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学園都市のプールでのひと時(3)

 タコの大木のような10本脚が、立て続けに裕樹めがけてパンチのように突き出される。

 それを裕樹は、恐れる処か動じる様子さえ見せず、そのすべてを冷静かつ淡々とよけていた。

「……すごい、なんてものじゃないね」

 つぐみがポツリと漏らした言葉に、全員が頷いた。

 娯楽のイベントだとわかっていても、一対一で対峙する処か傍から見て尚威圧される大きさ。

 にも拘らず、裕樹は動じる様子を微塵とさえ見せていない事に、ほぼ全員が驚愕を隠しきれていなかった

『……ねえ、りゅーくん』

「……すまん芹、同じことをやれと言われても無理だ」

 当然だが、大型の電子召喚獣と相対する場合、相応の大型で。

 あるいは、複数での熟練された専用の連携で当たるのがセオリーとされている。

 もちろん龍星は勿論、光一に鷹久、綾香も単独で大型と当たることがない訳ではなく、そうなった際は応援を要請したうえでの時間稼ぎが前提の対処法なら持っている。

「あっ、危ない!」

 たたらを踏んで、足場の水際に立った裕樹の眼前に、タコ足パンチが至近距離に迫っていた。

 それに対し裕樹は、その場で上に飛び上がってタコ足に刀を突きたて、それを起点に前方宙返りをするように回避した。

「……すげえな」 

「あの身のこなしとアクロバットアクション、僕も何度羨んだことか……」

 綾香と鷹久が心からの羨望を感じるその先で、裕樹を足場から足場へと飛び移りながら、距離を詰め始めた。

「さて……」

 裕樹の表情が変わり、両手の刀をぎりっと握りしめる。

 それに呼応するように、裕樹の眼前にタコ足パンチが突き出され……

「え……?」

 みなもの声が上がるよりも早く、タコ足パンチが斬りおとされ、分解していった。

 タコが連続でタコ足パンチを繰り出しーーその突き出されたタコ足を開脚とびで避け、刀を突きたてとりつく。

 そして右手の刀を突きたてて右足を出し、左手の刀を突きたてて左手を出し、というようにタコ足を伝い始めた。

「……そろそろいいか」

 タコが振り払おうとすると同時に、裕樹が刀を振り上げ額めがけブン投げ、命中。

 それと同時に……ファンファーレが鳴り、タコが分解された。

 一応ゲームの概要自体は娯楽であるため、ウィークポイントを設置しそこを攻撃すればクリアという形になっている。

 裕樹にしてみれば、ウィークポイントがわかってる処か、存在する時点でヌルゲー同然だったがーー

「人目を惹く派手な演出を、って依頼果たせたかねえ……あっ、やばっ」

 とりついていたタコ足が分解され、支えを失った裕樹はーーおよそ10mダイブを決行することとなった。

 補足として、通常はライフジャケット着用前提とし、プールも深く作ってあります。

「--ぷはっ」

 少ししてから裕樹が顔を出すとーー。

「ユウ兄ちゃーん!!」

 しんと静まり返っていた場内に、妹の声が響きーー満面の笑顔で、右腕を上げたガッツポーズをとる。

 それを起点に場内は拍手喝さいが巻き起こった、


 --数分後。

「大盛況でしたね」

 我先にと裕香に手渡されたタオルを頭に駆けた裕樹は、ひばりの言葉にどうもと頷いた。

「裕樹には本当に驚かされるな」

『ホントにね』

 すでにゲームは開催されており、今は初級の10人編成(ライフジャケット着用、専用の電子ツール装備)でゲームが行われていた。

 余談だが、先ほどの大タコは最高難易度となっているため、今は5mくらいの半魚人が相手となっている。

「でも、カッコよかったよ」

 興奮冷めやらぬ、という感じで裕香が捲し立てるのを、裕樹はそうかと優しく笑みを浮かべた。

「……うれしいこと言ってくれるね、この子は」

「わぷっ、ちょっ、やめてよユウ兄ちゃん。子ども扱い嫌だって知ってるでしょ!?」

「ああっ、悪い悪い」

 余談だが、ひばり、みなも、宇佐美には裕香の本心はもっと撫でられたがっていたことが、見て取れていた。



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