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波乱の学園都市(1)

 学園都市は内外共に、苦境に立たされていた。

「--対外的な評判は、随分と打撃を受けたようだ」

「仕方ありませんよ。外部に漏れる事はなかったとはいえ、事が事である以上は」

「特に朝霧裕樹ともなれば猶更です。被害は決して小さいとは言えませんが、それでも僥倖としか言いようがない」

「ああっ……俺の立場で言う事じゃないが、東城には感謝せずにはいられない」

 理事会も生徒総会も連日、内外共に問題を抱えることになった現状に頭を悩ませていた。

 水鏡グループからは多額の賠償金が支払われ、主犯となった者達は実家諸共にかなりの処分こそ下された物の……

 それでも、それらが起こした事態は重い。

「……件の情報サイトの発信源はつかめたのか?」

「それが、随分と厳重に保険を掛けている様でして、来島アキをもってしても尻尾がつかめない現状が続いてます」

「最近じゃ保安部もそのサイトの影響で、椎名九十九の思想を支持する派閥が出来たらしい。北郷に対する不満も、目に見えて高まる一方らしい」

「--今北郷君に退陣されては、余計に学園都市内の混乱が助長されてしまいます。そこで生徒総会総会系、天草昴の名において、こちらの独自の調査に彼を出すことを提案します」

「……つくづく情けない。ユウがいないってだけで、この様だなんて」

「同感だ。かつて生徒会が、水鏡に言われるがままに追い出しておきながらだ……現状では、皮肉としか言いようがない」

「--大神君、問題発言だよ」



 学園都市は荒れていた。

 朝霧裕樹の変貌には、水鏡グループが関与している。

 そんな情報が出回り、水鏡系列の店舗に暴行目的の襲撃や暴動が起こるようになっていた。

 それにより治安が悪化し、更には追い打ちをかけるように保安部の対応に対する不満が表立つようになり……

「北郷正輝のやり方は甘すぎるんだ!」

「何が人道、何が善意! 必要なのは優しさではない、厳しさだ!」

「保安部に力を! 正しき法の力を示せ!」

「愚民の奴隷ではなく、正義の鉄槌として保安部に変革を齎せ!!」

 保安部内に過激思想が芽吹き始め、椎名九十九の意を組む派閥が勃発。

 取り締まりの強化と銘打った、度を越えた暴行が見せしめとして相次ぐようになり--。

「やめろ! いくら何でもやり過ぎだ!!」

「これはこれは中原隊長、越権行為は感心しませんね」

「越権? ふざけるな。私刑が権限として認められる訳がないだろう!」

「私刑ではなく、見せしめですよ。謝罪を現すには、真っ赤な鮮血の色こそがふさわしい」

 中原大輔の指揮する部隊の様に、北郷正輝を支持する一派や……

「何してやがる!!」

「なんだ? 痴漢に対して罰を下していただけだろう」

「罰って、ふざけんなよ! いくら何でもやり過ぎだろう!!」

「単なる見せしめだ。両腕と歯をへし折った位で喚くな」

 夏目綾香の様に、曲がった事を嫌うフリー稼業者との衝突が目立つようになっていた。

 その影響は、決して小さいものではなく……

「……屋台通り、すっかり寂れちゃったね」

「うん……取り締まりが厳しくなって、どこも営業が出来なくなっちゃったから」

「あたしも……最近の入荷は非常食とか病院食ばかりだよ」

 屋台通りにも、大きく響いていた。

 つぐみとみなものサークルをはじめとして、どこもかしこも営業が厳しくなり廃業。

 今では屋台経営どころか、人通りもかつてとは比べるまでもなく寂れてしまっていた。

 ひばりの所属部署でも、料理系のイベントや店舗経営が滞るばかりの為に、入荷内容は単一化してしまっていた。

「……世も末だ」

 屋台通りだった、今はさびれた路地を見回し--龍星はため息をついた。

 その横には、授業を終えた帰りのつぐみとみなも、ひばりは寂しそうにしている。

「そこでなにしてる?」

 振り向いてみれば、保安部員--それも、服に血の跡がついている人間が、訝し気にこちらに来ていた。

「何って、思い出話を……」

「はあっ? 確か屋台通りだっけ? そんなごみダメで思い出だあ?」

「--そんな言い方ないでしょう!」

「--そうれしゅ! ここにはみんなで楽しく過ごした思い出が……」

 みなもたちの言葉は、突如保安部員と龍星の取っ組み合いで途切れた。 

「--お前、今何しようとした?」

「市民の分際で保安部にたてついた罰をあたえようとしたんだ」

「それが保安部のやる事か!」

「やる事だ! 俺達が理想とするのは、北郷正輝の理想論じゃねえ! あの体育祭での朝霧裕樹の様な、絶対的勝利だ!!」


 ブチッ!


「--フザケルナヨ!」



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