怒りと嘆きの輪舞(4)
「北郷正輝、御影凪、鳴神王牙……来たようだな」
その様子は、遠目にだが監視されていた。
彼の手には、裕樹の手にある槍と同じものが3つ--その眼は確かに、周囲に目もくれずその3人をとらえていた。
「いかに3対1とは言え、朝霧と本気でやりあえば1人は必ず深手を負うはず。そこを--」
「狙わなくていいよ。君はすぐに、僕が始末してあげるからね」
その監視者の後ろに、太助が立っていた。
普段の冴えない風貌を知る者からは、全くの別人だと評されるくらいに冷たい眼で見据えながら。
「--さすがに、かつての親友の危機には黙れないか? 所詮悪党としちゃド三流だな」
「別に人間性を説くつもりはないけど、最初からなりふり構わずなんてやってるド外道に、二流三流だの言われる筋合いはない」
「ド外道ねえ……じゃあすでに肉体的に人間じゃなくなっているお前は、何様だ?」
「それも、人を商品価値でしか見ない君に文句言われる筋合いはない--強いて言うなら、人は人として生きてこそ人なんだ、と言わせてもらうよ」
「理想論だなーーもしそうなら、俺の商売は必要とされることはなかっただろうに」
「必要とする方がどうかしてる--そして、それを求める意思こそが、僕の敵であり水鏡怜奈の不幸を招いてるんだろ」
太助の言葉に、ふと先ほどまで裕樹と相対していた少女に目を向け、ちっと舌打ち。
忌々し気に太助をにらみつけ、毒づいた。
「……ってことは、あのお嬢さんをここに誘いだしたのはお前かよ」
「僕には彼を止める手立てがなかったからね。いい加減彼絡みでの不幸から解放されたいだろう彼女に、協力を願い出ただけさ」
「ったく、どうしてくれんだよ!まだ制御が効かないから、止めたくても出来ねえときに--扱いがしんどい客だってのに」
「心配はいらないさ。そいつら水鏡グループのダニどももすぐ、君と同じように始末してあげるよ」
そう言い放った太助に、苦々しい顔で敵意を向けながら、本物のナイフを取り出した。
「……それをわかってて水鏡のお嬢様を差し向けたのかよ?」
「わかってなきゃ接触はしないよ--妄想なんて薄皮一枚隔てた、腐った楽園のご神体になんて」
「ひでえ言い様だなおい。けど朝霧と水鏡のお嬢様の間で、何かあったのは確かなんだろ? 周囲は周囲なりに……」
「--何とかしてやりたいと思ってやった結果がこれだから、腐った楽園と言ったんだ」
心底あきれ果てて物も言えない--そんな表現しかできない顔で、吐き捨てるような口調でそう言い放つ。
「なにがお嬢様のためな物か、すべてはそいつらの単なる現実逃避だろ。そうしてまた自己満足のための差別と暴力を繰り返す」
「偉そうな御託、ごちゃごちゃと抜かしてくれちゃってんだが……お前相手が誰だかわかってんのかよ?」
「僕がやってることが間違いなら、お嬢さんを理想的な淑女として育て上げたことが、水鏡グループの失敗だ--お嬢様が罪悪感に苛まれるのが嫌なら、傲慢に育てていればよかったんだよ」
「大層な自信だねえ--それは“境界樹”に触れたが故の自信か?」
こんな状況でも、普段と変わらず冴えない風貌……太助のそれが揺らいだ。
「--きょうかいじゅ? 確か、生徒総会ですら知らされていない、理事会とそれに連なる特別な家系だけが知る、学園都市重要機密として扱われている樹木がある、だったかな?」
「……確かに、学園都市じゃ有名な都市伝説だ--お前が行方不明になるまではな」
「へえっ……じゃあその辺り聞いてから始末しよう」
メキッ
「……北丘武瑠が僕を狙う理由、その辺りにも起因してそうだしね」
「へえっ……それが境界樹に触れて手に入れた力か?」
「いや……かけられた呪いだ」




