準決勝前
『これより、ライディール魔導騎士学校校内クラス対抗代表団体戦っ! 準決勝をっ! 開始したいと思います!』
すでに二日目に突入しているというのにハイテンションを維持している実況を務める女子の先輩が言って、さらに会場を盛り上げる。
実況に盛り上げられるまでもなく、会場の熱気は最高潮である。
片やその代の最強の者達が集い構成されている生徒会の会長、副会長、書記、会計、庶務の五名がいて昨年度はその圧倒的な実力を以って上級生を討ち破り、優勝している三年SSSクラス。
片や去年も準決勝で現三年SSSクラス(旧二年SSSクラス)と当たり敗れたが二年三大美女という全校でも屈指の実力者が三人もいる二年SSSクラス。
二試合ある準決勝の内、より注目を集めているのはこの最強を争うと思われる二クラスが激突する最初の試合だ。
興奮必至の試合はもうすぐに始まろうとしている。
俺は始まる前から興奮しきりの会場が放つ熱気から遠いベンチに繋がっている道の入り口付近で壁に寄りかかり、人を待っていた。
「……ルクス?」
俺は事前に気を感知して待ち伏せしていたので人違いはない。待っている俺を見つけた集団を先導するように歩く超絶美女が俺を呼んだ。シア先輩だ。驚いているようだったが、セフィア先輩は驚いていない。俺が気を隠そうともしてないから気付いていたんだろう。
「……何の用だ?」
二年SSSクラス代表メンバーの一人らしい男子が俺を睨みつけながら聞いてきた。……出場してない癖に、まるで邪魔をするなと言いたげな顔をしている。
「……試合前に、何の用なの?」
シア先輩はそんな男子を手で制して聞いてくる。……よく言うよな、自分達だって俺の試合前に顔出した癖に。まあシア先輩がいつになく緊張しているのは表情を見れば分かる。集中させて欲しいというのが本音だろう。
「……何の用ってな。別に、ただの激励だ」
俺は肩を竦めて苦笑する。
「……一度負けたらしいし、緊張してるんじゃないかと思って来たんだが。大体そっちも試合前に来てただろ?」
俺はニヤリと笑って壁から離れる。
「……一回負けたくらい気にすんな、とは言わないが、一回負けてるなら相手が強いって分かってる訳だろ? なら全力で挑戦するしかねえじゃん」
俺は言って、立ち止まっている代表メンバーの方に歩いていく。
「ま、負けたら負けたで俺が敵は取ってやるから、安心しろ」
俺はグッと親指を立ててシア先輩に言う。
……すると全員が微妙な顔をしてしまった。
「……けど」
俺はそのまま集団の間を通り抜ける。だが通り抜けてからふと立ち止まる。
「……戦うの、楽しみにしてるからな」
俺はそれだけを振り返らずに言って、観客席に上がる階段の方へ歩いていった。
「「「……」」」
俺は見えなくなる直前でバレないようにチラリとメンバーを見てみるが、全員漏れなくポカン、としたまま突っ立っていた。……あれじゃあ緊張どころじゃないな。
俺は作戦成功かと、少し安心して微笑む。
「……よぉ」
だが俺の上がっていた気分が一気に下降し、しかし逆上する。
「……あ?」
下がったのはゼアスが現れたからで、逆上したのはゼアスが血塗れの男子――レガートを持っていたからだ。
「……そう睨むなよ。その辺に落ちてたこいつを拾ってやったんだぜ?」
ゼアスはニタリと嫌な笑みを浮かべて俺を睨みを無視し、ズタズタに切り裂かれて血塗れなレガートを俺の方に放り投げてくる。
「……怪我人を投げるようなヤツの言葉が信じられると思ってんのか?」
俺はレガートに活気を使って回復させながら、ギロリと睨みつける。ゼアスは俺を挑発するように大きく肩を竦めてみせた。……一々イラつく野郎だ。次の試合、見ていやがれ? てめえのその顔に俺の木の棒ぶち込んでやる。
「……まぁそう言うな。ってか味方まで騙すとかどういうつもりだ? 団体戦だぜ?」
「……はっ。念のために決まってんだろ? 情報を横流しするヤツがどこにいるか分からねえからな」
呆れたように笑うゼアスに、俺は忌々しく思いつつも笑って言い返した。……そういえば、こいつと正面切って話すのは初めてだな。
「……あぁ、クラスのヤツに下手に出させて頼んだら喜んで情報をくれたぜ、てめぇのクラスメイトはよ。随分嫌われてんだな」
ゼアスはあっさりとネタバレしてくる。……まあどっちにしろレガートを場外で傷つけた罪は重いからな、許す気はねえ。
「……知るかよ。で、何でレガートをこんな目に遭わせやがった?」
俺達のメンバーを限定させるつもりならもう何もしなくていい。レガートは魔力が切れて今日中には回復しないようだ。アイリアはまだ回復する見込みがあるので俺が試合を少し伸ばしてたんだが。
「……何でってなぁ。俺はてめぇら一年SSSクラスを潰す気でいるんだ。二年SSクラスのヤツらは使えねえ。情報は流したが昨日のヤツらと違って温い。俺は特にてめぇを潰して欲しかったんだがな」
ニタァ、と笑うゼアスがあっさり白状する。……ほう?
「……俺を潰す? やってみろよ、今度はてめえの手で直接な」
俺は挑発の意味も含めてニヤリと笑って言う。
「……はっ! いいぜ、今度は俺が直接潰してやるよ」
ゼアスは俺の挑発に応え、ニタリと笑って去っていく。……何とか俺の活気でも傷は塞げたか。フェイナとシーナの医療メンバーに頼むか。
と、歓声が一際大きくなった。そろそろ始まるのかもしれない。
俺はレガートを背負うと、駆け足で観客席に向かった。