気の形状変化
本日三話目
「……ごめんなさい、勝てなかったわ」
医療メンバーに至急回復を受けて目が覚めたアイリアは開口一番にそう言った。
「……別に、謝る必要はないだろ。だって俺がこれから会長と問題児と戦う準備運動が出来るんだぜ? 感謝したいぐらいだ」
俺は本気で落ち込んでいるらしいアイリアに笑って言い、相棒を肩に担いでフィールドに向かう。
『さあ、ついに決まります! 最強の生徒会役員率いる三年SSSクラス! 二年三大美女率いる二年SSSクラス! 最大のダークフォース一年Gクラス! この三クラスに並ぶ準決勝進出を果たすクラスはっ! 二年SSクラスなのか! それとも一年SSSクラスなのか! 第五試合目、二勝二敗で迎えた最終戦で、全てが決まります!』
実況の女子が興奮しまくりな様子で叫び、会場をさらに盛り上げる。
「……」
相手の男子は両手両刃直剣を持っていて、魔力も高いし気もかなりのモノだ。武器も結構良いのを持っている。もしかしたら武装を使ってくるかもしれない。
「……始め!」
「聖装・レイヴァンド!」
「……いくぜ、剣気!」
レフェリーの合図と同時、俺と敵は動き出す。敵は俺の予想通りというか、武装を使ってくる。綺麗な水色の輝きを放ち、首から下の綺麗な水色をした甲冑を呼び出す。……聖剣・レイヴァンドか。聞いたことはないが警戒するに越したことはないか。
対する俺は木の棒の白い柄の先から先端までを右手の指二本でなぞり、白い刃を作る。
『おおっと? 聖剣の武装に対するルクスは木の棒に剣気の刃を作り出した? のでしょうか! 奇妙な技を使います!』
俺の剣気を見た実況が言う。……もう結構知られてると思ってたんだがな。
「……初めて見るな。何故今まで使わなかった?」
だが敵も知らないようだった。
「……そりゃそうだろ。俺が剣気まで使っちまったらレイヴィスごと真っ二つにしちまうからな。あんたは丈夫そうだし、色々見せてやるよ」
俺は先輩にも関わらずそう言って、剣を構える。
「……そうか。だが剣気一つで俺に勝てると思わないことだな! フィジカル・バースト! 剣闘錬気! ワールド・エンチャント!」
俺が剣気だけなのに対して、相手は強化魔法、気の三つ融合、全属性付与とやる気満々である。
「……最初っから全力かよ。めんどいが、俺も出し惜しみはしてられないな」
「……そう思うなら、気の八つ融合でも使ったらどうだ!」
俺が言うと敵は正面から突っ込んではこなかった。水色の雷を纏うと高速で移動して俺の背後に回りこむ。……能力の一つは、水色の雷か。
「……」
だが俺は振り返らずに剣を肩に担ぐ。気の感知で敵が俺に突っ込んできているのも分かる。だから俺は剣の切っ先を敵に向け、
「っ!?」
伸ばした。
敵は驚いて剣で俺が伸ばした剣を受けるが、突進は止まった。
『……なっ、何ということでしょう! 剣が、剣が伸びました!』
剣が伸びるという事態に会場中が驚いていた。もちろんクラスメイトもだ。
「……剣が、伸びただと?」
敵も驚いて唖然としている。
「……ま、発想の転換ってヤツだな。転換って程でもないが、俺の剣は気で出来てるから気を込めることで伸ばすことも可能だ」
俺はニヤリとしたまま説明する。
「……ってことで」
俺はいきなり振り向き、剣を振るう。もちろん伸ばしてだ。
「っ!」
だが伸ばすだけなので剣が長くなっただけだし、軌道は読みやすい。長い剣として対処すれば良いだけだ。そしてさらに俺は伸ばしたまま三回攻撃した後、元の長さに戻す。これには意味があって、やっぱり剣の感覚を残しておかないと短い方でいきなりやって距離を測り間違えて空振ったら嫌だしな。もう一つ意味があるんだが、まあそれは追々と。
「……」
さすがに二年SSクラスの大将を任されるだけはって、伸びる剣に慣れ始めている。そろそろ懐に入ってくるかもしれないな。完璧に受け、回避し、見切られている。
「……それには弱点があるようだな」
しばらく経つと相手はそんなことを言ってきた。俺は無視して相手に再度伸ばした剣を上段から振り被って叩きつける。簡単に避けられてしまったので今度は横薙ぎに一閃。しかしそれも剣で受けられてしまったので、突きを放ってみる。だが当たらない。……完全に見切られたか。
「……三回攻撃した後は一旦元に戻さなければならない、そうだろう?」
丁寧なことに敵である俺に対して弱点を告げて、相手は三回目の攻撃が終わったところで水色の雷を纏い高速で突っ込んでくる。
「……そして縮めた後は数秒のタイムラグがある」
そう言いながら大きく剣を振り被る。……良い距離だな。短くした剣では届かず、再び伸ばす頃には近すぎる距離。確かに、その弱点が本当なら良い対策案だが。
「……ま、それが本当ならの話だけど、なっ!」
俺は突きとして放った剣をそのまま横薙ぎに振るい、敵を薙ぎ払う。
「ぐっ!?」
敵は予想外の攻撃だったのかまともにくらい、驚きの呻き声を上げて横に吹っ飛ぶ。
「……な、何でだ」
「……何でって言われてもな。弱点をわざわざ敵に教えるヤツはいないが、俺は別に三回以上伸ばしたまま攻撃出来ないとは言ってないぞ。ただ三回に一回ぐらいで戻さないと距離感を見失いそうだからさ。それに、あんたみたいな真面目なヤツが罠にかかってくれると思って」
俺は大したダメージがないような敵に意地の悪い笑みを浮かべて言った。
『これはどうしたことか! ルクスの騙まし討ちが決まった! 何と最低な男でしょう! フィナたん返せやこらぁ!』
……酷い実況だな。ってか最後に思いっきり私情を挟みやがった。肝心なフィナはこてん、と首を傾げていたが。
「……勝負ってのは心理戦でもあるんだぜ? 簡単に騙される方が悪い!」
だが俺は悪いと思ってないのでビシッと実況の女子を指差して言った。敵もそれは分かっているようで悔しげに唇を噛み締めていたが。
『……ゴホン。酷い、酷すぎる!』
白熱してしまった実況は咳払いを一つしてから、実況を続けた。
「……立てよ。まだ勝負は始まったばかりだぜ? 剣鬼」
俺は実況を無視して敵に言い、気の二つ融合を発動させる。白と赤のオーラを全身と剣に纏った。だが、全身に纏った気のオーラがおかしい、と思っているだろう。
『な、何でしょうか、これはー!』
実況が会場にいる全員が思ったことを代弁する。
そう。俺はただのオーラではなく、赤と白のオーラで出来た鬼を纏っていたのだった。