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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
99/163

問題児対決、決着

「……錬闘硬鬼!」


 突っ込むと同時、ゼアスは四つの気の融合を発動させる。近接の、やや防御よりな構成である。それはルクスの気が尽きるまで耐え切ってみせるという意志の表れだった。


「……」


 対するルクスは、突っ込みながら黒気を収めた。


「……てめえ、どういうつもりだよ!」


 それでも黒気で突っ込んだ勢いはあまり衰えずゼアスと激突する位置まで到達し、ゼアスが苛立ったように拳を振るう。身体能力の強化が二種類とはいえ、気の四つ融合。かなりの速度ではあるが、ルクスはそれを紙一重でかわした。


「……別に、手加減する気はねえよ」


 ルクスは言って、ゼアスの振るう拳を避ける、避ける、避ける。必要最低限の動きで、拳が動く前に回避行動を開始していた。それはまるで動きを先読みしているようで、ゼアスの攻撃を紙一重でかわしているのは完全に攻撃を見切っているからだと言っているようなモノであった。


「じゃあ何なんだよ!」


 ゼアスは拳の連打からいきなり足払いに切り換える。上手い手であったが、ルクスは何も驚かずに軽く跳躍することで回避し、前に出てこないことを幸いにと後ろに下がる。


「……ただ、四分の一を元に戻すには四倍が必要で、四倍で殴ったらお前の体質に半減させられるから、何倍ならいつも通りがいいんだっけかな、って思ってな」


「……あ? そんなもん、八倍に決まってんだろ!」


 ゼアスは苛立ったように拳を放つ。


「……そりゃ良かった、八倍黒気!」


 その一撃を掻い潜ったルクスは、左拳に強大な黒気を纏い、ゼアスの腹部に叩き込んだ。


「……がっ!」


 ゼアスは堪らず外壁まで吹き飛び、再び埋もれる。


「……お前の体質の嫌なとこは使ってる俺の方が感覚としていつも通りなのに減ってるってことなんだよな。だから一々何倍かの力で放たないと元の威力は出せないって訳だ」


 嫌らしいヤツ、とルクスは左拳にだけ黒気を纏わせて言う。


「……チッ。それにも気づきやがったのかよ。普通に使ってれば、減ったことにさえ気づかせねえってのがこの体質だ。大体てめえが一発で気づかなきゃバレねえんだよ」


「……ま、気づかれたんだから諦めて俺と打ち合おうぜ、ゼアス。気も残り少ないんだろ? 俺もそうだ。だから真正面から打ち合ってケリ着けようぜ」


 ルクスは舌打ちするゼアスに笑って言い、構えた。


「……チッ。分かっててやってんだろ、このクソ野郎が」


 ゼアスも忌々しげに言いつつ、受けて立つようだ。構えて突っ込んできた。


「……生身で気の四つ融合に勝てると思ってんじゃねえぞ!」


「……てめえこそ気の四つ融合を習得したくらいで、いい気になってんじゃねえよ!」


 ゼアスとルクスの拳が、激突する。右と左だったのでもちろんゼアスの拳が弾かれ、大きく体勢を崩す。


「……今のが十六倍で通常通りだから、三十二倍!」


 ルクスは計算しつつ左拳の黒気を消し、右拳に三十倍の強大な黒気を発動させて、ゼアスに殴りかかる。


「……甘えんだよ!」


 だがゼアスは拳だけを強化しているため別に攻撃速度が上がった訳ではない一撃を避けると、カウンター気味に左拳をルクスの脇腹に突き刺した。


「……ぐっ!」


 ボギリ、と嫌な鈍い音が会場に聞こえ、小さな悲鳴が上がる。ルクスは身体をくの字に折ったまま動かず、ゼアスはもう一撃と動き出す。


「……追撃は間髪入れず、だろうが!」


 だがルクスは不意に起き上がり右拳をゼアスの顔面に叩き込んだ。


「がぁ!」


 ゼアスはレイヴィス越しではない状態でまともに一撃を受け、再び外壁に突っ込んだ。


『……はっ! わたくしとしたことが、実況を忘れて見入ってしまいました! まさしく意地と意地のぶつかり合い、倒れた方の負け! 男同士の熱い戦いが繰り広げられています!』


