怒りと嘆きの輪舞(6)
武器においては凪の棒術と裕樹の剣戟、格闘戦においては凪のテクニックと裕樹のスピード
学園都市最高峰のハイスピードバトルと言われる接戦に、周囲は見入っていた。
--余談だが、この2人の戦いは学園都市女子生徒注目の好カードとされている。
「はあっ!!」
凪が作った隙をついて、正輝の一撃必殺の剛拳。
「うおおおっ!!」
あるいは、王牙のラリアットをぶつける。
凪が押されるようなら、正輝が割って入って防御。
剣なら白刃取り、蹴りなら拳で打ち払うと、一撃必殺と称される拳でやるだけに頑強な防御となる。
そこから体勢を崩すと、続くように王牙の固め技で体力を削る。
「--1つ1つとっても、俺達じゃ到底出来そうにないな」
「違いないですね……僕もあれを見ると、北郷さんに相対して無事でいられる自信がなくなりました」
「んだよタカ、そんな弱気なーーまああたしも、凪さん本気じゃなかったんだってつくづく痛感させられたけどさ」
「とんでもない世界やなあ……」
「違いない」
「……あの戦いに、怜奈さんは通用するところまで」
そんな会話を交わす先では、裕樹が王牙の卍固めに捕らえられ--
「大人しくしろ、朝霧!!」
力任せではなく、しっかりとポイントを決めているため、脱出は困難。
しかし裕樹は、固められる寸前に足を抜いてブンっとバク宙して抜け出し、さらには王牙の背に踵落としを--。
「させん」
繰り出す寸前に、凪が横から金剛武神如意でカット。
更にはその上に、棒から伸びた腕で足を支えられてる正輝が、裕樹を殴りつけた。
「……ふっ……ふっ……」
背中から倒れこんだ裕樹は 息が切れ足取りも覚束ない。
「ようやくか……流石に裕樹も、3対1ではそう長くは耐えられないか」
「一撃必殺の拳、重量級にスピードが伴ったラリアットを、凪さんが作った隙をついて確実に当ててますから。しかし……」
「……傍から見とって、すごい攻撃やな--ヴァイスの一撃が効かん訳やで」
ようやく息の切れ始めた裕樹に、龍星と鷹久、そしてフラウが苦笑いしていた。
ここまで正輝の拳数発、王牙のラリアットと固め技それぞれ数回、凪との接戦……ただ。
いずれも、自分では耐えられもしなければ、続きもしないというのが、怜奈を除いたその場全員の総意だった。
「……怜奈さん、改めて尊敬します」
南波は怜奈に、ふとそう告げた。
「--フラウ、南波、何をしている? 早く拘束するぞ!」
武瑠が玄甲を呼び出し、拘束技を繰り出す準備をして2人に声を掛け--。
「ああっ、いらないよ」
それに割り込む形で、裕樹目がけて数本の布が伸びていき、裕樹の四肢を拘束した。
「榊さんのバーサクモード、あるいは対大型電子召喚獣を想定して設計した拘束ツール……ここまで弱らせないと、よけられちゃうからね」
「太助!? お前、なぜここに!?」」
「やあ正輝……何故って、僕がお嬢さんをここにきて朝霧君と戦うよう唆したから」
「なんだと!? 貴様!!」
「蓮華ちゃん、待って!」
太助の発現に激昂した蓮華を、怜奈が遮った。
「--朝霧さんの妹さんは、無事でしたか?」
「勿論。約束もちゃんと果たしといたよ。そして、この事件の黒幕もこの通り--」
そういって、太助は--トウテツ型のシラヒゲに捕まっている、気絶した男を指さした
「ただね、彼にはちと用があるから連れて行くよ」
「待て。その男がこの事件の元凶であるなら、保安部として黙るわけには……」
「代金は払うよ。少なくとも、こいつの拘束よりよっぽど価値がある物をね」
太助は裕樹に歩み寄って、膝をつき愛用のタブレットを取り出し、その画面を操作し手形を表示しそこに手を当てる。
手形から太助の手に電磁波が浴びせられ、太助がグーパー運動して裕樹の手に取り付いている槍だったものに手を伸ばし--
ズルッ--!
「!?」
裕樹が目を見開き、くたりと脱力するようにその場に横たわった。
太助が引っ張る動きに合わせ、裕樹の顔から右腕に浮かび上がっていた血管が徐々に元の状態へ戻っていく。
それを全部抜き去ると、太助は握り締めているコアに力を籠め、砕いてしまった。
「--これでもう、朝霧君に危険はない」
「……わかった。ただし、用が終わり次第保安部に」
「わかってる。さて、もうひと踏ん張り医者として……」
タブレットの手形にもう一度先ほどの手を当て、電磁波を取り去ると裕樹の拘束を解いて浸食されていた部分を診察し始めた。
「大丈夫なのか?」
「……筋肉神経ともに、過度の負担がかかってる。応急処置はしておくけど、本格的な検査をした方がいい」
太助は次に、怜奈に目を向け--紙の束を取り出し、怜奈に放り投げた。
「後は君次第だ……朝霧兄妹の事だけじゃなく、ね」
「--はい」




