混沌の中で(1)
学園都市は、すっかり閑散としていた。
違法改造を施した電子召喚獣の量産技術を手にした、反体制組織朔夜会による無差別テロにより、自衛手段のない学生は外を出歩く事が困難になった為に。
商売側にしても、保安部とて学園都市全体をカバーする事は不可能である為、用心棒を雇う等の自衛手段を確立しなければ、営業自体が困難となる。
『ギャウッ!!?』
通称屋台通りと呼ばれる場所でも、同様だった。
一応屋台は並びこそしていても、それでも平常時に比べれば少なくなっており、人通りも多いとは言えない。
そんな中で営業しているのは、一重に……
「よし、これで落ち着いたな」
『ワンっ! ワンっ!』
その中で甘味の屋台を開いている久遠光一と、その電子召喚獣である純白の柴犬シラヒメと、漆黒の痩せた狼コクテイの存在が大きい。
ここで商売をする際には店の方は歩美に任せて、屋台通りの安全確保に帆走しており、来てない時には屋台通り自体が機能しない事態に陥っている。
「……それでも、危ない事に変わりありませんからね」
「……そうれしゅね」
「私達も、手伝えればいいんだけど……」
光一に屋台を任されてる歩美と、その隣で出店してるみなもとつぐみは……。
『グガウッ!!』
『ブギィァっ!!?』
屋台の前で、イノシシ型の違法召喚獣の喉元に喰らいつく凶暴化したコクテイという、刺激が強過ぎる光景から目を背けながら、屋台に隠れていた。
『ウォォオオオオオオオッ!!』
コクテイの遠吠えが響き渡り、終わりが告げられるまで安心が出来ないまま。
「助かったよ、東野」
「気にしなくていいよ。これで落ち着いて買い物ができるから」
ヒュンっと風切り音を鳴らすと、屋台通りに買い物に来ていた東野辰美は、手の電子ツールとして具現した刀を、鞘に納める。
「じゃあ俺の屋台に来てくれない? 今日はタイ焼き何だけど、幾つかご馳走するよ」
「そんな気を……」
『バオオオオオオっ!!』
「……使うの、少し早いみたいだね」
「確かにそう……でもないみたいだぞ?」
「え? ……ああっ、成程」
突如現れた、大型ダンプカー位はありそうなマンモス型が現れ、流石に辰美も光一も苦戦を覚悟したが、その上にある姿を見つけそれは杞憂に終わった
ズンッ!
『バオオオッ!!?』
突如そのマンモス型の上空にカグツチが具現し、そのまま落下しマンモスを押しつぶしたが故に。
「必殺カグツチ召喚・屋台崩し……なんちゃって」
「……場所が場所だけに縁起悪いからやめて」
その背の上で、カグツチの主である朝霧裕樹が、一条宇佐美をおんぶしながら立っていて、裕樹がけらけらと笑いながらの宣言に、宇佐美が顔をひきつらせツッコミを入れていた。
「……流石に、カグツチの落下は耐えられんわな」
「そだね」
「……流石に、あのレベル相手にこの程度じゃ通用しないか」
「みたいだね。どうする? 太助先生」
所変わり、それを見下ろせるとある地点にて。
この騒動の元凶とも言える東城太助と、その仲間である白河ユキナがその様子を眺めていて、太助が手に持っているタブレットを操作し――それを脇に抱える
「……データ収集終了」
「それじゃ帰ろうよ、太助先生」
「そうだね、それじゃ……」
「そうはいかないな」
そう言って2人の前に立ったのは、榊龍星。
煌炎を従え、ボキリと拳を鳴らし太助に対峙すると、ユキナがそれに割り込んで、龍星に敵意を向ける。
「……流石に、その年の女の子に敵意を向けられるのはきついな」
「――人はね、人が考えてるほど強くもないし正しくもないんだよ。だから九十九の様な狂気も生まれれば、ユキナの様な全てに見捨てられた存在がある。そして、そう言う風に予想外の事態に動揺するのさ」
「……言ってくれるな」
「それが生きるって事だよ。否定で未来は創れないんだからね」




