学園都市の闇夜
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!』
学園都市、第24番高等部。
夜の時分も更けた時間、その校舎内で――
『ズルっ……グチャっ!!』
両腕を縛られ、天井から宙吊りにされている男子生徒が1人。
ある女子生徒に痴漢冤罪の濡れ衣を着せられ、周囲から迫害された揚句、その女子生徒がリーダーの集団から日課のように、その内の1人の電子ツール実験と称したリンチを受け、今日もそうなる筈だった。
しかし――。
『ぷふぅっ……』
その男子生徒は眼の前で、何が起こったかが理解は出来なかった。
いざリンチが始まろうと言うその時、確かに眼の前に居る冴えない男が入ってきた事は覚えている。
そして、その冴えない男が女子生徒達に何か話し、女子生徒達が激昂して……。
「――あーっ、やっぱ不味い」
何をしたのかが、わからない――と言うより、現実の物と受け入れる事が出来なかった。
DIEシステムにより、ある程度の非現実は学園都市では通用する物の、それでも――。
「あーあっ……女の子なのに、みーんななんかすごい顔してるね?」
「――断末魔なんてそんなものさ」
男子生徒の動揺が収まらないまま、1人の初等部の少女が男に駆け寄った。
「手緩い――いっそ全員の歯と爪をへし折り、顔の骨を砕けばいい物を」
「いや、痛みだけっつったって幻覚作用も働いてんだから、ヘタすりゃテメーの拷問よりきついぜ? --特に眼の前で腕を食いちぎられて、それをバリバリ喰われる光景なんて」
「――肉体的にはともかく、精神的にもきついのは、僕も同じなんだけどね」
「そりゃああんたそもそも、人を傷つける事が出来ない人間なんだから無理ないだろ」
次に入ってきたのは、ニュースサイトの手配書で見る2つの顔。
1人は周囲をゴミを見る眼で見回し、吐き捨てる様な辛口コメントを冴えない男にぶつけ、1人は肩をすくめて冴えない男にフォローをする。
「そうだね――正直な話、悪党だとわかってても今すぐにでも吐きそうだし、好き好んで傷つける事の意味も理由も、理解出来やしないよ……一生ね」
「――くだらん。命とは守る物ではなく、駆逐する物……それが人間の真実だと言うのに」
「人間の、じゃなくて俗物のだよ。俗物は私利私欲でしかものを考えない--だから人の世には常に差別と暴力が絶えないのさ。この雌共の様にね」
そう言って、冴えない男――東城太助は、ゆっくりと宙吊りの男に歩み寄る。
パチンッと指を鳴らすと、ロープが切れて男は落下し、尻餅を突いたと同時にD-Phoneを突きつけられる。
「――良いかい? これにはコイツ等の本性、そして君の無実の証拠を記録したデータが入ってる。このデータは君にあげるから、後は君が好きな様にすればいい――復讐するのも情けを掛けるのもね」
そう言い捨て、男のD-Phoneにデータを転送する。
「見つけたぞ東城!!」
「ああっ、丁度よかった。そこの彼よろしくね?」
「これは――ちっ、またか。いい加減に教えろ、お前の目的は一体何なんだ!?」
「そんなのどうだっていいんだよ。手柄なら全部あげるから」
「そう言う事言ってんじゃない!! って待て!!」
その後、結局太助には逃げられ、歯噛みをしつつも男子生徒を保護する事にした。
「――成程な」
「――あの、彼は一体何者なんですか?」
「わからん……それで、ここで一体何があったんだ?」
「――僕も、良くわからないんです。眼の前であの、東城って呼んでた人が……その、明らかに人間じゃない、何かのバケモノの姿になって、彼女たちを蹂躙した様な……」
「――なん、だって? 電子召喚獣を出した、とかじゃないのか?」
「いえ……彼自身が明らかに、人の身体じゃなくなってました」
「東城、お前は……人間じゃなくなってまで、一体何をしようとしてるんだ?」




