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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
83/163

三回戦

忙しいのでこれだけ更新します


書き終えたら随時更新する予定ではいますが、来週までには更新したいですね

 三回戦最後の試合は、二年SSクラスと俺達一年SSSクラスとの対戦だ。


 この試合で勝った方はあのレイヴィスも武器でさえも何の抵抗もなく切り裂く魔剣を持ったゼアス率いる一年Gクラスと戦うことになる。一年Gクラスはゼアスの指示かは兎も角確実に弱点を突いてくるためやりにくい。一年Gクラスが俺達のクラスの弱点を対戦相手に流しているのかはまだ分からない。


 だがこのどちらが勝っても準決勝で傷付くのは明白だ。


「これより二年SSクラス対一年SSSクラスの試合を始める! 礼!」


 俺達は向かい合ってレフェリーの号令に従い礼をする。……俺の相手は一、二回戦と大将を務めている魔法戦士タイプの男子だ。


 どうやら俺対策は今のところゴリ押ししかないらしい。ま、気で俺に勝てないのは分かっただろうからな。魔法を併用して戦うしかないんだろう。だって俺には装気っていう対魔法防御の気があるしな。総合的に上回るしかないってことだ。


 レイスの相手はマッチョみたいな、しかしマッチョよりも一回りは大きい筋肉の塊のような男子だ。リーフィスの相手は熱血漢っぽい男子だ。レガートの相手は神経質そうな痩躯の男子だ。アイリアの相手は真面目そうな女子だ。


「……レイス。最初っから全力でいいからな」


 礼を終えて自軍ベンチに戻っていく双方の五人の中、俺は残ったレイスに声をかけた。


「……問題ないわ」


 レイスは初めての大舞台での試合だが、緊張しているようには見えない。これなら大丈夫かと、俺は安心してベンチへ戻っていく。


「……パイ」


 しかしレイスはボソリと呟いた。


「「「オツ!」」」


 それに観客席にいる大勢の男子が呼応する。


「……パイ」


「「「オツ!!」」」


「……パイ」


「「「オツ!!!」」」


 三回唱和したところで、レイスはスッと右手を上げ人差し指を立てる。


「……勝つのは?」


「「「あなた様ですっ!!!」」」


 まさかの、レイス応援団だった。


『えっ? はっ? へっ? な、何が起こっているのかはよく分かりませんが、レイスさん、大勢の男子から絶大な支持を受けています!』


 実況も訳が分からないようだった。……まあ俺達だってポカンとしているんだから当然か。


「……くっ、くくくくっ……」


 その中で俺は、笑ってしまった。


「……都市伝説かと思ってたんだが……。あれがレイス直属の親衛隊か」


 チェイグが呆然としたような顔で言った。……噂にはなってたんだな。


「……は、始め!」


 レフェリーも思わずポカンとしてしまい、今になって開始の合図を送る。……レイスのヤツ、派手にかましてくれやがった。これじゃあ緊張も何もない。


「……ぬおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 レイスのパフォーマンスはアイリアが顔を覆ってうずくまる程恥ずかしいモノだったが、その点は相手も負けていなかった。グッと全身に力を込めると筋肉を膨れ上がらせ、ポージングして咆哮した。


 ……何だか和やかな試合になりそうな雰囲気だが。


「「……」」


 両者は至って真剣だ。


「……全力でいかせてもらう……っ!」


 どこかで聞いたセリフと共にゴリマッチョが全身に纏ったのは、魔闘。漆黒を主として赤い蔓のような装飾が施されたゴツい全身甲冑だ。……おいおい。まさかの相手は違うが魔闘との再戦ってか?


「……レイス! 相手が魔闘使ってくるなら丁度いい! 数日前の件、魔闘にやられた八つ当たりをしてやれ!」


 俺は面白がってレイスに声をかける。するとベンチにいるクラスメイト達にジト目で睨まれてしまった。


「……了解。――衝破闘鬼」


 レイスは俺の言葉に頷くと、手足だけに気の四つ融合を纏う。


「……装錬硬闘気」


 さらに身体には防御のための気の四つ融合を纏う。……これで準備完了か。あとは、タイミングを見誤るなよ。


「……ふんっ! いくぞ……っ!」


 ゴリマッチョは言ってレイスに正面から突っ込んでいく。


「ふんっ!」


 ゴリマッチョは右手に魔方陣を展開し漆黒の闇を溜めると拳を放つと同時に砲弾として発射させた。


「……私相手に気を使わないなんて、油断――というよりも無謀」


 レイスはしかしヒラリとその攻撃をかわし、ステップを踏んでゴリマッチョの懐に潜り込んだ。


「ぬあっ!」


 ゴリマッチョはレイスに懐を許してしまうが、近接戦闘は臨むところとばかりに拳を振るってレイスを狙う。


「……」


 だがレイスにそんな大振りが当たる訳がない。


「……くぬっ! 黒紅魔闘ダーク・フレイム・ブリュンゲル、起動ッ!」


 ヒラヒラと自慢の拳が当たらないのに苛立ったのか、ゴリマッチョは魔闘を起動させる。……魔闘自体の強さとしてはマッチョの方が上だな。紫の雷なんて珍しいモノを使えるし。


