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怒りと嘆きの輪舞(2)

「話に戻るけど……少し前、僕はある人物を追ってる上で、そいつが水鏡の--特に階級主義の強い派閥と接触していたことを掴んだんだ」

「ある人物?」

「そう。そいつが朝霧君を暴走状態に陥らせ、現状のままで制御する術と共にお嬢さんへの献上品としてと、あるものを売りつけたんだ」

「売りつけたって--そんな奴隷売買みたいなことを!」

「そいつはもう見ての通り、強制的にあんな状態に陥らせ、それを制御する術も確立こそまだだけどもうすぐ完成する--だから十分商売として成り立つさ」

 現に裏取引として、かなりの高額が支払われたみたいだけどね。

 と付け加え、周囲の嫌悪感露な態度に、少しは話が通りそうだとうれしそうに頬を緩ませた。

「他人の救済が自分への暴力になりうれば、自分の勝利が他人の敗北になる。だから、特定個人の幸福にとっては、他人の意思なんて邪魔にしかならない……とまあ哲学的なことは置いておいて」

「--あたし、そういう考え嫌いだよ」

「支倉さんだっけ? うん、僕も大嫌いだけど、存在するのは事実--で、情けない話だけど、そいつの足取りを追う事と妨害に苦戦してて、既に計画の要が渡されていたことに気付けなくてね」

「要?」

「彼が持ってたあの槍さ。研究資料を手に入れたの、彼がああなってからだから……で、彼の開放手段はもう確立はさせてる」

『……早いですね。でも、確立させてるなら何故』

「後顧の憂いを断つためさ」

 そういって太助は、裕香とカグツチに目を向けた。

「カグツチがいなかったことと、商品の安全維持保障の確立を踏まえれば、狙ってくることは想定できたからね」

「……改めて怜奈さんを取り巻く環境、私だったら絶対耐えられないよ」

 つぐみは怜奈とその側近である蓮華を尊敬こそしていたが、周囲までは信用が出来なかった、

 感じが悪く、庶民だ下民だと蔑みの視線を堂々と向けられたことは、決して少なくはないため。

「で、もう1つは……」

 太助が裕香に歩み寄って、膝をついて目線を合わせ笑みを浮かべる。

「もうすぐ、君のお兄さんは元に戻る。だから、嘆く必要は、悲しむ必要はない--それを伝えるために来た」

「……東城さん」

「それと……あのお嬢さんを恨むのは、やめてあげてくれないかな」

「……でも私もユウ兄ちゃんも、あの人の所為で」

「その事は別に許す必要まではないけど、今彼女は彼と相対してる--本気で彼を、あの槍から解放するためにね。そこだけは、評価してあげないと」

「……」

 そういって、太助は立ち上がって踵を返す。

「じゃあ僕はそろそろ--後は襲撃があったってことを報告して、人員回してもらいな」

『--どうして、ここまで?』

「単純に、僕には暴走した朝霧君を止める術がないから、協力してもらったお礼」

『じゃあ、水鏡のお嬢様が朝霧先輩と対峙してるのは……』

「僕が唆した--まあ協力しなかったらしなかったで、別に構わなかったけど」

『構わなかったって……』

「あんな腐った楽園の女王様、あるいはご神体で居続けてもらっても困るからね。でも快く協力してくれた以上、それには報いるさ。じゃあ……」


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