甘えん坊日和(休日の遠出)
『ご乗船、ありがとうございます。当船は学園都市第1港出航後、スタジアム付近を通過した上で、実験島を経由しての遊覧コースを予定しております。』
学園都市は海岸都市であり、物資の搬入のための港は存在する。
勿論それだけではなく、海岸沖にあるDIEシステムの実験の為の人工島の往復便や、遊覧船などもあり……
「いい天気だね」
「まったくもって」
朝霧兄妹とみなもは、その遊覧船で船上での
ただし客船のようなつくりになっている、搭乗には予約が必要なほど上等な物で、裕樹の伝手で予約を取り3人で
デッキで裕樹はコーラの、裕香がオレンジジュースの缶を手に、ゆったり海の空気を満喫しているその横で……
「絶好のスケッチ日和です」
みなもがご機嫌かつ熱心に、海の風景画の写生を行っている。
「ご機嫌だな」
「いつもは、自然公園か街頭での写生ですから、こういう場所では実は初めてなんです」
「たまにはこういうところをっての、正解だったな」
笑いながらそういう裕樹に、みなもも笑み返してスケブを閉じた。
「もういいの?」
「うん。スケッチだけじゃなくて、遊びに来たんだから」
「じゃあ色々と見て回ろうよ。遊覧船だから、結構色々な所があるんだって」
「そうだね」
スケブをかばんにしまうと、みなもは裕香に手を引かれて船内へ
「--彼女なんて、ましてや理想が叶う相手が見つかるなんて、思っちゃいなかったけど」
そう呟くと、裕樹は多少遅れつつも苦笑しながらそれに続く。
そして、正午にて。
「おおっ、今日も美味そうだな」
「さすがはみなも姉ちゃんだね」
デッキに備え付けられた休憩スペースのテーブルで、みなもの弁当が広げられる。
「遊覧船……というか、こんな客船だから、レストランくらいはあると思いましたけど」
「いやいや、迷惑じゃなかったら十分うれしいよ俺は」
「迷惑だなんて、そんな事ありませんよ」
「うん。私、みなも姉ちゃんの料理も、3人で食べるご飯も大好き」
「ありがとう」
「ーーごめんみなも姉ちゃん、外ではやめて?」
みなもが笑みを浮かべ、頭を撫でようとすると裕香はそれを手で制した。
裕香は外では、子ども扱いされるのが嫌いな為に。
「……ふふっ」
「? どうしたんですか?」
「ーーどうも俺が蚊帳の外っぽいのを差し引いても、こうして裕香と良好な姉妹関係が築けてるっていうの、やっぱりいいなって」
「前者は、ごめんなさい。でも後者については、裕香ちゃんとこうして仲良くできるのは、うれしいですよ」
「いやいや、謝らなくていい。裕香に"お姉ちゃんが欲しい”ってせがまれてた時からの理想、かなえてくれた事の方が嬉しいから」
「でも、ユウ兄ちゃんが蚊帳の外じゃ意味ないよ! じゃあこのお弁当をあーんとか」
「やらねーよ」
「やりゃ……にゃいんれしゅか?」
「……とりあえず、目か鼻で食べる事になりかねないからと言っとく」
ワクワク感丸出しの裕香と、どぎまぎした動作のみなもには気付いてはいなかったが……
「ーー見ろよあれ、朝霧裕樹じゃないか?」
「彼女できたって話、本当だったんだ」
「やっぱりやるのかな? あーんってやるのかな?」
「--シャッターチャンス、逃すなよ?」
裕香の声が大きかった所為か、周囲の注目を集めていたことを、裕樹はしっかりと把握していた。




