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キネマトグラフ

ボールペン

作者: 水上 遥

あの時、落としちゃったのはきっと

ボールペンのキャップなんかじゃなく

もっと大切な何かで


そのせいで今の僕は

カサカサに乾いちゃって

何も描けなくなったよ



二時間目まではサボって

コーヒー牛乳を飲もうよ

ナポレオンなんかより

やることはあるはずさ


授業中の廊下みたいな

ドキドキ出来る場所を

もっと今のうちに探しておこう


「出入り禁止」の非常階段で見た

ひこうき雲はいつまで残ってたかな

僕らは見つからないように

誰も見せてくれないものを探してた


斜め後ろの子が持ってきた

あの猫のぬいぐるみも

もうすっかり汚れちゃって

まるで僕らみたいだなぁ


数学の時間にこっそり借りて読んだ

あの小説の続きは

結局、読まずじまいだなぁ



あの時、落としちゃったのはきっと

ボールペンのキャップなんかじゃなく

もっと大切な何かで


そのせいで今の僕はとても

カサカサに乾いちゃって

何も描けなくなったよ



午後の授業中、居眠りをした時に見た

夢よりも綺麗になれたかなぁ

ずっと遠くまで行きたかったけど

僕は本当にそう思っていたのかなぁ


なんとかしてここに立っているのに

なんで少しも満たされないんだろう?



それでも



あの日キャップをどこかに

落としちゃったから

カサカサに乾いてても

剥き出しのまま描くよ

もう綺麗な色は

出てくれないけど

力強く書けば

跡くらいなら残せるから



あの日、笑えたことでもう笑えなくなっても

あの日、泣いたことでもう泣けなくなっても

まだあの頃は綺麗だったから

ひょっとしたらまだ書けるから

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