PV撮影に潜む影(2)
--その次の日。
食事と身支度をすませ、保安部に出向こうかという時分。
その際、何気なく見たニュースが、龍星の目に留まった。
「……初等部の誘拐?」
それも1件2件ではなく、2桁以上の物が昨日の内に行われたという。
龍星の脳裏に、昨日の事件がよぎった。
「--まさか」
偶然とは思えないこの事件に、急いで調査許可を得るべく保安部へ--
「おはようございます」
赴こうと外へ出たと同時に--牛乳とパンを食べてる、東城太助が出迎えた。
「……お前手配犯だって自覚在るのか?」
「ありますよ。だからこの寮のセキュリティを把握して、僕を認識できなくしてからこうしてるんですから」
「--まあいい。お前の相手をしてる暇はない、俺は……」
「初等部の誘拐なら……ひはふふへほひいへ」
「口に物を入れてしゃべるな行儀が悪い」
パンを食べながらの会話だったため、太助は牛乳で流し込んで一息。
「むぐむぐごくんっ……手を引いてくれませんか?」
「それはどういう意味だ?」
「--朝霧君の妹が狙われたと聞いたんで、調べたんですよ」
「……それで、一体どこの誰が」
「僕は手を引けって言ったんですけど」
そう言いつつ、太助はため息をついて、龍星も何度も見た愛用のタブレットを取り出した。
龍星もそのタブレットを見ては平常ではいられず、表情を引き締める。
「随分と危険視しているようだな。なら猶更……」
「そう言うとわかってるから、こんな手段に出なきゃならないっていうのはわかってほしいんですけどね」
タブレットに手を当てる太助に、龍星は一挙手一投足見逃さんと警戒態勢をとった。
しかし、その警戒体制とは裏腹に……龍星の足元から何本もの布が伸びてきて、龍星の四肢を縛り上げてしまった。
「しまっ……!?」
龍星の四肢を拘束したのは、あの体育祭時に裕樹を捕らえたあの布。
大型の電子召喚獣を捕らえる為の物だと言っていた為か、龍星がもがいてもびくともしない。
「こうなレバ……」
「させませんよ」
龍星がバーサクモードを発動させようとしたその時、太助が距離を詰めて流星の眼前に手をかざし、そっと額をなぞった。
すると……
「バーサクモードが……東城、何をした!?」
「バーサクモード鎮静作用をタトゥーとして、額に刻んだだけですよ」
そういって、太助が手鏡を取り出して龍星の眼前に突き出す。
鏡には、確かに龍星の額にタトゥーが刻まれ、バーサクモードを展開することをあきらめると、そのタトゥーは消えていった。
「……そんなものを」
「……ただの足止めや妨害だけの為に、九十九や剛を差し向けた訳ではありませんので」
龍星は太助を調査するうえで、椎名九十九や鮫島剛と何度も相対し、バーサクモードの展開を余儀なくされることなど何度もあった。
経緯に思い至った所で、太助が拘束を解除した。
膝をついた龍星は太助をにらみつけるが、その後方に鮫島剛が控えているのが見え、ぎりっと歯を食いしばる。
「どういうつもりだ?」
「もう無理に拘束する必要はない--それだけの事です」
「なぜ、この事件に関わる事を拒む?」
「この件は、朝霧君の手で解決されるべき事だからです」
そう言うと太助は指を慣らした。
その音に呼応するかのように--。
「--煌炎!?」
「久しぶりだね、煌炎。元気だった?」
『ニャーッ』
「よしよし……プレゼントを持ってきたよ」
そう言うと太助は、愛用のタブレットに手を置いて、その画面からデータを具現するように1枚のバンダナを取り出し、それを煌炎の首に巻いてやる
そして次に龍星の方に、水晶玉のようなものを取り出してそれを放り投げる。
「……なんだこれは?」
「煌炎のバンダナ共々に、最強4人の誰かに見せてみればわかるーー手荒な真似をしたお詫びですよ」
「言っておくが……」
「貴方は少し落ち着きを持った方がいい--いざとなれば押しの一手ならぬ暴走の一手じゃ、この事件は絶対に解決できない」
太助に手渡された水晶玉、そして煌炎の首に巻かれたバンダナ
それらを交互に見て、ため息をついた。
「……あいつらのうちの誰かに、だな?」
「ええ……それを使いこなせるようになったとき、新たな極地が開けるでしょう」
「ああっ、開いてやろう」
「? なんか急に、随分と聞き訳が良くなりましたね」
「お前の事だ。何か考えがあるんだろう……こうなっては仕方ないから、乗ってやるまでだ。それで……」
「それを使いこなせたときに、そのタトゥーは取ってあげますよ……さて、僕はこれで」
「--おいおい東城センセー、良いのか?」
「良いの--それとも、僕の判断が信用できない?」
「いんや、俺はセンセーの忠実なシモベだからな」
「仲間だよ--人間の僕や道具はいらない。必要なのは仲間だけさ」
「……俺、センセーに出会えてよかったわ」
「なんだよいきなり?」




