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裕樹と宇佐美の1日(1)

今回は普通な短編です。

 学園都市の高等部、あるいは職業体験の許可を取得した中等部以上の学生の生活リズムは、星の数に例えられるほどに多数存在するカリキュラムの受講スケジュール、就いた職業によって、必然的にそれぞれ異なる。

 それらを考慮して、高等部の必修科目の履修は、全生徒のリズムに合わせられるよう、午前、午後、夜学と分けられており、その出席記録はD-Phoneを介して行われ、これらは決まった時間帯のみの出席になる者も居れば、日によって異なる者も居る。

「よろしくお願いします」

 例えば宇佐美は基本午前受講だが、学生アイドル超新星として名が売れている為、様々な仕事の依頼が各方面から舞い込んできており、忙しい日々を送っている。

 仕事の依頼は講義の妨げになっては本末転倒の為、宇佐美の場合は芸能科講義のない時間帯に組むよう、依頼者は考慮しなければならない。

 現在は宇佐美の新曲CDの発売記念の、簡易コンサート兼握手会が行われていて、宇佐美のファンが長蛇の列を築き上げている。

「頑張ってね、宇佐美ちゃん」

「はい、ありがとうございます」

「あの、これ受け取ってください」

「ありがとうございます」

 そのステージ衣装のままで、宇佐美がファンの激励や贈り物を受け取りつつ握手し、サイン入りの販促物を手渡す。

 満足そうな顔で自分の手と販促物を眺め、帰って行くファンを見送って次へ。

「いててててっ!!」

 ――そう言う事ばかりと言う訳でもなく。

「はいストップ」

「てっ、テメ! 何しやあがっ!!?」

「何持って握手しようとしてんだお前?」

 中には悪質な嫌がらせを行う者、あるいは熱狂的なファンも当然いる為、彼女の護衛として履修を調整しつつ雇われている朝霧裕樹が、販促物の補充をしながら眼を光らせている。

「――失礼。次の方どうぞ」

「ありがと、流石は朝霧裕樹ね」

「礼は後で。今はそっち」

 宇佐美の礼に裕樹は普通に返して、販促物の補充に戻る。

「宇佐美ちゃん、大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

 流石にその後は、応援よりも激励や心配の声が先立っていた。


 ――仕事後。

「お疲れ」

 宇佐美にタオルと飲み物を手渡して、裕樹も自分の飲み物に口をつける。

「大丈夫か? やっぱ中止にした方が……」

「平気。また何かあっても、ユウが何とかしてくれるんでしょ?」

「勿論そのつもりだけど……てかその度胸は、流石は宇宙の妹だよ」

「信じてるからね」

 にこっと宇佐美は笑顔を向け、裕樹は頭を掻きながら苦笑する。

「――さっさと着替えて帰ろうぜ。腹も減ったし」

「うん。今日は何食べようかな?」

「近くにつけ麺の美味い……」

「辛い物はやめて。歌は喉が命なんだから」

「じゃあ、天ぷらの……」

「油物はカロリーが高いからダメ」

「……俺の行きつけの」

「焼き肉でしょ間違いなく!? 1件位は女の子受けするお店とか知っててよ」

「じゃあ、グルメピラーの……」

「ちょっと待って!」

 グルメピラーとは、繁華街の中心にそびえ立つ学園都市、食の最高峰と呼ばれる20階からなる高層ビルであり、その全てが学園都市でも食方面の有名人のみが料理人を務める、高級レストランで占められている。

 生徒会、上流階級生の御用達となっているこの場所は、一見さんお断りな敷居の高さを誇っている。

「なんだけど、ここのマ・メゾンって店で起こったシェフ闇討ち事件の犯人、俺がとっ捕まえた関係で顔パス、予約なしな上に格安でフルコースご馳走して貰えるようになった」

「……えっと、じゃあそこに連れてってくれるとか?」

「そうだね。まあドレスに着替えて貰う事になるけどね」

 学園都市では、規模の大小問わず催事が行われているほか、本格的なパーティーも行われる事もあり、学生はタキシードにドレスを持っている。

「これってある意味、最上級のデートコースかも」

「……デート? ――あれ?」

「……やっぱりあたし以外にも誘ったことあるの?」

「高級レストランでの食事なんて喜ぶと思って、ひばりにつぐみとみなもに……後、行ってみたいってせがまれて、アスカに」

「――もう良いから、タキシードとドレスに着替えに行こうよ。あたしお腹すいちゃったから」

「――? なんで棒読みなんだよ?」

「知らない」


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