龍気の形状変化
本日四話目
……意外とまだ結構ありました
五話更新になります
ルクスが纏った赤と白のオーラはルクスの全身を頭に二本の角が生えた鬼の姿となっていた。剣にも同じような現象が起きており、出刃包丁を持った鬼がルクスに取り憑いたようであった。
「……何なんだ、それは……?」
ルクスの敵は少し畏怖したような表情で尋ねる。
「……何って言われてもな。ただ剣気が剣になるんなら鬼気も鬼になるかな、と思ってやってみただけだ」
ルクスは肩を竦めて答える。やってみたら出来たというスタンスである。
「……ま、こっからが本番だと思ってくれ」
ルクスはそう言って不敵な笑みを浮かべたまま、敵に突っ込んでいく。敵も油断なく構えるが、途中で目を見開いた。
鬼のオーラがルクスの身体から分離して、剣を振り上げ襲いかかってきたからだ。……厳密に言えばオーラでルクスと繋がっているのだが、正面にいる敵にはそうとしか見えなかった。
「ぐっ……」
鬼の攻撃は思いの他重く、怯んだ隙にルクスが突っ込んでくる。バラバラに行動する鬼とルクスを相手にしているので、実質二対一で戦っているようなモノであった。
「……雷速!」
水色の雷を纏い高速でルクスの背後を取る敵。完全に背を向けているルクスに剣で斬りつけようとしたその時、敵は大きな影があることに気がついた。
「っ……!」
鬼だけが後ろを振り向き、敵に対して剣を振り上げていたのだ。分離してから顔もはっきりと出来ているのでかなり怖いのだが、鬼が大きく振り上げた出刃包丁を振り下ろす。ルクスが背を向けているため隙だらけだと思い突っ込んでしまった、隙のある敵に。
「がっ!」
敵はルクスの背中に剣が届く前に出刃包丁を受けてしまい、壁まで吹っ飛んでいく。だが武装に綻びは見えない。気の錬度が違うといっても、三つ融合+αと二つ融合で差が出るのは当然だ。
「……あーもう! 止めた!」
それでもルクスが優勢だったのだが、何故か鬼を消して普通の剣鬼のオーラに戻した。
「……何故止める?」
それを手加減と受け取ったらしい敵は立ち上がってルクスを睨む。
「……別に、深い意味はねえよ。ただ鬼の方も俺の意思で操作してるから面倒なんだよ」
そんな敵の心内を読み取ったルクスは呆れたように言った。
「……じゃあ、次の手いってみるか」
そう言ってルクスは剣をダラリと下げる。
「……剣闘龍鬼」
そして気の四つ融合を発動した。白、青、銀、赤のオーラが入り混じる。
「……っ」
ルクスが今まで見せた気の融合の最高は八つだが、四つもなかなかの迫力がある。これもルクスの錬度が原因だろうか。
「……龍気」
四色のオーラが混じった龍を木の棒の先を起点として出現する。
『出ました! あの超威力の高い龍の技!』
一度ルクスが使った時の印象が強いからだろう、それを見た実況と観客が沸き起こる。
「……いくぜ」
木の棒の先に龍の頭がくるような形でルクスは龍を引き連れて敵に突っ込んでいく。だが敵は緊張した面持ちではあったが回避しようとはしない。気の二つ融合と比べるとかなり速く突っ込んでくるのを冷静に見つめている。
「はっ!」
ルクスは気合いの声と共に両手で木の棒を振るう。上段から振り下ろすような形だ。
「……」
だが敵は冷静に見極めるとルクスに対するように下から剣を振り上げて、龍の喉元に攻撃を当てる。斬る、というような重さはなく、当てる、というような軽い攻撃。
「っ……!?」
だが龍は姿を消し、ルクスは目を見開いて驚き、動きを止めてしまう。
「……はぁ!」
そんな敵前で隙だらけの姿を晒すルクスに、敵は容赦なく剣を横薙ぎに振るって斬りつける。
「がっ!」
クラス対抗戦が始まって初めて、ルクスがまともに受けた攻撃である。直撃をくらったルクスは壁まで勢いよく吹き飛ばされる。
『こ、これはどうしたことか!? ルクスの龍の技が破られた! これは偶然なのか、それとも必然なのか!?』
