怒りと嘆きの輪舞(プロローグ)
駆け付けた援軍……水鏡怜奈と、四神が1人、朱羽南波。
怜奈が1人前に出て、裕樹と対峙する。
「……」
裕樹の表情は、変わらない。
ただ、槍の眼だけは怜奈を見据え、にたりと笑みを浮かべた--最上のエモノを見つけたと言わんばかりに。
「--あれから2年、ですね」
怜奈が自身の電子ツール、薙刀を具現し構えた。
四神の少女たちは一瞬見惚れるほど、綺麗に流れるような動作で。
「なんにせよ、助かったで。これで--」
「いえ、手を出さないでください--ここは、1人でやりたいのです」
「何を……」
武瑠が詰め寄ろうとするのを、南波が割り込み首を横に振った。
「申し訳ありません--ワタクシの初めての我儘、どうかお許しください」
そういって、普段穏やかな表情しか浮かべない表情を、きっと鋭い物へと変える。
ただし、目だけは悲愴を湛えながら。
「……あの時も今も、同じですね」
その眼は裕樹の--
ただ、槍を起点に露になっている腕から顔に至るまで、びっしりと血管が異様な形で浮かび上がっていて、右目はオッドアイかという位に真っ赤に。
そして、真っ赤になっている右目からは、血の涙が流れている--そこを見据えていた。
「変わり果ててしまうのは、常に貴方だけ--それも、悪い方向にばかり」
その次は、裕樹の服。
先ほど、裕樹に挑戦しようと駆け付け、虐殺劇の生贄になった挑戦者たちの返り血でまみれた服。
「--それもすべては、ワタクシの所為……やめさせる事も出来ず、手を差し伸べることも出来ず、謝罪することも」
「……」
「出来るのは常に、捻じ伏せることだけ--だから、貴方を捻じ伏せたその後」
「……」
「--正気に戻った貴方に、手当と謝罪をさせてください」
怜奈が薙刀を握る手に力を籠め、裕樹の槍の眼がくわっと見開かれた。
同時に二人は駆け出し、槍がぶつかり合う。
裕樹が回し蹴りを繰り出し、怜奈が掌底でその軌道を変え、掌底の勢いのまま舞うように体を翻し薙刀の柄を裕樹の腹に叩き込む。
「やった!」
「いや、浅い……」
一撃が入ったことにフラウが喜び、大したダメージになっていない事を武瑠が舌打ち。
そこから裕樹がその腕をつかみ、引っ張り上げたうえで怜奈の腹に膝蹴りをたたきこもうとし、捕まれていない腕で足をすくい上げ足を払い投げる形に--。
移行しようとしたところで、裕樹が体を翻し左手をついてそれを支えにし、怜奈の喉に蹴りを叩き込む。
さすがに裕樹の蹴りを怜奈が耐えられるわけもなく、フっ飛ばされ背中から倒れこみせき込んだ。
「けほっ、けほっ!」
追い打ちをかけるように裕樹が駆け出し、怜奈が迎え撃とうと即座に構えると、裕樹が突如地面に槍を派手に突きたて飛び上がった。
槍を支柱に、弧を描くように体を翻してその勢いのまま怜奈に踵落としを繰り出し、怜奈がそれをよけると裕樹が体を翻し、その勢いのままもう一度槍を地面に突き立て、逆さの体制に。
再度槍を支柱に、裕樹は勢いを利用し体を回転させるように蹴りを繰り出し、怜奈が後退すると同時にくるっと体を翻し着地。
その隙を見計らい、怜奈が薙刀を構え駆け出す。
「--ここっ!」
薙刀を突き出すのを裕樹がよけ、空いた胴体に狙い定め、膝蹴りを繰り出す。
その膝蹴りを、怜奈がすくい上げるようにするフリをし、体を翻そうとした裕樹の隙をついて、怜奈は裕樹の槍を--
--パキッ!
「!?」
掴み、奪い取ろうと捻り上げたその瞬間、掴んだ手に激痛が走りたまらず怜奈は槍を離してしまう。
その個所からは棘がスパイクの様に生え、それが粘土の様にグニャグニャと形を変え元に戻っていく。
「惜しい! --けど、あの血管びっしり浮かび上がっとる理由、理解したで」」
「ああっ--怜奈殿、奪い取るのではだめだ! 槍のコア自体を壊さねば!」
「どうやらその槍は、掌から脳まで触手を伸ばして直接脳に繋がっているようです!」
捻り上げたその瞬間を、四神の3人は決して見逃しはしなかった。
槍は裕樹の体を乗っ取る際に伸ばした触手を、掴んでいる個所から延ばすように形を変えていた為、触手の事はまだ今は辰美しか知らない。
「コア……やはり」
怜奈は狙いを、裕樹の槍の眼の部分に見据える。
「--せやけど、驚いたなあ。武に関しても、最強に匹敵する実力者ゆーて評判やったけど」
「--一撃当てるために、我ら2人掛かりでこの体たらくだというのに」
「ですが、まだまだ油断は……やはり、出来ないようですね」
裕樹の槍が突如形を変え、腕を覆うように巻き付いた。
次に裕樹がD-Phoneを取り出し、自らの剣--打刀1本、太刀6本、大刀2本を具現する。
手に打刀、腰に6本の大刀、そして背に2本の大刀。
「9本の刀……よもや」
「--六道九刀流。たつみーどころか、凪の大将も捌ききれんかったっちゅー、我流の剣技やな」
「実際に見たことはないが、凪殿が捌き切れなかった剣技……こんな状況でなければ、興味も沸くやもしれんが」




