甘えん坊日和(事件その3)
「――わあっ」
所は、詠の新作の展示場。
みなもの友人は仕事の時間だから言って帰ってしまい、みなもは学園都市の主席の作品に、目を奪われていた。
「スケッチもいいけど、こういうクラシック系の絵画も良いなあ」
「みなもって、風景画専門だっけ?」
「はい。自然のあるがままの風景とか、街中の活気にあふれた光景とかを描くの、好きなんです」
『――でしょうね。さっきの絵を見れば、良くわかる』
この美術館に飾られてるみなもの絵は、実は裕香がモデル。
それも、裕樹のカグツチに身を預けて眠ってる所を、写真にとってスケッチした物。
「裕香ちゃんのおかげで、良い絵が描けたよ」
「みなも姉ちゃんの役に立てて、嬉しいな♪」
『――上手く行ってるようでなにより』
「しかし、良かったのか? まだ開会式もやってないのに」
『良いって言ったでしょ? 裕香ちゃんは妾にとっても妹みたいなもので――』
「身体的には、もうすぐ追い抜かれ――!!?」
『黙れ――その子自体は気に入らないけど、その姉になるっていうなら』
「……怖いれしゅ」
裕樹の足を踏みながら、みなもの胸元に向ける詠の眼は、射殺すかのように鋭い為みなもは委縮していた。
「あーいってえ」
「裕樹さんはもっと……いえ、少しでも良いから、自分の言葉に気を付けてくだ……」
ピーっ!
みなもの声を遮る様に、警告音が鳴った。
後ろを見れば、警備ロボット“ハウンド”が駆動音を鳴らしながら、一時停止。
学園都市ではすでに、ロボットによる警備システムが採用されている。
4輪駆動タイプモデルに、警備と区画案内を両立出来るカメラアイを搭載し、発射式スタンガンと捕縛用ワイヤー、そして火災対応用の消火剤を搭載し、配備モデルとのネットワークによる即時連携もこなせるなど、多目的に対応できる。
「へえっ、流石に第一美術館だけあって、最新モデルか」
「わかるんれしゅか?」
「そりゃあ身辺警護が生業だから、こういう分野の勉強はしてあるよ――しかし」
裕樹は周囲を見回し、表情を険しい物に変えた。
「どうしたんれしゅか?」
「――変だな。このモデルにしては、視界に入る数が多すぎる……!?」
咄嗟に裕樹がD-Phoneを起動し、電子ツールを展開。
打刀を具現し――
ガキンッ!
「ひゃっ!!?」
突如裕樹に向けて撃ち出された発射式スタンガンを、抜刀術で打ち払った。
「ユウ兄ちゃん!?」
「裕香、詠、こっちへ!」
裕香と詠を呼び寄せ、裕樹は周囲を見回す。
周囲の警備ロボットの発射式スタンガンの発射口は、全て裕樹に照準が向けられている。
「――間違いなくクラッキングされてるな」




