甘えん坊日和(感謝)
「本当に、ありがとうございました」
屋台通りに出向いた裕樹たちを待っていたのは、初等部女子たちの感謝の一言。
「--皆、大丈夫? ショック受けてた子も多かったから、心配してたんだ」
「……正直言うと、まだ外に出るの怖いし、まだ入院してる子もいますけど、それでも朝霧先輩に感謝してるってことを、その子たちの分も伝えたくて」
「まずは、ありがとう」
それも皆、裕樹が助け出した初等部の女の子達。
恰好は殆どが、長袖や厚手のストッキングが目立ち、中には首に包帯を巻いてる子供もいる。
「……全員が無事、とはいかなかったけど、それでもこれだけの子が助けられたのは良かったね」
「はい……でもユウだから、これだけの子が助かったんですよね」
「ああっ。少なくとも俺には、バーサクモードを駆使しようと、裕樹の大立ち回りを真似しろと言われても無理だ」
その様子をつぐみ、宇佐美、龍星が見ていて、各々が痛々しくはあるが、無事に裕樹にお礼を言う姿に安心したように笑みを浮かべている。
「みっちゃん、なっちゃん!」
「あっ、ゆーちゃん」
その中で、裕香がいつも一緒に居る少女を見つけ、みなもの手を引きながら駆け寄った。
「なっちゃん、大丈夫?」
「うん。私は、変な事される前に朝霧先輩に助けてもらったから、どっちかと言うと平気」
「嘘ばっかり。朝霧先輩から連絡あった時、抱き着いて大泣きしてる真っ最中で……」
「ちょっ、みっちゃん!」
なっちゃんと呼ばれた少女が、慌ててみっちゃんと呼ばれた少女の口をふさごうとする。
その最中にふと、みなもの姿を見つけ--
「……ごめんなさい」
「ううん。とても怖い目にあったんだから、仕方がないよ。えっと……」
「あっ、そういえば自己紹介まだでしたよね。私、荻原菜月って言います。ゆーちゃんからはなっちゃんって呼ばれてます」
「涼宮みなもです。でも、大事に至らなくてよかった。流石は裕樹さん」
「--やっぱり敵わないなあ」
「え?」
「いえ、何でもありません」
そういって、そっぽを向いてしまった。
「……お姉さん、お姉さん」
「ひゃい? えっと……」
「みっちゃん事、秋月美奈です。なっちゃんは朝霧先輩の事……」
「みっちゃん!!」
言い終わる前に、追いかけっこが始まった。
そこへ、少し疲れた雰囲気の裕樹が戻ってきた。
「……お待たせ」
「たくさんの感謝を受け取って、どうでした?」
「--正直慣れない」
「慣れてください。裕樹さんが“堕ちた悪魔”なんて言われるより、私たちは嬉しいんですから」
「そうだよ、ユウ兄ちゃん」
「……わかった。ところで、あの子たち何してんの?」
「裕樹さんは、自慢の彼氏だって証明です」
「……すまん、よくわからないんだけど?」
そんな裕樹に、みなもと裕香は顔を見合わせて苦笑した。




