合否はどちらに
「……貴方、本当に強かったのね」
騎士団長を治してから帰ろうとすると、アイリアが不機嫌そうに眉を寄せて言った。
「……だから言ったろ? 翡翠色の竜真っ二つにするからって」
俺は笑って返す。……色々追及されそうなら逃げよう。面倒だし。
「……そうね。貴方なら真っ二つに出来たでしょうね。でも、貴方には負けないわ」
アイリアは微笑んで去っていく。……潔いな。てっきり何か聞かれるんだと思っていたんだが。
「……ヴァールニア。お前、騎士団長に勝ったのか?」
帰り、受付の前を通るとちっちゃい教師に呼び止められた。
「ああ。これで俺も無事入学出来るかな」
「……さあな。魔力を持たないヤツを入れるかどうかは理事長や生徒会が決めることだからな。まあ、入るならSSSだろう」
ちっちゃい教師は腕を組んで言った。……魔力を持たないヤツを入れるかどうか。そこで俺の入学が決まるってのは、不公平だろうよ。
「っ!?」
俺が帰ろうとすると、不意に背筋が凍るような錯覚を覚えて反射的に振り向く。
「……おいおい」
俺がさっきまでいた場所、つまりは実技試験最終関門の二人がいる場所に巨大な氷の結晶が聳え立っていた。
「……これで五人、か。今年は多いな」
ちっちゃい教師がボソッと呟いた。
「……五人」
俺とアイリアを抜いて三人か。その内の一人はあそこで氷使ってる。
「五人の呼び名を教えてやろう。順に、“神童”、“怪力兵姫”、“双槍の姫騎士”、“落ちこぼれ”または“刃の気使い”、“氷の女王”だな」
……あんまり嬉しくないのは俺だけだろうか?
“神童”はかなり凄そうだが、怪力バカとアイリアと氷使いだろう? クラス分けで一緒になったらどんなヤツか見てみよう。……その前に受かるかどうか分からんが。
「合否の発表は三日後の午前九時からだ。昼前が空いているからな」
ちっちゃい教師は親切に空いている時間まで教えてくれた。……じゃあ、それまでのんびりしてるか。
俺は宿屋、神風裂脚に戻り、どっちか分かんないと伝えた。
三日後に結果が出ることを知った二人はホッとしたような残念なような顔をしていた。
俺は三日後まで、早朝の素振りと身体が鈍らないように少し狩りに行ったりして時間を潰した。
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「じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい。ちゃんと報告にし来てね」
女将に言われて頷き、二人に見送られてライディール魔導騎士学校に向かった。
「……ん?」
俺が神風裂脚を出ると、アイリアが壁に寄りかかっていた。
現在時刻は十一時半。とっくに見に行ったと思ってたんだが。
「……アリエス教師に言われたのよ。貴方がちゃんと来るように一緒に行けって」
アイリアは俺の心の中の疑問に答えるように言った。
「……別にちゃんと行くって。合否が分からないって言われたんだから。ってか、アリエス教師って誰?」
「受付にいた見た目は幼い教師よ。あの人、あれでも世界大戦では一国を一人で相手にした程の実力者よ。有名なんだから、覚えておきなさい」
有名らしい。
アイリアの言う世界大戦とは、十数年前に起こった戦争のことだ。世界の国が二つに分かれ、連合軍として戦争した。所謂、亜人共存派と人間主義派だ。ライディールのあるディルファ王国は亜人共存派で、亜人と手を組み、勝利を収めた。
亜人は基本人間より優れているので、加わればかなりの戦力になる。ライディール魔導騎士学校を受験する亜人も結構多い。
「……ふーん。まあ、行こうか? まだ見に行ってないんだろ?」
「……ええ。じゃあ行きましょう」
俺とアイリアは並んで歩き出す。
その後は適当な会話で間をもたせつつ、ライディール魔導騎士学校に向かった。