波乱の学園都市(プロローグ)
「見舞いに来たぞ、裕樹」
「ようっ、龍星のダンナ」
「やっほー、りゅー兄ちゃん」
「--しかし、意外だな。あのしっかり者の裕香ちゃんが、裕樹にそこまでべったりになってるなんて」
裕香は裕樹の入院以来、人目も憚らず裕樹にしがみつく様に、片時も離れなくなっていた。
最も、裕樹が元に戻ってこの病室に駆け込み、大泣きしたことは皆既に知ってるため、誰1人として何も言わない。
--ただ、裕香は龍星にそう言われて苦笑いだった。
「まあ、無理もないか。芹から聞いたが、家でも随分ショック受けてたって」
「わかってるよ。裕香には嫌なもん見せちまった……俺に挑戦したいって奴らにも、俺は」
「すまん。失言だった--ただ、生徒会でもお前の処遇は意見が分かれてるし、お前にやられた奴らも異常変貌してた以上は明白だったから」
「いや、いいさ--どういう経緯であれ、俺がやった事だ」
「そうか……なら、俺からは特には何も言わないでおく。てか……」
龍星がふと、裕樹が呼んでるある本(芹香の差し入れ)に目を向けた。
「誰の差し入れだ?」
「芹香のだ」
「そうか、まあがんばれ」
「……自然に会話を進めるなよ。で、さっきから気になってたんだが、その傷は?」
「……」
「がはっ!!?」
稽古として、正輝と一戦交えた龍星。
しかし--バーサクモードを展開してなお、正輝の拳の前に完敗を喫した。
「ここまでにしましょう。榊さんが動けなくなっては、こちらとしても痛手だ」
「--すまんな」
「……あの変貌した朝霧の所業は、内容こそそれぞれ違えど、我等3人にも出来ることです」
「正輝?」
「貴方も、それを忘れる事なきようお願いします」
「--ちと仕事で、不覚をとってな」
「へえっ、珍しいな。龍星のダンナともあろう男が」
「今回の事件、俺もいろいろと思う所があっただけだ。もちろん俺だけじゃなく、他にも」
「……そうか」
「まあお前はゆっくり養生して、裕香ちゃんをしっかり安心させてやれ」
「わかってるよ」
カチャッ!
「あら、榊さん」
「おおっ、水鏡のお嬢か。それは?」
「花瓶の花を取り換えて参りました」
「--ま、この2年の溝を埋めるいい機会もな」
「そのつもりだ。退院してからが頭痛くなりそうだけど」
「お前は養生してろ。余計な心配しなくていい--じゃあ俺は仕事があるから、これで」
実際、その懸念は大当たりであることを龍星は知っていたが、あえて黙っておいた。
体育祭後の学園都市には、朝霧裕樹の変貌事件と不在の影響が大きく響いていた為に。
「--裕樹がいないってだけで、この様とはな」
朝霧裕樹の変貌事件に、水鏡グループが関与している
--という情報が流れ、あちこちの水鏡グループ系列の店舗や企業の、暴行目的の襲撃事件多発。
そして、保安部機動部隊にそれらの事件に対する対応への不満から、椎名九十九の思想を支持する派閥が誕生。
度を越えた暴力が目立つようになり、生徒総会でも目に余る事態を幾度となく起こしている。
その派閥を仕切っているのが、機動部隊隊長の1人で龍星のバーサクモードにも対応できる実力者である。
「とにかく、裕樹が養生してる間に何とか片さんとな。さて……どちらから手掛けたものか」




