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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
93/163

副会長VS司書

活動報告でコメントを貰い、書く意欲が沸き上がっています

 出来ればコメントをしていただけると更新スピードも上がります


 四月スタートの新作は二つか三つになると思いますが、一ヶ月毎日更新キャンペーンが出来そうです

 三年SSSクラスVS二年SSSクラスの試合もいよいよ終盤に差しかかっていた。


 第四戦目、生徒会副会長であり“全知全能の女神”と呼ばれるイリエラ先輩と二年三大美女であり“魔天の司書”と呼ばれるアンナ先輩の対戦だ。


 互いにシア先輩と並び称される最強の魔法使いと名高い二人だ。どっちが勝つかなんて想像もつかない。


「始め!」


 レフェリーが開始の合図をするとすぐに壁際に寄って退避する。……二人の魔法合戦に巻き込まれたら堪らないだろうからな。


 試合開始前に理事長が結界を強化するためか魔法を唱えていたので相当なんだろう。


 と、俺はセフィア先輩の試合が終わってからすぐに買ってきたジュース三本の内一本を飲み干しながら他人事のように思っていた。


「……あんまり飲みすぎるなよ。試合中にトイレ行きたいとか洒落にならないからな」


 すぐ二本目に手をつける俺を見てチェイグが咎めるように言う。……俺もそこまで子供じゃないって。ちゃんと試合前にトイレ行くっての。


「……大丈夫だって」


 俺はチェイグに言いながら二本目のジュースを一気に飲んでいく。


「「……」」


 二人は開始早々から一言も発せずに巨大な魔方陣をいくつも展開していく。……嵐の前の静けさって感じで、会場をすっかり静まり返っている。


「「……いきなさい」」


 そして二人同時に展開した魔方陣を起動させる。もう何が何だか分からない程に、魔法の嵐が吹き荒れる。火――と言うよりは劫火、水――と言うよりは津波、雷――と言うよりは万雷、土――と言うよりは大地、木――と言うよりは密林、風――と言うよりは嵐、氷――と言うよりは吹雪、光――と言うよりは光明、闇――と言うよりは暗黒。


 全てが上位系統であり、全てが広範囲に効果が及ぶ必殺の魔法だ。


「……魔導」


 だがイリエラ先輩は全属性、つまりは虹色の魔導を杖に纏い、


「……喰らえ、グリモア」


 アンナ先輩は巨大で分厚い本を開き、黒々しい光を放って魔法を全て吸収していく。


「「……」」


 双方共に驚いている様子はない。互いに互いの実力が分かっている、ということだろう。イリエラ先輩が杖に纏わせた虹色の魔導とアンナ先輩が持つグリモアの輝きが増す。痛み分けといったところだろうか。


「「……」」


 二人は時々詠唱しながら無詠唱を中心に魔法を撃ち合いを始める。……やっぱり訳が分からないんだが、物凄い迫力と衝撃だ。全てが必殺級の魔法で、次第に互いの持つ魔導とグリモアの力が増していくのに伴ってどんどん迫力も増していく。


「……物凄いな」


 一瞬で数百の魔方陣が展開され、ぶつかって相殺し相殺しなかった部分は互いを襲うんだが、吸収されて全くの無傷。魔力が切れた方が負け、だろうが多分このままだったらアンナ先輩が勝つな。


 グリモアは力を喰らって力を増していく本だが、魔力を持ち主に還元する効果も持っている。それに対して魔導は纏った属性を吸収して力を増すが、魔力は戻ってこない。むしろ消費されていくばかりだ。


「……」


 それはイリエラ先輩も分かってるんだろう、一度に千単位で魔方陣を展開し始めた。およそ二倍から十倍の数だ。グリモアが処理し切れないのを狙ってのことだろう。実際に、グリモアが放つ黒々とした輝きを破ってアンナ先輩に魔法が襲いかかる。だがアンナ先輩も負けてはいない。というか読んでいたんだろう、防御の魔法を展開して防ぎつつさらにグリモアの輝きを増させて魔法を残らず吸収した。


 だがイリエラ先輩は手を緩めることなく魔方陣を展開し続ける。魔力が減っていくのが明確に分かる程大量の必殺級の魔法を叩き込んでいく。アンナ先輩も負けじと魔法を放つが一気に展開出来る魔法の数が違うのか全て押し返されてしまう。


「……グリモア、吐き出して」


 イリエラ先輩の猛攻が魔力切れを懸念してか緩まってきてから、魔法の嵐が巻き起こっている中心からアンナ先輩の平静な声が聞こえた。


「「「っ……!?」」」


 おそらくグリモアで今まで吸収してきた魔法全てを吐き出したんだろう、数万の魔方陣が一気に展開され、武器に纏わせる魔導では吸収し切れずにイリエラ先輩を傷付ける。……だがアンナ先輩も無事ではない。全身にダメージを負っていて、イリネラ先輩よりも少しマシ、という程度だった。


「「……」」


 双方共魔力をかなり消費していて、傷も同程度。かなり互角の戦いとなっていた。


「……」


 これは分からなくなってきたな、と思いながら俺はチューと三本目のジュースをストローで飲み干していく。……ああ、レモンスカッシュジュースは美味いな。爽やかでレモンの風味があって、美味い。


