選択肢2.みなもに目を向けた
「みなも、楽しんでる?」
「あっ、裕樹さん。はい、楽しんでますよ」
裕樹はみなもに声を掛けた。
「ユウ兄ちゃん、みなも姉ちゃん、これおいしいよ」
「あっ、ありがとう裕香ちゃん」
「じゃあ貰おうかな」
裕香がピザをもってきて、裕樹とみなもはそれを一切れ手に取り、一口
「こういうの、良いですね」
「まったくだ--というわけで」
裕樹が隠し持ってた包みを2つ、裕香とみなもに差し出した。
「はい」
「?」
「それは?」
「クリスマスプレゼント」
裕香とみなもが、裕樹からプレゼントを受け取った。
裕樹が頷くのを見て、2人は包みを開けて中を取り出した。
「わあっ、新しいスケブと、色鉛筆」
「色んな色のリボンと新しい櫛だ」
「--よかった。気に入ってくれるかはちと心配だったんだよ……何せ女への贈り物なんて、花以外にしたことないから」
空気にひびが入った。
「……いきなり雰囲気壊さないでください」
「え? 花って言ったって、受章祝いとか誕生祝いとか」
「はい、それはよーくわかってます。何せ裕樹さんですから」
「……みなもの白い眼が痛い」
裕樹が顔を反らし、みなもがため息をついて仕方ないかな--と思った矢先。
「音楽?」
「そういえば、ダンスホールでダンスやるって聞いたな」
「ユウ兄ちゃんはやったことあるの?」
「いや、やり方は知ってるけど流石にやった事はないかな。大抵見てるだけだったから」
なんとなく、周囲の視線に気づきもしない裕樹の姿が、みなもには容易に想像が出来た。
デリカシーや女性の機微に関しては、致命的に欠損がある割に裕樹は女性に人気があるのである。
「じゃあみなも姉ちゃんと踊ってみる?」
「ひぇっ!?」
「それは良いけどな。龍星のダンナに芹香は勿論として……」
「えっ? あたしらも踊るのかよ」
「性に合わない事はわかってるよ。でも……僕だって綾香とこんな時間を過ごしたいってときもあるんだ」
「んだよ、こっ恥ずかしい奴だな……今回だけだぞ」
「“あの綾香”に鷹久も踊るみたいだし」
「……何気に失礼れしゅよ」
--所変わって、ダンスホール。
「おい、あれ……」
「朝霧さん……じゃあ、あちらの方が」
裕樹とみなもの2人は、その場で一番の注目を集めていた。
「落ち着いてな? みなも」
「きっっ、ききききききききき」
「……ダンスは初めてなんだけど、緊張もこれ見たら吹き飛んだな」
注目を浴び、がくがくとロボットみたいな挙動で、壊れたテープレコーダーの様な声を出しながら--
みなもは裕樹に手を引かれ、ダンスの輪に入っていく。
「流石に、ダンスなんて……緊張するな」
『大丈夫だよ、リードしてあげるから』
「リードって……」
『心配しなくても、こういう場じゃ仕事としてで一条総書記としか踊ってないよ』
「……芹に周囲が嫉妬してる光景が目に浮かぶな」
『さ、りゅーくん……夢の時間の始まりだよ』
右隣に龍星、芹香ペア。
「たまには仕事としてじゃなくて、こういうのもいいよね」
「--仕事で十分だぜ……まあ、タカの気持ちは嬉しいけどさ」
「たまにはこういう格好もつけさせてよ--レディ」
「--普段なら笑い飛ばしてるだろうけど、今はむずがゆい」
左隣に鷹久、綾香ペア
「……なんかこの純度100%の甘ったるい空気に挟まれて、押しつぶされそうだ」
なんて裕樹がつぶやくと、それを合図にしたかのようにダンスがスタート
照明が消え、吹奏楽の楽団が演奏をはじめると、スポットライトがそれぞれを照らす。
裕樹が手を差し伸べ、みなもががちがちな動作で裕樹の手を取り、軽くステップを踏み……
「ほほほほほほほわきゃっ!!?」
見事に足をもつれさせ、躓いた。
とっさに裕樹がみなもの肩と足に手を回して、そのまま抱き上げ--。
『おおおーっ!』
みなもの声で周囲が注目する中、2人はお姫様抱っこの体制に移行した。
吹奏楽の演奏が止まり、スポットライトが申し合わせたかのように集中して、みなもだけでなく裕樹も動揺し始めた。
「なっ、なんで演奏止まってんだ!? しかも、スポットライトが俺達に集中してる!!?」
「ひゃっ!!?」
「……やってくれるなあ、裕樹も」
『そっ……そう、だね』
「意外とやるなあ、ユウさんも」
「うんっ……ちょっとドキドキだね」
この珍騒動は、後の学園都市のクリスマスイベントにおける語り草になったという。




