甘えん坊日和(病室にて)
「……どう、ですか?」
「……まだ、かな」
裕樹の容態は、いい方向に向かっているとは言えなかった。
一週間たってなお止む事がない痛みは、人体実験同然の手段で刻まれた傷の深さを示している。
「……」
無論、傷を刻まれたのは裕樹だけではなかった。
裕香は裕樹から片時も離れることを嫌がるようになり、寝る時も一緒にと病院に留まる日々を繰り返している
特に顕著なのが、人目をはばからずに裕樹に抱き着くようになっていた事。
誰かが見舞いに来たときだろうと、裕香は裕樹に抱き着くのをやめようとしない。
それこそ、普段の甘えん坊な一面はなりを潜め、怯えるようにそうしている。
「よいしょっと」
「あっ、裕樹さん」
「ちょっとト……」
「裕樹さん、下品な発言は控えてください」
ある程度裕樹を理解してるみなもには、ある程度の予測はすでにできるようになっていた。
「--はいはい」
「……」
「裕香、ちょっと離れ……」
「や」
「あのな裕香」
「や」
抗議するように、裕香が裕樹に抱き着く腕に力を籠める。
「ねえ、裕香ちゃん。おいで」
「……」
「ちょっとだけだから、ね」
「……わかった」
裕樹からしぶしぶ離れて、裕香はみなもに抱き着いた。
みなもが裕香の背を撫で、あやすように頭も撫でてやる。
「--すぐ戻るよ」
「できれば、お願いしましゅ」
一応足は浸食された訳ではなく無事なため、1人で歩くくらいは出来る。
震えてる裕香を宥めながら、裕樹を見送り--次はすすり泣く裕香を宥め始めた。




