食の祭典の手引き(1)
学園都市においては、あらゆる分野は催事に繋がっている。
例えば、学園都市食品衛生管理課においての場合は……
「……すごいなあ」
時折、一般家庭では御目にかかる事がまずない。
それこそ職員である支倉ひばりも、実物を見るのは初めてになる、あるいは存在自体初めて知った事も1度や2度ではない位の、希少な高級食材が搬入される事がある。
そして、それらの食材は例外なく……。
「この量から言って、今回は賞品かな?」
「そうよ。だから支倉さんの今日の検品は、主催者側で用意する食材の検品ね?」
「わかりました、班長」
学園都市興行委員会との連携で行われる催事の賞品、あるいは課題食材として使われる。
これは学園都市の方針として、志す者としての意欲を刺激するための措置であり、料理以外の分野でもとられている。
「風華、そっちお願いね」
『ピピッ!』
白鳥型電子召喚獣、風華。
その能力は毒物除去であり、あらゆる毒性を除去出来、食材の殺菌消毒を行える為に、職場では重宝されている電子召喚獣である。
「風華、こっちはもう良いからあっちを……」
『ピッ!(ぷいっ)』
「もうっ、どうしてこんなふうに育っちゃったのかな?」
……が、その性格は主人には似ても似つかぬ唯我独尊であり、ひばり以外の言う事を聞かなければ、ひばりが命じても他の人の手伝いをやろうとしない為、悩みのタネであった。
仕事が終わり、仕事帰りにて。
「……今回はどうしようかな?」
ひばりは今回催されるであろう催事に、出場するか否かで悩んでいた。
どちらかと言えば栄養士方面志望のひばりではあるが、その例外に漏れる事無くどうしても調理してみたい食材の場合、無理を押してでも出場する事もある。
そうでなくても、この食材を誰がどのように調理するか見る為に、後輩の朝倉歩美と一緒にそれらの大会は欠かさず見に行っている。
「ひーばり♪」
「ひゃあっ!!?
そこへ突如、誰かに後ろから抱きかかえられ、背と頬に柔らかな感触が。
「ん~♪ やっぱりひばりのほっぺは柔らかいわあ♪」
「ちょっ、もうっ! やめてくださいよ月さん!」
ひばりが頬ずりと抱擁から暴れるようにして抜けだし、ぷりぷりと怒ってますと言わんばかりに頬を膨らませ、抱き上げ頬ずりまでして来た女性を叱りつける。
花柳月。
既に医者としての資格を幾つも所得している、学園都市医学科主席の才女である彼女は、個人研究の為に食品衛生管理課を訪れる事がある程、熱心な研究者でもある。
ひばりとしては、栄養士を志す者として尊敬でき、更には大人の余裕を醸し出す雰囲気を纏う美人であり、そしてひばりも今まであった中で、一番のスタイルの良さを持っていることから、彼女を心の底から尊敬していた。
「も~っ、折角ひばりんの匂いと感触に浸ってたのに」
「だから、そう言うのやめて下さいって何度も言ってるじゃないですか!」
「やめてるじゃない、その身長に不相応な……」
「ユ・エ・さ・ん!」
「……ごめんごめん、ちょっと調子に乗っちゃった」
ただ、ひばりの様に気に入った女生徒に所構わず抱きついたり、堂々とセクハラを行う等の、性癖に問題がある困った人でもあった。
最もキチンと男性にも興味があり、ひばりの同級生である久遠光一にぞっこんであると言うのは、学園都市に置いて常識とも言えるほどに周知の事実である。
「それで、今日はどうしたんですか?」
「新しい栄養食の献立の為に、資料を借りる許可をもらいに来たの。栄養に関する事なら、ここに来るのが一番だからね」
「……お願いだから、普段からその真面目な雰囲気で居て下さい」
「心配しなくても、医者としてとか研究者としては常にこうよ?」
「だから、普段からそうあってください」
勿論、仕事時にそう言った面を出す様な事はせず、きりっとした真面目で堂々とした、ひばりにとっては理想的な姿を見せる為、そのイメージを壊さないで欲しいと言うのがひばりの切実な願いだった。
「それはそれとして……ちょっと面白い話聞いたんだけど、良い?」
「……何が、ですか?」
「今日の搬入、珍しい食材が入ったそうじゃない? だからどうするのって思ってね」
「今はちょっと、考えてる所です」
「ふーん……出るんなら、先輩としても個人としても、応援するからね」
そう言ってにっこりと笑って、踵を返して帰って行った。
「……あの性癖さえなかったら、理想的なんだけどなあ」
そう呟いて、ひばりも帰路に。
「あっ、ひばり先輩」
「歩美ちゃん。屋台はもう終わり?」
「はい。それで先輩、今日はですね……」
「? 何か作って来てくれたの?」
一先ず、自身を慕ってくれる後輩の相手をしてからにしよう。
ひばりはそう思い、歩美と共に帰路についた。




