学園都市生徒総会総書記秘書 瀬川芹香
生徒会総会長、井上大和。
学園都市理事会理事長、井上弥生を祖母に持ち、周囲から将来を期待されている……のだが。
「……えっと次は」
頬はこけて目は充血し、その下に隈がベットリと存在を主張。
顔は完全に、来訪した初等部役員全員が泣き出すような顔になっていた。
「……」
自身の企画した、学園都市全体規模を使った一大イベント。
それが朝霧裕樹を陣に敵に暴走させられ、最強の力が暴力として使われたら--そんな最悪を表明する結果となってしまった。
結果胃を壊し、無理を押した仕事を重ね、眠れぬ日々を過ごしていた。
『……大丈夫、ですか?』
「……要件は何だ?」
すでに余裕など微塵もないのか、苛立ちが表面から溢れるような表情を芹香に向けた。
芹香が涙目になってるのに気付き、頭痛薬と胃薬の錠剤を急いで飲み込んだ。
「……すまない」
『いえ……あの、少し横になった方が』
「うるさい。今は時間が惜しい、報告じゃないならさっさと……がふがふっ」
掻き込むようにして錠剤をのみ込み、芹香は現状一緒にいた方が危険と判断し、要件を手渡す
『……えっと、こちら一条総書記からの報告書です』
「そうか……ありがとう。それと、本当にすまな--ぅぅっぷ」
『謝るくらいなら、せめて横になってください』
「仕事が溜まってるんだ。寝る暇も惜しい」
『--以上です』
そう報告した芹香の表情には、心配と疲労が浮かんでいた。
勿論宇宙も、仕事の量が増え疲労の色は日に日に濃くなっている。
「すまなかったな、嫌な役割やらせて」
『いえ、それはいいんです。皆大変な時期ですから』
「ただ、わかってやってほしいのは……」
『彼は理事長の孫として、生徒総会長として、責任を果たそうと必死になってるだけ--と言う事なら、理解はしています』
「ならいいんだ--それで、次の仕事だけど」
「--で、次は俺かよ」
『立場としても友人としても、一条総書記にとって朝霧さんは必要な方ですから」
所変わって、裕樹が入院している病院。
いまだに右目右腕首と、びっしり包帯がまかれている。
「どうぞ、芹姉ちゃん」
『ありがとう、裕香ちゃん』
横では裕香がリンゴを剥いていて、芹香に差し出してそれを受け取った。
「……心配はしてたけど、井上はやっぱそうなってんのな」
『焦らないでくださいね』
「焦るなというより、焦れないけどな。これじゃ」
『まだ、痛むんですか?』
「ああっ。走る事も跳ぶ事もままならないだろうし、右腕だってこれじゃ芹香相手にも腕相撲で勝てる自信ない」
そう言って裕樹は、無事な左手でまだ剥いてないリンゴを手に取り、近くのコップの上で--。
ぐっと力を籠め、ぐしゃりとリンゴがつぶれた。
『……よほど右腕、痛むんですね』
「ああっ……それ以外もこの通り、すっかり鈍っちまってる」
『……この通りって、どの通りですか』
「いつもならちっと力籠めれば潰れたんだけど、今のは1秒ほどタイムラグがあった」
『……わかりませんよ』
「そう?」
芯までぐしゃぐしゃにつぶれたリンゴをゴミ箱に投げ捨て、裕樹は手を拭い手製リンゴジュースを啜る。
『それはそれとして、退屈でしょうから差し入れとして、本を一通り見繕って持ってきました』
「おっ、そりゃ助かる……んだけど。なあ芹香、これ一体どういうチョイスだ?」
“男性が女性に最低限弁えるエチケット”
“女性の心理解説、女性の喜怒哀楽理解の心得”
“女性が不快だと感じる男性の言動100戦”
『では時間が押してるので、失礼します』
「……おーい」




