PV撮影に潜む影(3)
龍星が太助にバーサクモードを封じられた同時刻にて
「……本当なのかよそれ」
『--はい』
裕樹は保安部に連絡し、経過がどうなっているかを聞いてみるだけのつもりだった。
しかし、経過どころか保安部史上最低級の失態が繰り広げられている事となっていて、裕樹は耳を疑った。
「……わかった。じゃあ俺は俺で、先に調査だけしたいから許可をくれないか? ……行方不明者に妹の友達がいたから、妹が不安がってな」
『はい。では、俺の名義で許可を出しましょう』
「すまんな」
『いえ、寧ろこちらからお願いしたいくらいです。では』
裕樹がD-Phoneの通話をオフにし、はあっとため息をついた。
「……ユウ兄ちゃん、どうだったの?」
特に仲のいい友人が行方不明な所為か、裕香はとても不安そうに裕樹に問いかけた。
「大丈夫。調査許可もらったから--学園都市最強の1人の名に懸けて、俺が助け出すよ」
「……お願いユウ兄ちゃん」
安心させる様に、裕樹は裕香の頭を撫でてやり、抱き着いてきた裕香を抱き上げる。
ただ、調査許可をもらっただけであり、正直裕樹は今回の事件はかなり手こずる物だという予感を持っていた。
結論から言えば、保安部に誘拐事件の報は届いていなかった。
通報を受けた詰所が、本部に連絡を送ったのは確かであり記録もある--にも拘らず、その連絡がなぜか本部に届いていない。
本部側の通信記録は、どういう訳かその通信を受けたかどうか、それを受けたのが誰かがわからないという、どうやってもみ消されたのかが全く見当がつかない状態。
来島アキが通信記録こそ見つけた物の、通信の外の事までわからない為に、結局もみ消しがどうやって行われたのかがわからない。
更に言えば、昨日捕らえ龍星が保安部に身柄を預けた裕香を襲おうとした男もーー
書類上では、きちんと保釈金を交えての手順を踏まえた上で釈放という流れが記されているものの、身柄の責任を受け持っていた中原大輔に連絡も来ず、更には誰が担当したのかもわからないという。
「……裕香、屋台通りへいこう」
「うん」
一応、龍星とは屋台通りで落ち合う約束があったために、一先ず宇佐美を迎えた後にそちらへ。
所変わり、屋台通り。
「というわけで、すまんが手を貸せなくなった」
「……東城が、俺が解決すべき、ねえ」
龍星から聞かされたのは、今回の事件に協力は出来なくなったと言う事だった。
更には協力を拒む理由が、太助が龍星のバーサクモードを封じた上で、そう指示されたと言う事。
「……わかった。ただ、東城が動くからにはただ事じゃないはず。カグツチ連れていきたいから、宇佐美と裕香の事頼めるか?」
「ああっ、任せておけ。そっちの方は特に制限はかけられていない。それと……」
龍星がD-Phoneを起動し、煌炎を。
そして、太助にもらった水晶玉を具現し、裕樹に見せると--それを見た裕樹は、明らかに表情がかわった。
ただし煌炎に関しては、つけているバンダナの文様を見て。
「--間違いない、これはシン・スフィアとシン・エンブレム。これ、どうしたんだ?」
「東城からだ。お前たち4人に見せればわかると言われてな」
「……成程」
宇佐美の傍に控えていたカグツチを手招きし、裕樹がD-Phoneを操作すると--
カグツチの右腕に、煌炎のバンダナと同じような文様の腕輪がつけられ、裕樹の手に龍星の持っているものと同じものが具現した。
「……なにそれ? そんなの、今まで見たことないよ?」
裕香の言葉に、全員がえっと疑問符を浮かべた。
「--裕香ちゃんも、知らない事なの?」
「あの腕輪と玉に、一体どんな秘密があるんでちょうか?」
「さっき、お前たち四人って言ってましたよね? まさか、最強と称される人だけに許される何かって事でしょうか?」
つぐみ、みなも、宇佐美はそんな裕香の様子にそれぞれ意見を言い合う。
「そりゃ知らないのも無理ないさ。俺……いや、俺達数える程度しかこれを使ったことないから」
「それで、どんなものなんだ?」
「水晶の方は、シン・スフィア。そして、電子召喚獣がつけてるもの--正確には、それの文様をシン・エンブレムっていうんだけど、こういう物だ--カグツチ」
『グガルッ!』
裕樹が水晶玉を握り締め、カグツチは表情をする独資四肢の体制から二足歩行の体制へ移行する。
「プログラム・シン、起動!」
