PV撮影に潜む影(4)
「やってるねえ」
屋台通りの、龍星たちのやり取りを遠くで監視していたのは……
「おいおいセンセーよお」
「なんだい、剛?」
東城太助と、鮫島剛の両名。
「一体どういうつもりだよ? 敵に塩というには上質すぎるだろ、あれは」
「別に、使えるか使えないかはその人次第さ。それに塩だって、使い方悪かったら人が死ぬこともあるのに」
「……すごい例えだな。まあ確かに、こいつを使えるようになんのは、骨が折れたがなあ」
実は龍星と別れた後は、まっすぐ屋台通りを一瞥できる場所に移動していた。
剛は愛刀である電子ツール、王鮫の柄にはめ込まれたシン・スフィアを撫でながら、しみじみと苦難の道のりを思い返している。
「で、案の定苦戦かよ--一緒に居んのは、姉ちゃん2人にガキ2人か」
「……そのガキの朝霧君の妹じゃないほうは、高等部らしいよ」
「……マジ?」
「くしゅんっ!」
「? どうしたの、つぐみ姉ちゃん」
「……なんだか、すごく不快なものを感じたような気がする」
「というか、なんで俺達こんなことしてんだ?」
「そりゃ勿論、話をしに来たからだよ--ねえ」
そういって、太助が振り向いた先には……。
「……やっぱりお前か」
朝霧裕樹が立っていた。
「良く気付いたね」
「そりゃ、狙われ慣れてるもんでな--しかし、ダンナにあんなもん持たせて、どういうつもりだよ?」
「この件は、君の手で解決すべきことだからね。彼に動かれると困るんだよ」
「……理由は? 最強何て呼ばれてようと、他の最強と違って雇われもんでしかない俺が」
「それはこれから話すよ」
太助は剛を下がらせ、裕樹も警戒を解いて太助と相対するようにその場に腰かけた。
「結論から言えば、君の妹が狙われた事の発端は、単なる偶然さ」
「偶然?」
「まあその後の事は、君の妹だと意図した上なのかの判別は出来ないけどね。最近、君の妹がPV撮影の--」
「してた--というか、撮影に協力したよ」
「話を……そう?」
間髪入れず、裕樹が即答した。
あっけにとられつつ、太助が愛用のタブレットを取り出して何かを操作し--裕樹に画面を見せるように差し出した。
「……おい、なんだこれ?」
裕樹の眼前にあるのは、裕香の物をはじめとする初等部の女子--それも、一般的に高水準な美少女ばかりがうつされたPV
その動画の下には、未だに変動している数字枠があり、その枠の横には¥とつけられている。
「オークションサイト--さっき調査してわかった事だけど、君の妹をはじめとして、落札されてるのは行方不明になった子ばかりだよ」
「……よりにもよって、子供の課題を悪用しての人身売買かよ」
「オークションはまだ続いてるから、明日辺りまた行方不明者が続出してはもみ消されるだろうけどね--それじゃ、はい」
太助が再びタブレットを操作し、裕樹のD-Phoneにデータを送信。
D-Phoneを操作して出てきたのは、生徒会の執行部員や金持ちのお坊ちゃんをはじめとした、裕福層の画像とプロフィール。
ただ、画像には黄色か赤で名前が記されている。
「……これは?」
「現時点で誘拐された子を落札した人物のプロフィール--黄色はただの幼女趣味で、赤は人には言えない危険な趣味の持ち主」
「--こんな胸糞悪いオークションに大金払う位だから、予想位出来てたが……てか、随分数多くないか」
「それだけ、需要があるって事だよ--理解は全然できないけど」
「それは同感だ……なあ東城、誰が誰を落札したかはわかるか?」
「うん、君の妹は……」
「いや、そっちも気になるが、実は妹の友達もこのオークションで落札されてるんだ。だから一先ず、裕香を安心させたうえで事に当たりたい」
「--堕ちた悪魔なんて呼ばれてても、君も人の子なんだね。いいよ、ちょっと待ってて……うん、君の妹を落札したのと同じ奴みたい。ほらこれ」
そういって、太助が表示したのは、赤で記された人物--裕樹には、思い出したくないという意味での見覚えがあった。
「--なんでよりにもよって」
「知ってるのかい?」
「依頼主をストーキングした挙句、依頼主を妹諸共にSM趣味の贄にしようとした、俺が携わった事件で最悪の変態野郎だよ」
「じゃあ朝霧君の妹を落札したのは、単なる偶然じゃないみたいだね--搬送は既にされてるみたいだから、急いだほうがいいかもよ」
「早く言えそれを!! --くっそ!!」
裕樹は急いでその場から離れ--それを見送った太助は、飄々としながらタブレットを操作し始めた
「てか、朝霧1人じゃ追いつかねえだろこれ。だよ」
「心配しなくても、商品の搬送を遅らせる位は出来るよ。保安部がシステム上動けない以上、学園都市最強の名を持ってる彼が大々的に動いてもらう必要があるからね」
「--で、センセーの狙いは?」
「闇オークションの黒幕。初等部の動画を盗み、更には保安部のシステムを欺く何か……かな」
--数時間後
「もしもし、裕香?」
『ユウ兄ちゃん!? どうしたの』
「ちょっと待ってな。はい」
「……ゆーちゃん?」
「え? なっちゃん……なっちゃん、大丈夫だったの!?」
「うん……朝霧先輩が、助けに来てくれたの」
「兄の面目は保てた……なんて言ってる場合じゃない。東城の奴、無茶ぶりしやがって!」
その次の日、裕樹は学園都市のあらゆるメディアで取り上げられていた




