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Nightmare Dive(8)

「――うっ……」

「――気がついたか? ひばり」

 ひばりは痛む頭を抑えながら、ゆっくりと起き上がる。

「――あれ? ……ここは」

「少なくとも、まだ水鏡の御嬢さんの悪夢ループに居る事は確かだ」

「……あの、クリスと東城さんは?」

「どうもはぐれちまったらしい」

「あっ!」

 そこでひばりは、先ほどあった事を思い出した。

 突如血の池が盛り上がり、それが人型となって自分たちに襲い掛かった事と――裕樹がそれと相対し、撃破した途端に爆発して……そこから記憶が途切れている。

「あの状況じゃ、ひばりの安否だけで手一杯だったし、ここから戻る事はどうもできないみたいだから――まあ、東城の言葉を信じるなら、緊急離脱はしてるだろ」

「――じゃああたし達はあたし達で、先に進みましょう」

「無茶すんな。ひばりの身体は胸が立派でも、丈夫って訳じゃ……」

「ゆ・う・き・さん!」

「あっ、ああっ、その、ごめん……」

「もうっ……! ――あれ?」

 ふと、ひばりは周囲の違和感に気付いた。

 今までを省みて、不自然な位に何もない――石造りの屋根と壁、足場があるだけの空間。

「――悪趣味な内装もなけりゃ、何も聞こえてこない……油断はできないけど、これだけ見渡せれば危険はないだろ」

「……はい」

 裕樹とひばりは、近い壁に寄り掛かって、2人並んで座る。

「……はあっ」

「――もしかして、迷ってます?」

「――正直、どうすればいいのかわからん……今更あのお嬢さん絡みでどうこう言う気もする気ももうないけど、まさかそれを一因にここまで思いつめてただなんて」

 顔を両手で覆いながら、裕樹は思い切り溜息をついた。

「……一体、何があったんですか?」

「――くだらない話さ。上流階級学生のパーティー警護で、違法召喚獣の襲撃があって……俺はたまたま捻挫したお嬢さんと出くわして、おんぶしつつ警護しながら脱出を試みたんだよ」

「――あの、話が繋がらないんですけど?」

「そりゃ、あのお嬢さん自体その事を感謝して、無事に出た暁には謝礼をするとまで行ってた位だ……あくまでお嬢さんはね」

 そう言われて、ひばりは疑問符を浮かべる。

「それ以外は如何に保安部員とはいえ、俺みたいな一般家庭出身の男が水鏡家の令嬢に近づいて、増してや触れたのが気に入らないらしくて。お嬢さんのケガその物を俺の失態にされて、弁解の余地もなく保安部追い出された」

「……」

「そりゃ、当時は恨んだけどね――人助けの結果が保安部崩れのレッテルだ。そんな人間に関わりたくないって、アスカや宇宙とか理解がある奴以外には逃げられたし、逃げなかった奴にも風評被害で随分と迷惑かけた。ただ学園都市って、寮以外で家族と暮らす為には稼がなきゃいけないから」

「……裕香ちゃんが、離れるのを嫌がったんですね?」

「ああっ――バカだ俺。自分には関係ないって突き放す事が、どれだけ残酷な事か知ってた筈なのに」

 そう言われて、ひばりは――

「……ああっ、そっか……そう言う、事だったのかな?」

「? どうかした?」

「いえ……さ、行きましょう」


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