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怒りと嘆きの輪舞(3)

「六道九刀流……知っとる?」

「いや……対峙したのは、辰巳だけだ」

「いずれにせよ、朝霧さんの切り札と称された剣技……一筋縄でいくかどうか」

 既に3人には、戦いに介入する気はなかった。

 自分たちでは、もはや水鏡怜奈の足手まとい以外の何物にも慣れないと言う事が、今のやり取りで実感できたために

「……これが、実戦」

 怜奈は怜奈で、内心気おされていた。

 怜奈は温室育ちでありながら、水鏡SP--その中で最強である黛蓮華相手に、文武共に敗北した事等一度もない。

 ただ、怜奈は目の前の敵と違い、致命的な差を感じていた。

「……」

 裕樹が踏み込み、ダッシュで距離を詰める。

 手の打刀の構えから、居合だと判断した怜奈は待ちかまえ--

「!?」

 突如、裕樹が手の打刀を軽く放り、腰の太刀6本を一斉に抜いて上空に放り投げた。

 咄嗟で判断が遅れるも、裕樹が打刀を手に取り居合を仕掛けたのを薙刀で受け止める。

「くっ……重い」

 裕樹の居合を受けきるのは無理があったため、怜奈は無理がないように裕樹の一撃を受け流した。

 今度こそと、薙刀をいったん手放し肩関節を決めようとし--裕樹が咄嗟に刀を手放して体を翻し、ステップを踏むように手をついて体制を整え、その場で倒立。

 そこにタイミングを計るかのように、先ほど裕樹が放り投げた太刀が落ちてきて、足でキャッチ。

 正確には2本を膝の裏と足首で固定するようにして、体をブンっと振り回すようにして斬撃を繰り出す。

 怜奈は咄嗟に手を離して後ろに下がると、裕樹が体を翻して直立の体制になり、続いて落ちてきた4本の太刀の鍔狙い剣戟。

 それが投擲よりも鋭いスピードで怜奈目掛けて飛び、怜奈はひょいひょいと回避し裕樹が駆けだした。

「……次こそは」

「--! ダメや、お嬢さん!」

 フラウの掛け声は遅く、裕樹の斬撃を怜奈が先ほどの様に受け流そうとし--受け止めた剣から、裕樹が手を離した。

 そのまま地面に手を突き、身体を一回転させるアクロバットを披露したうえで背の2本の大刀を抜いて、振り下ろす。

「王道剣技でも歯が立たんのに、あないなトリッキーな動きまで取り入れられたら--てか、六道九刀流って」

「--居合、2本の大刀による力業、6本の太刀による王道、あるいは変則剣技、スピードとアクロバットアクション、投擲、という所でしょうか」

「天道、修羅道、人間道、餓鬼道、畜生道、地獄道……成程、凪殿や辰美が対応しきれないわけだ ……現状、不利だというのに」

「なんでや? お嬢さんはうまくかわしとるし、あんな派手な動きそう長うもつ訳ないやろ」

「そこではないと思います。おそらく……」

 南波の言葉を遮るように、怜奈の手から薙刀が打ち払われ、押され始めていた。


「怜奈さんは確かに私たちより強く、朝霧さんたち最強と肩を並べる実力を持っています--ですが」

「それは、あくまで試合形式での話だと言う事だ」

「--そうか。きちんとルールが設定されとって、勝利方法も明確になっとる、整っとる場の経験しかないんか。あのお嬢さんは」

「はい--私たちではそれでも何とかできますが、さすがに同格相手では」

「あっ!」

 フラウたちの目の前で、怜奈が蹴りをまともに受けてしまい、倒れこんだ。

 それに追い打ちをかけるように、大刀を交差させ怜奈の首を拘束するように地面に突き立てる。

「まずい--玄甲!」

「ヴァイス!」

「緋炎!」

 流石に黙ることは出来ず、電子召喚獣を具現し、それぞれに攻撃を仕掛けさせようとして--


 ガシィッ!!


 突如、伸びてきた物--金剛武神如意の一撃が、それを遮った。

 裕樹が咄嗟に太刀を抜いて、それを交差させるようにしてガード。

「--無事か、お前たち」

「凪さん!」


『バオオオオオオオオオッ!!』

 それに続くように、裕樹の横からの咆哮。

 咆哮が衝撃となって裕樹を襲い、硬直したと同時に……。

「--許せ、朝霧!」

 顔に青い隈取が施された正輝が、こちらも青く染まった拳を裕樹の顔面に叩き込んだ。

 裕樹は背中から倒れこみ、それでも勢いが止まらないままゴロゴロと転がるも、すぐに体制を立て直す

「行くぞ、ブラスト! ツープラトンで朝霧の動きを止めるんだ!!」

『モオオオオッ』

 その隙を逃さず、左右から王牙とその電子召喚獣であるブラストが挟み撃ちにし、裕樹を左右から捕まえる。

 --その挟みこむ僅かなスキに、裕樹は左右の肩に手を置いて飛び上がり、その手を視点ににムーンサルトを披露し、その勢いを利用してブラストと王牙の顔面に膝蹴りを叩き込んだ。

「--嘘だろ。あんな僅かな隙で、あんな芸当が出来るのかあいつ」

「僅かな隙が決定的な勝因であり敗因……やっぱり、最強と呼ばれる人たちは、僕達とは別次元だ」

 そこに龍星たちも駆け付け、今のやり取りに動きを止められた。

「ならやっぱり、俺達に出来るのはお嬢さんの安全確保位か」

「……同感です。あっ、綾香!」

 凪に同行してきた綾香を見つけ、鷹久はすぐ駆け寄った

「タカ! やっぱり来たのか」

「やっぱりじゃないよ。さ、僕たちは……」


「お嬢様! お怪我は、ありませんか?」

「蓮華ちゃん……ごめんなさい。ワタクシ、やはり」

「いえ、お嬢様が気に病むことではありません。すべては私の監督不行き届き故」


「水鏡のお嬢様の安全確保に専念しよう」

「んだよ。誰もが一度は恋をするって美貌は、タカも例外じゃねえってか?」

「よしてよ。僕がいなかったら、一体誰が綾香の身の回りの世話とフォローをやるっていうのさ?」

「……お前ら余裕だな。まあ俺も芹がいなかったら、見惚れていただろうことは否定はせんが。さて……」

 龍星は改めて、実践さながらの雰囲気で裕樹を見据える最強3人。

 そして--


『よっ、龍星のダンナ』


「……裕樹」

 ふと普段のやり取りを思い出し、テレビ越しで見てはいても、やはり実際に見て龍星たちはこみ上げて来る物を感じていた。

 そしてあの裕樹の姿を見て、一番悲しんでいるだろう少女の姿を思いながら--

「王牙、正輝、凪! --絶対勝ってくれ!」

 龍星はそのこみ上げて来る何かを一気に吐き出すように、3人に声援を送った。

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