実況も会場を盛り上げるためか実際にそう思っているのか、言った。
「……くそっ」
ルクスはすぐに起き上がると再び木の棒を起点に龍を作り出すと、敵に突っ込んでいく。
「……」
再び敵と相対するが、結果は同じ。龍は消され、驚き隙を見せるルクスに敵は攻撃を与えた。
『これは偶然ではないようです! ルクスの必殺技、早々に破られるーっ!』
実況が言った通り、ルクスの龍の技はこの敵には通用しないようだった。奇しくも敵が攻撃しているのはルクスが告げた弱点である、龍の喉元。
「……くそがっ!」
だがルクスは必殺技を破られたからか、再び木の棒に龍を出現させると敵に突っ込んでいく。そして繰り返される同じこと。ルクスは龍を破られ壁に叩きつけられる。
「……っ!」
だがルクスは傷だらけになりながらも、何度も何度も敵に突っ込んでいく。結果は変わらないのに、意地になっているようでもあった。
「……ルクス、落ち着け!」
ベンチからチェイグの指示が飛ぶが、ルクスは耳に入っていないようだった。
「……何度やっても、同じことだ!」
ついに同じことを繰り返している敵は嫌気が差したように言って膨大な水色の雷を纏い強力な一撃をルクスにくらわせる。
「がはっ……!」
これにはルクスも大ダメージを受けたようで、壁に叩きつけられてからすぐに起き上がることはなかった。だが肩で息をしているが気絶はしていないようで、レフェリーは試合終了を宣言しない。
『これはルクス、必殺技が破られて自棄になったか!? ついに兵揃いの一年SSSクラスは破れてしまうのか!?』
実況は一向に立ち上がらないルクスを見てそう言った。
「……ルクス」
ベンチにいるクラスメイトも心配そうに地面に座り込むルクスを見る。それはルクスが一方的に攻撃を受けたこともあったが、ルクスらしくない行動を怪訝に思ったというのもあった。
「……くっ、ははははははははっ!!」
だがそんな会場を嘲笑うが如き笑い声が響いた。
「……くくくっ。あー、面白いな。よっと」
ルクスはそう言って笑いながら普通に立ち上がる。
『ルクスは一体どうしたのでしょうか! 突然笑い出しました! ついに気がおかしくなったのでしょうか!?』
実況がそう言うのも無理はなかった。それだけルクスは一方的に攻撃され、必殺技と思われる龍を封じられて敗北一色だったのだ。
「……いやぁ、まさか身内に裏切り者がいるとは思わなかったぜ」
ルクスはおかしそうに笑いながら、再び木の棒に龍を出現させる。
「……俺さ、これをクラス対抗戦前にクラスメイトだけに見せたんだけどさ、まさか俺が言った通りの弱点を突いてくるとは思わなかったぜ。ま、これならイルファの融合っつ弱点が突かれたのも変化するリリアナを以後不参加にする方法もバレてる訳だ」
ルクスはおかしそうに笑ってはいた。笑ってはいたのだが、目だけが笑っていない。
「……まさかクラスメイトに情報を横流ししてるヤツがいたとは意外だったぜ」
ルクスは笑っているのだが、かなり怒っているようで笑いを零し続ける。それが逆に恐怖を煽った。
「……」
敵は何も答えない。だがそんなルクスに恐怖を覚えているのか、若干引いていた。
「……いくぜ!」
ルクスは笑ったまま――目だけ笑わないまま敵に突っ込んでいく。
だが敵は冷静そうにルクスを見据えていた。何度も破ってきた技だからだろう。
「「っ……!」」
そして一撃目。敵は今まで通りルクスに合わせるようにして龍の喉元を叩く。
「っ!?」
だが、龍は消えない。
「……」
敵が見たモノは、悪魔のようなニタリとした笑みを浮かべているルクスと、剣から離れて一人でに動き自分の腹部に向けて嵐の咆哮を放つ龍だった。
『なっ!?』
「がっ!?」
実況が全員を代表して驚き、敵は壁まで吹き飛ばされる。
「……くっ、はーっはっはっはっは!」
ルクスは唖然とする会場を他所に高笑いを上げた。