アスカのライブ!(5)
ガシッ!
犬神彰の回し蹴りを、龍星がガード。
そのまま足を掴み、ブン投げようとしたのを地に手をつき、身体を捻ってもう片方の足で腕を払い、その勢いを利用し再度回し蹴りを今度は命中させ、バク転で距離を取る。
「ちっ、すばしっこい」
「オッサンみたいなデカブツにゃ、俺のスピードは捕らえられねえぜ」
「おっさんと呼ぶな! 煌炎!」
「おっと、出番だぜキテン」
犬神の身体を覆っていた雷獣の鎧が剥がれ、電子召喚獣の形を取り始める。
身体を震わせ、猫の姿から獰猛な虎に姿を変えた煌炎と、元の姿に戻ったキテンが唸り声を上げ合いながら対峙する。
『グルルルルっ!』
『ガルルルルっ!』
「これでアドバンテージはなくなったな」
「ぬかせ、それでもおっさんにゃ捕らえられねえ」
「だからおっさんと呼ぶな!」
犬神のパンチを龍星がガードし、龍星のパンチを犬神がよけ、拳のラッシュ合戦に。
「おおっ、流石は龍星のダンナ」
「余所見してんじゃねえゾ!」
もう一方では、光一が毒島と対峙。
ただし龍星達のラフファイトと違い、光一が挑発と牽制で8つ頭の蛇が吐き出し咥えた形で露わになっている武器の猛攻を、のらりくらりと回避している。
「そこダ!」
「コクテイ」
回避しきれない攻撃は、凶暴化させたコクテイの牙(ウィルス仕込み)で食いちぎり、一定の距離を取りつつ対峙する。
「おいおイ、時間稼ぎたあどういう量見だイ?」
「別に、勝負も所詮は手段の1つさ」
「――そうかイ」
ふと毒島が周囲に目を向けると、裕樹の手で召喚獣は次々と撃破されており、避難は半分ほど完了している。
「――避難を待って多勢で取り囲む魂胆かイ」
「その通り。少なくとも、お前らの切り札は到着が遅いのはわかりきってんだ。まあわかった所で、対応なんてさせないがな」
「対応? ――出来んのかヨ?」
「出来なきゃ言わ……」
「――めんどくせえ」
「え……?」
ゆらりとした気配に、気だるげなセリフを聞いた途端、光一はぞっと悪寒を感じる。
咄嗟に振り向き、銃を構えようとするも、その前に顔面に拳がめり込み――
「きゃあっ!」
「光一君!?」
つぐみ達が隠れている所に吹っ飛ばされ、そのまま意識を失った。
「思ったより早かったな、ボス」
「5、60分は覚悟してたってのにヨ」
「――めんどくせえ」
「――厄介なのが」
ハンター組織“暴食の獏”ボス、荒川公人。
現在の学園都市手配犯の最上位に位置する、SS級手配犯に数えられる男。
気だるげな雰囲気を纏いつつも、鳴神王牙に匹敵する2m14cmの巨体に、160kgの超重量級の体躯は、それを補って余りある威圧感で、対峙する龍星も圧倒する。
「保安部、援護してくれ!!」
「了解! 安全が確保でき次第、荒川公人の捕縛に!! ――光、俺達は犬神と毒島を停めるぞ!」
「あっ、バカ野郎! 手を出すな!」
龍星は大輔に向けてそう叫び、裕樹が咄嗟にそれを停めようとするも、大輔も即座に周囲に指示。
間もなくして、重量級の保安部員が3名、スクラムを組んで突撃し、龍星も後に続く。
「心配するな裕樹! 1人で止められるとは思ってない」
「めんどくせえ――だから?」
突撃は公人にたたらを踏ませただけで、後はびくともしなくなる。
それどころか、公人は表情一つ変えず一歩踏み進み、押し返され始めた。
「うっ、うおっ!!?」
「――めんどくせえ」
気だるげな表情のままで、公人が腕で突っぱねる様に押し返し、右腕を振り上げて1人殴り飛ばす。
その勢いを利用し身体を回し、ラリアットでもう1人薙ぎ払い、その後ろの1人をその回転の勢いを維持したままボディブロー。
続く龍星にも、その勢いを殺さないまま裏拳を仕掛けるが、龍星は咄嗟にガードし――ガードごと吹っ飛ばされ、背中から倒れ込む。
「つっ……ガードする意味さえないとは」
「――めんどくせえ。今ので倒れないとか、榊龍星めんどくせえ」
「うっ、うおっ!!?」
腕を引っ張り上げられ、その際にベルトを掴まれ龍星はそのまま持ちあげられた。
「――めんどくせえ」
「なんて言いながら、俺を簡単に持ち上げるな! 馬鹿力が!!」
「ったく、だから言わんこっちゃない!」
「おっと、行かせねえよ」
「邪魔だ、どけ」
「少なくとも、保安部の大半は片付いて貰わないとな」
「--邪魔だ、どけ」
「--眼中にねえってかおい!?」
「時間稼ぎなんて言わズ、ぶっ殺してやル!!」
「だ・か・ら--邪魔だ、どけ!」




