PV撮影に潜む影(7)
「……めんど、くせえ」
公人が両腕に巻き付けている鎖の、右腕の錠を開き裕樹の腕にその錠をかける。
それから裕樹の胸倉を再び掴み上げ、公人が勢いをつけての頭突き。
「がっ!!?」
ダメージが目に見えて出ている所為か、ガードしきれず2発、3発となすがままになってしまう。
5発位で公人が裕樹にボディブローをぶち込み、その勢いのまま近くの街路樹にたたきつけた。
「……へへっ、めんどくさがりにしては、威力は前よりすげえじゃねえの」
「めんど……くせえ!!」
裕樹の余裕を崩さない雰囲気に、言葉とは裏腹に苛立ちの様子を見せ始めた公人が、裕樹の顔面を掴み上げ別の街路樹に裕樹の頭をたたきつける。
そのカウンターの様に、裕樹の蹴りが公人の顔面にぶち込まれる。
「がぶっ!!? ……めんど、くせえ」
鼻血が出ている位でさしてダメージはない様子で、公人がボキリと太めの鎖を巻き付けた両方の腕に力をこめ、両拳をガチンと鳴らすようにぶつけ合う。
けだるそうな雰囲気は崩れてはいないが、目は明らかに居殺さんと言わんばかりに敵意を籠めている。
「……俺を随分と痛めつけてくれるとは、流石は荒川公人。最強と相対できるなら、そうこなくちゃな」
叩きつけられた額から血を流し、隠しきれないほどの疲労とダメージを受けている。
しかし裕樹は、普段とさして変わらない--余裕をもった態度で、挑発するようにそう告げた。
「……お前、超めんどくせえ--いつもそうやって、余裕を崩さねえ」
「取るに足らねえからだ。こんなもん」
「……ギガめんどくせえ」
公人が鎖を手繰り寄せようとし、それに合わせ裕樹が駆け出し公人の腹に蹴りをぶち込む。
それに耐え、薙ぎ払うように振るった腕を、裕樹はその腕の動きに合わせた側転の形で回避し、その勢いを回し蹴りにして公人を蹴りぬき距離をとる。
と言っても、鎖で繋がれたチェーンデスマッチの形式になった以上、鎖の長さの範囲内--4、5mという所で
「……さて、と」
裕樹は態度程余裕があるわけではなく、寧ろ荒川公人必勝の方程式、チェーンデスマッチになってしまったを内心歯噛みしていた。
学園都市最強の肉体と称される鳴神王牙さえ凌駕する公人のパワーと、動きと距離を制限されつながった状態が合わさった時、格闘戦においてスピードと身のこなしが売りの裕樹に、勝ち目はほぼないに等しい。
更に錠は電子ロックとアナログキーの二重ロックとなっていて、開錠の知識があってもすぐには外せない様になっている。
勿論……
「めんど……くせえ!」
そんな時間を与えるわけもなく、公人が鎖を手繰り寄せ始めた。
裕樹にそれに抗いはするが、そもそもパワーに差があり過ぎるため、抵抗など無意味という様に引きずられ始める。
「めんどくせんならぶっ倒れてろ。こんなとこで油売ってる場合じゃねんでな」
「……めんどくせえ。堕ちた悪魔が、悪徳を嫌うのかよ?」
「胸糞悪いもんばっかり見せられたのは確かだが、嫌ってる訳じゃねえ。ただ売られたケンカを買ったまでだ--それにそれを言うなら、お前こそ腐った外道の犬だ」
「めんどくせえが、ちげえねえ……」
裕樹が抵抗から切り替え駆け出し、一気に距離を詰めて公人の腹に膝蹴りを叩き込み--
それと同時に、公人が裕樹の胸倉をつかみ上げ、裕樹を近くの壁や地面に叩きつけた。
--その周囲で、非難を進めている保安部員たちは。
「……隊長、俺達も加勢に」
「よせ、無意味に被害が広がるだけだ--それより、避難を早く進めろ。光、この子を頼む」
「うん、わかった」
「--ウイウイ、準備だ」
『ウ~イ~』
大輔のウイウイが、亀特融の重厚さを主張する甲羅、普段はつけていない首輪と共に姿を現す
大輔はというと、水晶玉--シン・スフィアを取り出す。
「--光、もし朝霧さんがやられた場合はその子を連れて逃げろ。あの地点で身を隠せ」
「……わかった」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「……制圧は終わったぞ、東城」
「さ、御大将の出番だぜ、センセー」
「ああっ、ありがとう九十九、剛。さて……もう大丈夫だよ、君をお父さんの所へ連れてってあげるね」
「パパ……パパは?」
「大丈夫。僕達に任せてくれれば、ね」
「……保安部の監査担当の初等部教師の1人の娘を誘拐し、それを利用しての保安部の情報操作か。考えたもんだねえ」
「学園都市の学生に出来るのは、あくまで学生の範囲内。大人に対する権限を持ってるのは限られてるから、大人を手中に収めればやり放題な一面もあるって事さ--さて、早く教師の所へ帰して、情報を理事会に送り付けないと」
「どうやって? 俺達ゃ学園都市でも危険度の高い手配犯だぜ。いくら理事会が学園都市の内部事情への干渉権限がないとはいえ、話が出来る立場じゃ……」
「出来る人に通せばいいのさーーもう生徒総会じゃ、理事会に掛け合ってるだろうしね」