 今まで静かだった実況を務める女子生徒が我に返って言うと、会場もその意を汲んで一気にボルテージを上げる。


「……クソがっ!」


 ゼアスは瓦礫の中から飛び出すと同時、肋骨を折ったと思われるルクスに突っ込み顔面に一撃くらわせる。


『おおっとこれはゼアス君が執念の一撃! 気の消費が多いと思われる黒気のためか拳だけに気を集中させるルクスの生身の身体に容赦ない攻撃をくらわせるーっ!』


 ゼアスは一撃では倒れないルクスを見てか、続いて拳を叩き込む。左右の連打である。そんなゼアスに「いいぞ、やれやれ!」というような声援が、やられるルクスには「頑張れ、負けるな!」というような声援が飛ぶ。今まで応援より野次の方が多かったゼアスに自覚はなかったが、それらの声援は確実に力になっていた。


「おらぁ!」


 思わず、連打でフラフラのルクス相手にトドメになりそうな渾身に蹴りを放つ。だがルクスはそれを待っていたかのように屈んで避けると、


「……二千、四十八倍!」


 ゼアスの身体がくの字に曲がる威力の拳を腹部に叩き込み、再度外壁に突っ込ませる。


『ルクス、意地の一撃! 理事長の張った結界が無意味な紙切れのように破壊される強烈な一撃が、再びゼアス君に叩き込まれたー!』


 実況の女子生徒が言うと理事長が上から睨んでいて、後で確実に説教されると思われた。


「……ハァ……ハァ」


 生身で気の四つ融合を受け続けたルクスは、すでに活気で回復する余裕もないくらいに気を失っており、拳にある黒気も風前の灯と思われた。ルクスの身体はレイヴィスもなくゼアスの拳を受け続け所々に痣が出来ており、口端からは血が流れ、右目の瞼が腫れてほとんど見えていない状態である。それでもルクスの目は死んでおらず、確固たる意志が根づいていた。


「……チッ! 俺は、負けられねえんだよ!」


 ゼアスも魔力は切れたようで回復が疎かになっていたが、死ぬ気で突っ込んでくる。ほとんど立っているだけでも奇跡といえるルクスはゼアスの勢いをつけた一撃が避けられず、顔面に右拳を受けて大きくよろめく。


「……俺もな、負けられねえんだよ」


 だがルクスの意志は途切れない。


「……俺は、大将だからな!」


 ルクスは起き上がり様に黒気を纏った右拳をアッパーの形で放つ。もちろん四倍にして。


「……俺も、同じなんだよ!」


 だがゼアスはその一撃をかわし、振り下ろし気味にルクスの顔面を殴りつけた。ルクスは再び大きくよろめく。


「……お前はさ、あともうちょいで届かなかったって、そういう思いをしたことはあるか?」


 ルクスが不意にゼアスに問いかける。


「……ねえよ。それがどうしたってんだ!」


 ゼアスは言ってルクスの顔をアッパーで弾き上げる。


「……じゃあ、俺には勝てねえよ。三万、二千、七百六十、八倍!」


 オーラがフィールド中を覆う程に、左拳の黒気が大きくなる。


「……ぐっ! あぁ! 負けられねえっつってんだろうが!」


 しかしゼアスはくらったら外壁に突っ込む程吹き飛ぶその一撃をくらっても、意地だけで耐え切りルクスの腹部に拳を叩き込んだ。


「……あ、ぐ……」


 ルクスは思わず呻いて数歩後退する。立っているのもやっとの状態で追加攻撃を受けるのはマズかった。


「……ハーッ……ハーッ」


 だがそれはゼアスも同じで、回復するための魔力が尽きており、ただの精神力で立っているに過ぎない。


「「……」」


 二人共身体もボロボロで体力も尽きかけ、気を維持し続けるのも厳しい状況である。


「……気づいてるかよ、さっきまで悪役だった野郎」


「……あ?」


 ルクスの少し楽しそうな声に、ゼアスは苛立った声音で返す。


「……」


 が、そこでようやく気づいた。自分達を応援する声が聞こえるのを。顔を上げてみると、幻聴ではなく、事実だと分かる。観客が二人のどちらかを応援し、二人のクラスメイトが声を枯らして叫ぶ。心配そうに見つめている人もいれば、応援に声を張り上げる者もいる。


