雲雀の願い(前篇)
「――どうだ? 新しい良い子探しは」
「……まだ全然です。それに今はまだ、今の自分に慣れるので精一杯で」
「精一杯なら、それに専念すれば良いよ。一度に2つの事やろうったって、出来る訳ないんだから」
時分は昼休み。
定例の、ひばりの裕香との共同生活報告は今やすっかり日常となり、裕樹もひばりも気付いていないが、既に周囲からはデートだと言う認識されていた。
特に、裕樹の妹の裕香が、今はひばりと一緒に住んでる事や、一緒に仲良く買い物してるのもよく見かけられており、その情報はすっかり確定された物と見なされている。
「増してひばりは、ずーっと自分を良い子って枠に押し殺して、後ろばっかりをみて走り続けてたんだから、前や左右がわからなくて当たり前だと思うから」
「――否定はしませんけど、裕樹さんにとってのあたしってそうなんですね」
「ヘタな慰めは逆効果だろうから、多少は無神経じゃないと」
「裕樹さんは女性限定で常に無神経じゃないですか。何度言っても背と胸の事を平然と口にするし、昨日だってまた宇佐美ちゃんにセクハラして、頬にビンタ受けてたのに」
それを持ちだされてはぐうの音も出ない為、裕樹は顔を背ける。
「――ちょっとは自覚出てきたんだと喜んでおきます」
「――あれ? 怒らないの?」
「怒ってます!」
更に言えば、良くひばりを怒らせてるのも、既に尻に敷かれてる物として確定事項として扱われている。
「――しかし、なんと言うか」
「なんですか?」
「怒ってる姿もそうだけど、普段も以前に比べて自然になったなって思って」
「――ええ、そうかもしれませんね。今となっては、以前の喜怒哀楽って全部重かった様に思えてますから、少しは落ちついて……」
ガッシャーーン!!
「ん? なんだ?」
「あっ、あれは!」
『ギャオオオオオッ!!』
突如の轟音に眼を向けた先には、恐竜型の古代種系の違法改造召喚獣。
しかも大型の為、周囲は逃げまどい保安部員は応援の要請をしつつ、避難を誘導する。
「大丈夫か、ひばり?」
「――はい、あたしは……!?」
「――無事で何より。まずはここから……っておい!!?」
ふと見た先にひばりの姿はなく、ひばりは違法召喚獣が暴れてる付近に倒れてる女の子に向け、駆けだしていた。
「大丈夫?」
「うえええええん!」
「よしよし、すぐにお姉ちゃんが安全な所に……あっ!」
女の子の手を握り、立たせている間に自分たちに影がかかる。
背にぞっと悪寒を感じ、振り向くと――
『グルルルルルッ!』
「――!」
違法召喚獣が自分たちを獲物とみなし、今にも飛びかからんとしていた。
腕が振り上げられるのを見たひばりは、咄嗟に女の子を庇う様に抱きかかえ--
ヒュンヒュンヒュン――ドス!!
『ギャゴォォォオオオオオオ!!』
それと同時に、違法召喚獣の目に投擲された大刀が突き刺さった。
「大丈夫か!?」
「裕樹さん!」
「全然落ちついてないだろ!」
「――ごっ、ごめんなさい」
「――まあ良い。ひばり、そのままその子抱きかかえといてくれ。動くなよ?」
D-Phoneを取りだし、もう1本大刀と3本の刀を具現化し、大刀を担ぐように構えて、もう片手で3本の刀を指で挟むように持つ。
「ちょっと、裕樹さん!? カグツチがいないのに、そんな相手を……」
「大丈夫――もっとでかいのを何回も討ち取ってんだ。それも、こんなチャチな紛い物じゃない、歴戦のをな」




