書記VS剣聖
活動報告で新作のアンケート? を実施しています
四月から始まる予定なので、良かったら見てみて下さい
「「「わあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
二敗してしまった二年SSSクラス。だがそれだけに、セフィア先輩が登場した時の歓声が大きい。
「……」
白いに近いピンク色のポニーテールをして左腰に刀を提げる二年三大美女の一人にして、俺の気の最初の弟子とも言える、セフィア先輩。
「……」
対するは生徒会書記、丸眼鏡におさげと言う地味な雰囲気だが、その手に持っている羽根ペンで書く魔方陣はオリジナルのモノさえあるという、シェリカ先輩。
近接武器と魔法という、若干セフィア先輩に不利な相手だが心配はしていない。
セフィア先輩ならそんなこと関係なしに勝ってくれるだろうという確信があるのだ。……もちろんただの勘で、根拠のない確信ではあるんだが。
「始め!」
何より二年SSSクラスが、このまま終わる訳がないという期待が大きい。それは会場も同じようで、声援を送りながらも期待の眼差しが多い。……とか言って三年SSSクラスの圧勝で終わって欲しいと思われてたら俺の勘はクソみたいになってしまうんだが。
「……そういえばさ、チェイグ」
「……何だ?」
「……思ったんだが、クラス対抗戦の一、二回戦は必ず五回やるっていうルールなんだが、前に後ろの二人か一人が全く戦わないで終わったとことかがあるのか?」
「……まあな。今回の場合、例えば三年SSSクラスと戦った相手のクラスがそのルールなしでやった場合、二人は完全に戦わないで終わることになる。互いに死力を尽くして戦う場に出られる機会は少ないからな。貴重な機会を増やすために、全クラス五人全員出られるようにルールを作ったんだ」
チェイグが説明してくれる。……そういえば俺達も、初戦は五勝で勝ってるんだよな。そう考えるとこのルールは必要か。
「……まあ負けるだけなら結構あるから実力が足らない、の一言で済ませてた二代前の理事長がいたんだが」
しかしチェイグは苦笑して話を続ける。
「……二十年ぐらい前に、たった三人で三度優勝した最強のクラスがあってな」
……ん? 二十年前? 何か嫌な予感が……。
「……まあこれだけ言えば分かると思うが、ルールがルールだけに三戦しか出来ないと踏んだ当時の最強が二年連続三人のみの出場で優勝し、結果三年目にこのルールが作られた。もちろん一回も負けることなく三回目の優勝も果たした訳だが」
チェイグが苦笑しながらチラリと担任であるアリエス教師を見る。
「……おかげで私が戦ったのは初戦だけだったがな」
アリエス教師はチェイグの視線を受けて憮然とした表情で言った。……どうやらその最強クラスとやらはアリエス教師のいたクラスらしい。というこは、必然的にあの二人も……。
「……さすがにルクスでも分かったと思うが、その三人っていうのがドラゴンの突然変異、九尾の狐の突然変異、そしてお前の父親であるガイスさんだ」
「……それで、出番が少なかった二人が私とエリスだ」
チェイグに続いてアリエス教師も言う。……マジか。ってか親父は兎も角母さんが戦闘も強いってのは知らなかったな。確かに一回頼んでボコボコにされた覚えはあるが。
「……そりゃあ、このルールが作られる訳だよな」
俺は呟いた。
「……で、生徒会長のクラスは今んとこ二連覇なのか?」
「……いや、去年優勝しただけだ。一昨年は一昨年でまだ実力が及ばなかったんだが」
ふと気になって聞いてみると、チェイグは首を振って言った。……そうなのか。じゃあ俺達が三連覇するとそれ以来になるのかもしれない。
「……そうかそうか。楽しみだな」
俺達が三連覇するための一歩として。
「……何か不謹慎なこと考えてないか? 今はセフィア先輩の試合中だってのに」
俺が笑ってしまったのを見たチェイグが責めるような視線を向けてくる。
「……ま、セフィア先輩なら大丈夫だろ。ほら」
俺は笑ってチェイグに試合を観るよう促す。
そこには赤、青、白、茶、橙のオーラを刀に、青、黄、クリーム、水、銀のオーラを全身に纏ったセフィア先輩がいた。
