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甘えん坊日和(事件後)

「……本当によかったれしゅうっ」

「--泣くなよみなも」

「なぎまずよぉっ……だっでぇっ、ゆうぎさんがあんな……」

 芹香を通じて、生徒会から裕樹が元に戻ったと連絡を受け--

 真っ先に飛び込んできた裕香といっしょに、裕樹に抱き着いて大泣きした次の日。 

「……確かに正直、ぞっとする。何があったかなんて、血の匂いと感触位しか覚えてないけど」

「--嫌な記憶れしゅ」

「もしかしたら朝霧裕樹として、裕香やみなもと一緒に居られなくなったかもなんて」

 裕樹は昨日から抱き着き、離れようとしないどころか嫌がるようになった裕香の頭を撫でーー

 その左手を少し迷うような間を置いてみなもに差し出すと、両手で包むように添えた。

「--どうしたんですか?」

「いや……今、手の血の感触を思い出しちまっただけ」

「血の……」

 血という表現で思い出すのは、変貌した裕樹が行った虐殺劇。

 死人こそ出てはいない物の、ほぼ全員が一か月近く入院を余儀なくされた、学園都市でも屈指の黒歴史として数えられるだろう事態。

 裕樹の服は血塗れだったという話であり、血の感触と言われれば妙に納得させられた。

「--そんな事言わないでください」

「みなも?」

「今の裕樹さんはもう、あんな事はしないでしょう? --だったらそれでいいんです」

「……敵わないな。みなもには」

 みなもは浸るように手を添え、満足したのか手を離す。

 裕樹は所在投げに手をそのままにしていたが、裕香の背を撫でてやることにした

「なにか食べたいものはありますか?」

「コーラと焼き肉」

「ケガ人だって自覚在りますか?」

「……食えねえのはわかってるけど、食べたい物と言えばやっぱ」

「退院したら裕香ちゃんと一緒に腕を振るいますから、我慢してください」

 普段の調子に戻った裕樹に、みなもは苦笑しながらリンゴと果物ナイフを手に取ってリンゴを剝き始める。

 それをウサギの形にすると--

「はい、あーんしてください」

「いや、自分で……」

「ダメです。絶対安静だって言われてるんですから」

「だったら裕香を……」

「お医者さんには許可もらってるから、裕香ちゃんはいいんです。さ、あーん」

「……」

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