雲雀の約束
「あっ、支倉先輩こんにちは」
「彼氏とお出かけですか?」
「いいなあ、朝霧裕樹さんとデートだなんて」
ひばりも高等部2年である為、育成を任された後輩や部下もいる。
愛らしい見た目に、面倒見がよく頑張りやなひばりは、評判がいい。
「違うよ、まだ付き合ってるって訳じゃ……」
「えー? でもそんなに仲が良いじゃないですか。裕樹さんなんて下の名前で呼んでるし」
「そうそう。先輩にはお世話になったから、応援しますからね」
そんな様子を、裕樹は微笑ましく見つめ――少々羨ましく思っていた。
「愛されてんなあ」
「そんな事無いですよ。あたし力仕事は出来ないから、頼ることだって多くて」
「ひばりって“頼れる”より“愛される”の方がぴったりだろ」
「それってマスコット扱いですよね?」
「良いだろ、可愛いんだから」
「もうっ……」
ひばりも、時折セクハラが混ざる事に怒りつつも、裕樹との時間は楽しく思っていた。
こうして2人の時間を過ごす事も、裕樹と何気ない話題で盛り上がる事も。
「……まさか朝霧裕樹に、ロリコン趣味があったなんて」
「そりゃあってもおかしくないだろ。幾ら北郷正輝や鳴神王牙と張り合える位強いっつったって、元々が保安部崩れのクズなんだから」
「クズはクズらしい、クズな趣味ってか? ははっ」
ただ、これだけはひばりも未だに馴染めなかった。
裕樹の稼業が人に恨まれる物だというのは理解していたし、保安部崩れと言う叩かれる要因を持っていて、最強と呼ばれる4人の中で一番立ち位置が弱く、疎まれている事もよくわかっている。
しかし、自身を指して裕樹をロリコン呼ばわりする事だけは……。
「――距離をとりたいなら、俺を嫌いになってからにしてくれない?」
そんなひばりに、裕樹は考えを呼んでいたかのようにそう告げた。
「……それ、あたしに一番難しい事だって、わかって言ってますよね?」
「卑怯な手段なのもわかってるけど、こうでも言わんと余計なこと考えるだろ、ひばりは」
そう言うと、1.5リットルのペットボトルコーラをがぶ飲み。
「余計な事って……」
「ひばりに離れて貰ったら、裕香に泣かれる――それに俺も、愛想尽かされたならまだしも、気遣いで離れて貰いたくない」
「――わかりました。そこまで言うなら、もう何も言いません」
「安心した」
「けど裕樹さんも、あたしが愛想尽かす何て考えないでください--この上なく不快ですから」
「――わかった。二度と考えないよ」