「……ま、ここまで死闘を演じればそりゃ応援もされるだろ」


 少し戸惑ったようなゼアスの顔を見てか、ルクスが言う。


「……」


 ゼアスはしかし何も言わない。


「……決着といこうぜ、ゼアス。この後どっちかが会長戦を控えてるんだ、さっさと終わらせるべきだろ」


「……この後何て考えてる場合かよ。俺は充分満身創痍だっつうの」


「……俺もだ。けどま、応援してくれてるヤツらがいることだし、終わらせるとしようぜ」


 ルクスは言って、ズルズルと一歩を踏み出す。ゼアスもゆっくりとだが、一歩を踏み出す。


『……さあ、最後の攻防となりそうです! 果たして準決勝を勝ち進み、最強の生徒会と戦うのはどちらなのでしょうか! いよいよ決着の時が迫ります!』


 実況が言い、会場は盛り上がる。


「……俺は、負ける訳にはいかねえんだよ!」


 まず、ゼアスが跳んだ。全身を強化しているため出来る、渾身の一撃だ。跳んだ勢いそのままに、ルクスを殴りつける。


「……負ける訳にはいかねえだと? じゃあてめえは何のために戦ってんだよ」


 ルクスは顔面を殴られ大きく仰け反りながらも、倒れない。


「……うるせえよ。てめえはさっさと倒れてろ!」


 ゼアスは仰け反ったルクスの顔面に、もう一度拳を叩き込む。気が右拳に集中しており、トドメのために放った一撃だと分かる。


『これは決まったかーっ!?』


 後ろ向きに倒れていくルクスを見て、実況が言う。だが、ルクスの身体は地面に倒れ込む前で止まった。


「……おぉ、サンキューな、黒気」


 ルクスの右拳から伸びる黒気の一部、黒ずんだ帯のようなモノが束になっている、それがルクスの身体を支えていた。


「……てめえ、ふざけてんのか? それはてめえがやってんだろうが」


 ゼアスはルクスを睨みつつ、気の四つ融合を解いた。解いたのではなく、もう気がなくなってしまい消えたのだが。


「……いやいや、ふざけてねえよ。こいつは結構なじゃじゃ馬でな。俺の言うことを聞かないことが結構あるんだ。襲撃ん時も勝手に動いて他の場所行ったんだしな」


 黒気にゆっくりと起こされるルクスは苦笑して言う。


「……はっ。便利なヤツだな」


 ゼアスは言って、しかし何もしない。いや、出来なかった。


「……もう二倍しすぎて数覚えてねえなぁ。途中記憶ぶっ飛んでるし。ま、いっか」


「……ふざけてんのかよ、全く。完敗だな、クソ野郎が」


「……どこがだよ。俺はもうほとんど動けねえっての」


 ルクスが言って左拳に黒気を発動させると、ゼアスは笑う。


「……はっ。クソが、降参はしねえからさっさとやれよ、ルクス」


「……おう。数日間目覚めないと思っとけよ、ゼアス!」


 ゼアスが言って両手を広げると、ルクスは最後の一歩を踏み出し、渾身に一撃を、ルクスの後ろ全体を黒気が覆う程になった左拳を、ゼアスの無防備な顔面に叩き込んだ。


 ゼアスは力なく吹っ飛び、結界を破って外壁に突っ込み、埋まる。今度は崩れた瓦礫から出てくることもなかった。


『決まったーっ! これは勝利の一撃! これがルクスの意地!』


「……三勝二敗により、勝者、一年SSSクラス!」


 実況が言い、少し遅れてレフェリーが宣言する。会場は大歓声に包まれた。


「……どーよ」


 ルクスは笑ってクラスメイトの方を向き親指を立てる。そこからは慌てて医療メンバーの二人が駆け出す姿があり、ベンチ総出で駆けてきていた。それで安堵の表情になり、黒気を収めるルクス。


「……」


 ルクスは黒気を収めてから、糸の切れた人形のようにドサリと崩れ落ちた。


「「「……っ!?」」」


『勝者のルクスも崩れ落ちる! ってかヤバい倒れ方だったんだけど大丈夫!?』


 明らかに大丈夫ではない倒れ方に観客と実況が驚く。何だかんだ言いつつ、ルクスは最初壁に叩きつけられてから一回も倒れていない。ただの痩せ我慢にしては耐えすぎなのでまだ余裕があるモノだと思っていたのだ。


 勝者も敗者も、両方が倒れ自力で帰ってこれないどころか意識を失って、準決勝二戦目は終わった。

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