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怒りと嘆きの輪舞(1)

「じゃ、行ってくる。お泊り会だからって、羽目を外し過ぎるなよ」

「わかってるよ。ユウ兄ちゃんこそ、最強の1人として恥ずかしくないようにね」

「ああっ」


「……」

『グルル……ガウッ』

「……カグツチ、ありがと」

 朝のやり取りを思い出しながら、裕香は寝そべるカグツチに寄り添う形で、玄関前に居た。

 朝、裕樹を見送って--映像に映し出されたのが、とても直視出来るわけがない虐殺劇。

 何が起こったのか理解は出来ず、アスカに抱きしめられるがままに気付いてからも、放心状態は続いていた。

「……裕香ちゃん」

「--無理ないとはいえ、見ていて痛ましいれしゅ」

 どう声をかけていいかわからず、後ろの方で見守る面々。

 --特に屋台通りで一緒にいる時間が多いつぐみとみなもは、裕香のそんな姿に何も出来ない事を悲しんでいる。

 一応、D-Phoneに生徒会特報メールとして、裕樹の虐殺劇は反学園都市思想者がDIEシステムの違法技術を使用し、暴走させられた所為であると報じられている。

 ただ、詳しい情報は現在調査中であり、第一級警戒態勢として外出禁止は継続するとも表示されている。

「--この体育祭って、外来の来賓が見に来るって話だったけど……じゃあ裕樹さんは、そんな事のために」 

「……許せない! 確かにユウはデリカシーがないうえに、セクハラの概念だけ学習できない天然な女の敵だけど、でも兄さんの親友で、あんな虐殺をするような人じゃないのに!」

「……宇佐美ちゃん、裕樹さんをそんな風に思ってたんだ」

 ひばりは宇佐美の怒りに同調しつつも、罵倒交じりなことに苦笑はした。

 ……ひばりも割と、裕樹の無自覚なデリカシーのない発言やセクハラ発言に、困っていたために。

「……芹香ちゃん、生徒会とユウが、今どうなってるかは」

『ごめんなさいアスカさん。出来ることなら確認して裕香ちゃんに教えてあげたいんですけど、それはご法度なんです。一条総書記からも、厳しく言われていて』

「……宇宙君がそういうなら、仕方がないか」

『そういえば、アスカさんは……』

「うん、初等部からのつきあい。だから……」


 ガタンッ!!


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


「--!? なっ、何!?」

 アスカと芹香が生徒会がらみの話をしてる中、突如ドアに何かがぶつかる音と、断末魔が響く。

 その場にいた全員がびくりと体を震わせ--

『--グルルルルッ』

 その場唯一の戦闘型であり、百戦錬磨でもあるカグツチが裕香を背に乗せドアを睨みつける。

 ゆっくりと後ずさりし、裕香を下して頼むというように頷いた。

「……流石はカグツチ、落ち着いてるね」

「--裕樹さんと一緒に、幾多もの修羅場を潜り抜けた猛者って感じれしゅ」

「さ、裕香ちゃん。こっちへ」

「でも、一体何が……まさか、裕香ちゃんを狙ってきたとか」

「……現状じゃ保安部もすぐここに来れないし、どこかに隠れた方がいいかな」

『なんにしても、ここはセキュリティは高水準の筈だから……鍵も開けられると思った方がいいかもしれないよ。チェーンはかけてあるけど、バリケード位は」


 ヴィーッ! ヴィーッ!


『……?』

 こんな時に一体……と思いつつ、生徒会の特別通信で掛かってきていた為、救助依頼もかねて通話に出る。

『……もしもし』

『--もしもし、瀬川芹香さんのD-Phoneで間違いないかな?』

『この声……どうして、特別通信でかけてるんですか、東城さん!?』

『クラッキングして無断使用してるから。記録は一応消しておくけど、不快なら手数料は出すから番号は変えておいてくれない?』

 東城……という名を聞いて、全員が芹香に目を向けた。

『……それはいいんですけど、一体私に何の用です?』

『朝霧君の事は知ってるよね? そのことで、彼の妹と話がしたいから取り持ってほしいんだけど』

『裕香ちゃんに? ……それなら、一緒にいますけど』

『……じゃあ直接話した方がいいか。ちょうど今来てるから』

 そう言われて、芹香は以前誘拐されたときのことを思い出し、成程と頷いてカグツチを伴い玄関へ。

「--話が早くて助かるよ」

 開けてみたら、足元には明らかにカタギではないゴロツキ風の男が数名。

 それらが泡を吹いて気絶しているのを見向きもしていない、東城太助の姿がそこにあった。

「……それで、話って何ですか?」

「まず、朝霧君の身に起こった事について……と、今は水鏡のお嬢様と対峙してるっていう現状を伝えに、かな」

 --後者については、一瞬全員の志向が止まった。

 そして……

「……どういう事? 水鏡のお嬢様って、以前ユウ兄ちゃんを保安部から追い出した人だよね?」

 水鏡のお嬢様、という所で裕香が珍しく不機嫌さを隠そうともしなかった。

「正確には、お嬢様の周囲の人間の独断--まあ今回も、似たようなものだけど」

「似たような……?」

「そう。水鏡を敵視する朝霧君が、学園都市で最強の一角を担ってるのを良く思わない一派が、陰で違法技術開発集団と結託してこういう強行手段に出たのさ」

 そういわれて、その場全員が納得はした。

 水鏡グループが絡んでいるなら、現在調査中と生徒会が情報を濁すのも無理もなければ、裕樹絡みでこういう強行をすることも納得できる。

「その一派は朝霧君を今のような形にしてから、機械的に制御したうえでお嬢さんの献上品にするつもり……」

『ちょっと待ってください。子供の前でやる話じゃないでしょう』

「--そうだね。それじゃ、本題だけど……ここに来る前に、その情報を僕は水鏡のお嬢さんに提供したんだ」

「--それで、怜奈さんが」

「出なかったときは、事の真相を全部公にしたうえで、僕が何とかするつもりだったけど」

「ちょっと待ってよ」

 裕香が話を遮り、太助を嫌悪感露に見つめている。

「なんでそんな事、私に教えるの?」

「--現状をつづけたって、また同じ事が繰り返されるだけだからさ。今度はあの程度で済む保証もないからね」

「あの程度って……」

 初見でさえ、本能で目を覆い隠す様な光景が写っていた。

 詳しい情報こそ入ってない物の、今頃重傷者が多く運ばれている事は全員が容易に想像がついている。

「いや、まだ発展途上レベルの代物だから、彼の意識はまだ完全に乗っ取れはしてない」

「--なんでそんな事がわかるんですか?」

「テレビの映像、虐殺劇だったのに、信じられないよ」

 そこに、つぐみとひばりが割り込んできた。

 2人と裕香を見比べてーー

「--友達?」

「「違います!!」」

「--もしかして光みたいに、成長不良か何かを起こした子かな。診察させてもらってもいい?」

「「結構です!!」」」

 何気に失礼な会話が繰り広げられた。

「つぐみ姉ちゃんとひばり姉ちゃんんをいじめないで! 特にこっちのひばり姉ちゃんは、私のお姉ちゃん候補なんだから」

「へえっ……先ほどは失礼。心配しなくても、君の彼を助ける手立てはちゃんと用意は出来てるから」

「--なんだか、さっきと見る目と態度が全然違うどころか、敬意を払われてる気がするんだけど!?」

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