……気の五つ融合に成功して、しかも龍気まで使えるようになってるとはな。かなり頑張ったんだろうってのが、よく分かる。
龍気を攻撃だけの気だと思わない方がいい。嵐の鎧を展開することだって出来る訳だしな。……大体、龍の力の一つには神秘の衣っていう気も魔力も軽減するのがあって、それも実現出来る。
……まあ、俺も龍気をそこまで使いこなしてる訳じゃないんだけどな。龍気はそんな訳で攻防一体、仙気や王気と同じく特殊な気とされている。とはいえ、龍気で神秘の衣の実現を成功してる例はない。俺も龍の形にしてやっと神秘の衣っぽいモノを纏わせることが出来たくらいだ。長年試してはいるんだが、なかなか神秘の衣の使用まで達していない。
「……確かにシェリカ先輩は強いし頭も良さそうだ。けどセフィア先輩の力は――」
俺がチェイグに言っていると、セフィア先輩が動いた。元々の身体能力がかなり高く、気が俺と同等だったら真剣勝負で負けてるだろうと思わせる程だ。そんなセフィア先輩が今確認されている中では俺、レイスに次ぐ気の実力を持っているとなれば、脅威と言う他ない。
刀を振るうと同時に巨大な五色が混じった斬撃をシェリカ先輩に放つ。シェリカ先輩は開始当初から使っている気を防ぐオリジナル魔法というモノで防御を展開したが、セフィア先輩の攻撃力が勝ったんだろう、あっさりと破壊され、しかし威力が弱まったおかげでレイヴィスを斬るには至らなかった。……本来レイヴィスはそう簡単に斬れるもんじゃないからな。セフィア先輩が最初斬った時は刀の切れ味があってのことだろうし、斬撃だけで斬るには至らなかったようだ。
俺が思うに、シェリカ先輩のオリジナル魔法は相手の魔法を阻害する目的のモノが多く、セフィア先輩や俺などの気を中心に戦う相手は苦手だろう。もしかしたら二年SSSクラスがニエナ先輩にセフィア先輩を当ててくると思っていたのかもしれない。それはまた面白そうな戦いになるだろうが、双方共メンバーの順番変更をしなかったのでニエナ先輩には負けたが、シェリカ先輩には勝てるかも、という状況になった訳だ。……まあセフィア先輩なら誰が相手でも勝つ、って言いそうだが。
「っ!」
セフィア先輩がシェリカ先輩に突っ込んでいき、高速で刀を振るう。その速度は通常状態のセフィア先輩が居合いした時とほぼ変わらないと思われる。そんな高速の剣撃が連続で行われれば、近接戦闘が苦手なシェリカ先輩が勝てるハズもなく。
「「……っ」」
シェリカ先輩の展開する防護壁を苦もなく切り裂いて懐に潜り込んだセフィア先輩は渾身の力で刀を振り、そして首元に突きつけて止めた。
「……降参して下さい、シェリカ先輩」
寸止め、というヤツだった。今のセフィア先輩にとってレイヴィスは斬るのが少し難しい服でしかない。シェリカ先輩の柔肌を切り裂いて命を奪うなど簡単なことだろう。だがゼアスのように切り裂いて命を危険に晒したりはせず、しっかり止めて降伏の促すところがセフィア先輩らしい。
「……降参する」
シェリカ先輩は羽根ペンを地面に放り、両手を挙げて嘆息しながら言った。その瞬間、会場から大歓声が巻き起こる。
「……勝者、二年SSSクラス!」
レフェリーも歓声に負けじと声を張り、セフィア先輩の勝利を宣言する。セフィア先輩はホッとしたように息を吐き、気を解いて疲れているだろうに気丈にもしっかりとした足取りでクラスのベンチに戻っていく。
俺達は二年SSSクラス側ベンチのある方の観客席にいるのでセフィア先輩からでも俺が見えるハズだ。気を隠さず見つけやすいようにしておき、親指をグッと立ててサインを送る。
俺が気を隠さなくなったからだろう、顔を上げたセフィア先輩の目に親指を立てた俺の姿が入ったと思う。
セフィア先輩は本当に嬉しそうに、弾けるような満面の笑みを浮かべた。……戦ってる時はカッコいいのに、何で笑うとあんなに可愛いんだろうか。
俺は珍しく満面の笑みを浮かべるセフィア先輩に見蕩れる男女問わず多数の生徒を視界に入れつつ、少し不思議に思ってしまった。……ただ、クラスメイトからのジト目の集中砲火は収まらなかったんだが。