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痛みの記憶(後編)

今回も結構難産でした

何度も書き直しては構想を練り、書き直しては構想を練り……です


裕樹とみなもの甘えん坊日和みたいな感じ、早く出せたらなあと思います

「……んんぅっ……」

 その内の1つ、裕香が身じろぎをして、裕樹の胸に顔をこすりつけた。

 --いつも見る甘えん坊のそれではなく、怯えが見て取れるように震えながら。

「--あれから一週間、か」

「無理ありませんよ。裕樹さんがあんなことになって、一番苦しんだのは裕香ちゃんなんですよ」

「……裕香が笑って見送ってくれたあの時が、酷く懐かしく思えるよ」

 そういって裕樹は、少し躊躇う様に痛む右腕で裕香の背を撫でて--改めてひばりと向き合った。

「--いや、あの時だけじゃない。ここ最近思い出すのは、裕香が楽しそうにしてる時の記憶ばっかりだ」

「……気持ち、わかります。あたしも裕樹さんがああなって、裕香ちゃんがショック受けて泣いてる時」

「そっか……傍にいてやってくれて、ありがとなひばり」

「--ただ、それだけですよ」

 ひばりの脳裏には、自身の肩に顔を埋めて泣きじゃくる裕香の姿が思い浮かんだ。

 更に言えば、DIEシステムの人体実験関連は、学園都市でも裕樹の暴走が“初めて公になった”事件である。


 “ユウの身体だから、入院程度で済んだ”


 というのが、月からの裕樹の容態に対する意見。

「……“ただ、それだけ”か。自然にそう言えるひばりは、十分いい子だと思うよ」

「よしてください。裕樹さんなら、あたしにそんな事を……」

「言うべきことだよ--裕香が笑っているその隣には、必ずと言っていいほどひばりがいる」

「それは裕樹さんにも言える事です」

「だから言ってるんだ。俺じゃ善人として……ひばりで言う良い子として出来る事なんて、たかが知れてるんだから」

 “たかが知れている”

 その言葉を聞いて、ひばりの表情が変わった。

「--なんで、そんな事を言うんですか?」

「俺は裕香や宇宙がいなけりゃ、良くて野蛮人、悪くて悪魔……そういう風に生まれたからだよ」

「あれは裕樹さんの意思じゃないでしょう?」

「違う。もっと前から--大体、保安部クビになってフリー稼業始めたばっかの頃から、自覚してたことだ」

「じゃあなんでこんな話を今するんですか?」

「さっきも言ったけど、俺は裕香や宇宙とのつながりがなきゃ、善行なんて出来ないからね--俺は改めて、裕香の兄としてそういう本質と向き合わなきゃいけないって、そう思ったから」

「……それを、何故あたしに?」

「--その為の提案なんだけど、一度お互いの在り方を一緒に考え直してみないかな? 俺はこの様で、ひばりも今回の事で何か思う所の1つ位あるだろ?

「……確かにあります」

 そこでひばりは、裕香に目を向ける。

 あれ以来、裕香が片時たりとも裕樹から離れる事を嫌がるようになったのは、ひばりもよく知っている事。 

 風呂やトイレなどは、流石にひばりが裕香を宥めながら待つのが常だが--その度にすすり泣くのが、ひばりにはひどく重圧だった

 暴走した裕樹のあの姿のインパクトはひばりも重々承知している為に、確かにこれは裕樹一人では手に余るとひばりはどこかで納得していた。

「……」

 ただ、歯止めをかけている自分と、放っておけない自分--その2つが、ひばりの中で秤に掛けられていた。

「裕香に慕われてる事が、どこかでジレンマにでもなってるか?」

「--そう、かもしれません」 

「つくづく難儀だな。そんな深すぎる闇が、その小さい身体の割にはでかい胸に詰まってるなんて……」

「……ゆ・う・き・さん?」

「え? --えっと、ごめんなさい?」

「疑問形で謝らないでください。もうっ……わかりました。提案、受けさせてください」

 すぐに了承してもらえるとは思ってなかったため、裕樹は露になってる左目を見開いた。

「--どの道、今のお2人を放っておけません」

「そっか……なら改めて」

 握ったままの左手を、ひばりは握手の形に変えて--

「よろしく、お願いします」

「ああっ……一先ず、裕香の笑顔を取り戻すために」

「はい」


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