「……アンナ。あれ、使わないの?」


 イリエラ先輩は息切れしながらアンナ先輩にそう聞いた。……あれ? 何のことだろうか。


「……それはいいですけど、じゃあ互いに全力で潰し合いますか?」


 アンナ先輩も息を切らしながら尋ね返す。……互いに全力を尽くす、ということらしい。潰し合うなどと物騒な言葉が聞こえたが、無視だ。


 ……ってかトイレ行きたくなってきたな。どうしようか。


「……いいわよ」


 イリエラ先輩は頷き、魔導を解除する。だがアンナ先輩のグリモアは輝きを一層増していく。


「……金魔導」


 イリエラ先輩は金色の魔導を杖に纏わせる。……何だ? 光なら黄色だし、金の魔導なんてないハズなんだが。


「……あれがイリエラ先輩の金魔導だ。特殊属性の一つを魔導にした超レアな魔導だ。そして、最もイリエラ先輩が得意とする魔導だ」


 他に使える人は確認されてない、とチェイグは言う。……なるほどな。だから防御のために使っていた虹色の魔導の中にこの金魔導ってのは入れなかったのか。相手が使わないなら吸収させる意味がないからな。


「……金、輪、雀、剛、玉、黄、色、砂、純、粉、塊、白、輝、栄、明、閃、日、陽、月、陰」


 ブツブツとイリエラ先輩が一言ずつ呟いていき、掲げた杖の前に読めない文字のような紋様を描く。それを次々と連ねていって、魔方陣を展開しているようだった。


「……ソロモン七十二柱、七つの大罪、八人の下位王子、召喚」


 アンナ先輩も本気を出したようで、グリモアからページが一人でに破れてフィールドに散らばっていく。……グリモアに載ってる悪魔達が次々と召喚されていく。滅茶苦茶ヤバいヤツも混じってるのでかなりの圧力が感じられる。


「……切り札はいいの?」


 しかしイリエラ先輩は準備が整ったのかアンナ先輩に聞く。……まだ切り札がいるのか。すでにもうグチャグチャの混沌状態だってのに。異形の怪物が多すぎて混雑している。


「……アンナ先輩のグリモアは書物に記した存在を模倣して召喚することが出来るんだ。だからその気になれば伝承に残ってるモンスターや神の模倣したヤツを召喚出来る。その中でもアンナ先輩が最も得意とするのが、あの悪魔の大軍召喚だ」


「……重複してるのが一体なのは書物に記してるからか」


 同じヤツを書いたって仕方ないからな。


「……ああ。で、伝承でしか残ってないような最強の悪魔を切り札として召喚出来るんだ。もちろんアンナ先輩の実力があってのことだが、先々代グリモア所持者がその悪魔に会って記したそうだ」


 俺の言葉に頷きつつ、チェイグは苦笑して言った。……マジかよ。半端ねえな、先々代グリモア所持者。ちゃんと生きて帰ってきたんだろうか。


「……分かりました。ミシャンドラ、召喚」


 アンナ先輩が嘆息混じりに呟くと、グリモアから複数のページが破れて飛んでいき、円を描いて召喚の魔方陣を描く。……ヤバい。理事長の強力な結界の外にいても感じるこの威圧感。見た目はただの気持ち悪い化け物だが俺が黒気使って命投げ出しても勝てるかどうか分からない程強い。


「「……」」


 二人の準備が整い、静寂が訪れる。悪魔の軍勢対金の巨大な魔方陣。


「……いきなさい」


 まずアンナ先輩が悪魔達に命じる。


「……金剛蓮華・煌皇光祭!」


 突っ込んでくる悪魔達に向けて、俺が知らない魔法を発動させる。巨大な魔方陣から、巨大な金色の光線が放たれる。ただそれだけの魔法なのかもしれないが、悪魔達はその光に照らされただけで蒸発し、消失していく。……悪魔が苦手な光なのか? これじゃあアンナ先輩が……。


「――」


 だが金色の光線は一体の悪魔によって掻き消された。他の悪魔達の陰に隠れながら光線に対して攻撃した、最強の悪魔かもしれないというミシャンドラだ。


「……っ!」


 イリエラ先輩は目を見開き、しかしフッと微笑んだ。


「……降参、するわ」


 イリエラ先輩は負けを認め、魔力が切れかかっているのかフラフラとした足取りで自分のクラスのベンチに戻っていく。


「……勝者、二年SSSクラス!」


 レフェリーが宣言して二勝二敗となった今、鼓膜が破れるかと思う程の大歓声が響いた。……アンナ先輩も限界だったようで、ミシャンドラを消してグリモアを閉じるとフラフラとよろけながらベンチに戻っていった。


 ……いい戦いだった。これで、ついにシア先輩の戦いとなる。なるのだが――。


「……シア先輩の試合だってのに、トイレ行きたい」


 俺はさっきから我慢していた尿意が限界に達していた。


「……だから言っただろ。シア先輩も成長してるから瞬殺はないだろうし、今の内に行ってこればいい」


 チェイグは仕方ないなとばかりに苦笑して言った。……それしかないか。


「……すぐ戻る!」


「始め!」


 俺が抱えていたフィナを退かしてダッシュで一階にあるトイレに向かおうとすると、背中からレフェリーの合図があった。……早いって! もう少し待ってくれよ!


 俺はそう思いながらも、急いでトイレに走った。

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