が遠のいていく。

「ダメよ支倉さん、こんな要求のめる訳……支倉さん!」

 制止の声を振り切り、ひばりは駆け足でその場を去り、指定された第1搬出口へと向かっていった。

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