音声入力なのか、裕樹の言葉で水晶玉が輝き、それに呼応するようにカグツチの腕輪が輝きだす。
その2つの輝きが繋がるような形をとると、裕樹の水晶玉がより一層強い輝きを放ち、その輝きがカグツチの身体を包んでいく。
カグツチの姿が少しぼやけたと思うと、背から翼が生え、強靭な腕や足は甲冑のような形を取り始め、手の甲と肘と膝に水晶玉のような何かが付与され、二の腕には剣のような突起が生えていく。
その輝きが晴れ、深紅色だったカグツチのボディは漆黒となり、関節と手の甲の水晶玉からはマグマが噴出し始めた。
「これは……」
「シン・カグツチ……プログラム・シンによって、一時的な強化形態に移行したカグツチの姿だ--ふぅっ」
変貌したカグツチの説明をする裕樹は、汗びっしょりとなっていて少しだが疲労が浮かび上がっていた。
龍星も、裕樹の疲労した姿は最強同士の戦い以外では見たことがない為、面食らってしまう。
「--大丈夫か?」
「ああっ、大丈夫だ……プログラム・シンの起動は、このマスターと電子召喚獣との一定値以上の共鳴が条件で、その共鳴は精神的な負担がでかいんだよ」
「共鳴……成程、東城が新たな境地と言っていたのはこの事か。しかし」
龍星はカグツチに目を向ける。
翼が生え、竜の鱗は甲冑のような形状となり、腕にはマグマを吹き出す水晶があり、二の腕には剣のような突起があるという形態。
勿論形態変化だけではなく、相当なパワーアップをしたことは見てとれた。
「じゃあその、プログラム・シンを、りゅー兄ちゃんも使えるようになったってっ事?」
「そう。呼ぶなら、真・煌炎って所か」
「シン・スフィア、シン・エンブレム。そして、プログラム・シン……か」
『ニャー』
煌炎はシン・カグツチを見て、更には龍星の水晶玉と自身のバンダナを交互に見て、目を輝かせ始めた。
その横では、ヤマトが不服そうにしている。
「しかし、何故煌炎だけに?」
「プログラム・シンはその性質上、2体1対型でも1体にしか使えないんだよ。それに電子召喚獣もある程度の強さが条件だから、ヤマトはプログラム・シンの条件を満たせなかったんだろ」
「成程」
裕樹がベンチに座り、コーラ2リットルペットをがぶ飲みしたのちに--ふうっと一息。
「さ、試してみなよダンナ。俺も真・煌炎の姿には興味があるし」
「ああっ。確か……プログラム・シン、起動!」
龍星が先ほど裕樹がやったようにし、シン・スフィアを起動する。
煌炎のバンダナが輝き、その輝きがつながったと同時に--
「!!? ぐっ、なっ、なんだ……!?」
『にゃっ!!? がっ、がるるあああっ!!?』
龍星と煌炎の様子が、明らかに重圧や苦痛といった、重度の負担がかかった物に変わっていく。
「拙いな……カグツチ!」
『ガルッ!』
シン・カグツチが二の腕のブレードにマグマをまとわせ、繋がった輝きを遮断。
裕樹も龍星のシン・スフィアを持つ手を蹴り上げ、スフィアを手元から飛ばしてキャッチ。
途端に、ガラスが砕けるような音が鳴り、煌炎は倒れ龍星も膝をつく。
「はっ……はっ……ぐっ、く」
「第一段階の繋がりだけでも、達成は難しい。さらに強い輝きを発する第2段階と、それを受け止める第三段階--それを経て初めて、形態シンは完成する」
「第一段階で、これだけの負担が……険しいな」
「無理ないさ。使えるのは俺達4人以外じゃ、水鏡のお嬢さんと大輔。それとティナと辰美位なんだ」
「……特訓するか」
「肉体的じゃなくて、精神的--これが俺から出せるヒントだ。じゃ、俺はそろそろ」
「ああっ」
そういって、裕樹はその場を後に--
「ねえユウ兄ちゃん。そんなものをどうしてその、東城って人が?」
「プログラム・シンは元々、御影や四神と言った学園都市関係間の特別な家系だけが持ってる、特殊なD-Phoneでしか使えない技術だったんだ。それを東城が共鳴って形で解決し、普通のD-Phoneでも使えるようにした関係だろ」
というわけで、今回登場した新設定、プログラム・シン。
機能の都合上、使える人は武闘派でも上位、と言う事でこちらで指定させていただきます。
現時点では、龍星は今回から練習中。
ティナと辰美は使え、他の四神はまだ練習中という段階とします。
勿論、出す予定はありますよ
とりあえず、形態シンはどんな姿がいいか。
GAUさん、LAN武さん、リクエストあったらお願いします