「……」


 だが闇も、炎も、拳も、脚も。全てがレイスには当たらない。……回避に専念されたら俺でも結構厳しいくらいに上手いんだ。当たりそうで、当たらない。紙一重で避けられる。あんなに近くにいるのに、遠くにいるように感じてしまう。それがレイスの回避と内に響く攻撃を主体とした武術だ。


「……隙だらけ」


 多少掠りはしてもレイスは全身に防御特化の気を纏っている。レイヴィスの上からその重装備だ。ダメージは一切ない。レイスは攻撃の合間を縫ってゴリマッチョに接近し、体重を乗せた掌打を腹部に叩き込む。


「がはっ!」


 魔闘の力を過信してか、防御の気さえ発動しなかったゴリマッチョの魔闘腹部は砕け、背中にも衝撃が突き抜けていた。


「……隙だらけ」


 さらにレイスは同じことを呟き、両脚の脛と太腿、両方の二の腕、両肩に掌打と蹴りを立て続けに当てた。二年SSクラス相手に怯むことなくむしろ圧倒しているレイスに観客席が盛り上がり、特に親衛隊が「パイオツ」コールを巻き起こして熱烈に応援していた。……アイリアの顔は真っ赤だ。


「……ぐっ! 錬硬闘鬼!」


 魔闘の甲冑が脆くも砕け散っていくのを見て劣勢を悟ったゴリマッチョは、距離を取って気の四つ融合を使う。……さすがに二年SSクラスともなるとただじゃ倒れてはくれないか。気を引き締めろよ、レイス。


「……」


 レイスは予想通りだとばかりに表情を変えず、ゴリマッチョに向かっていく。


「ふんぬぁ!」


 ゴリマッチョはゴリゴリした雄叫びを上げると闇と炎を乱雑して放つ。……確かに広範囲攻撃をすればレイスでも回避は困難となるが。


「……装衝戦鬼」


 レイスは左手の気の四つ融合を消すと新たに気の四つ融合を発動させる。魔法防御の装気と攻撃の気三つという、一見ミスマッチな組み合わせ。だがこの組み合わせには大きな意味がある。


「っ……」


 レイスは左手で虚空に掌打を叩き込む。すると戦気と衝気で装気が拡散し、広範囲攻撃を防いだ。


「っ!?」


 相殺された攻撃にはゴリマッチョの魔力がかなり込められていたんだろう、驚愕の表情になった。


「……衝戦破獣闘気……っ」


「……あっ、バカ」


 気の六つ融合を両手に発動させたレイスは、気の消費が大きいことを分かっているため全身と脚に纏っていた気を消す。それを見た俺は思わず、呟いてしまう。……レイスのヤツ、勝負を焦ったのかミスりやがった。


「がはぁ!」


 気の六つ融合という渾身の一撃をゴリマッチョの腹部に両手の掌打で叩き込んだため、ゴリマッチョは一気にフィールドの壁まで吹っ飛んだ。


 ボキッ。


 だがそれとほぼ同時に、鈍い嫌な音がフィールドの中央付近から聞こえた。


「……っ~!」


 レイスは両腕を押さえようとして腕が上がらず、僅かに身を寄せるのみとなった。


「……だから気の六つ融合を使う時は錬気入れろって言っただろうが!」


 俺はおそらく困惑しているであろうレイスに叱咤する。レイスはチラリと俺の方を見て悔しげに唇を噛み締めた。


「……ぐ、ぬぅ……!」


 確かな手応えはあったものの、仕留め切れていないと分かっていたからだろう。壁まで吹っ飛んだゴリマッチョは魔闘の甲冑をボロボロにしながらもヨロヨロと立ち上がった。


「……」


 両腕が折れたレイスと、全身を覆う魔闘の甲冑がボロボロに砕け魔力も尽きかけているゴリマッチョ。だが両者は引き下がらない。走る痛みに耐えながら、フィールドの中央付近で対峙する二人。


「……おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


 ゴリマッチョが最初に動いた。自分から動かないと動けないことを、分かっているのだ。衝気を混ぜた気の六つ融合の威力は、全身に漏れなく響き渡っているだろうからな。


「……衝破錬闘鬼」


 慣れない気の六つ融合で意識を失うことはなかったが、気が尽きかけているんだろう。レイスは両脚に気の五つ融合を纏わせた。


 レイスに突っ込んでくるゴリマッチョは闇と炎を右拳に集束させていく。……全身全霊を賭けた渾身の一撃を放つようだ。


 レイスもそれに応じ右脚に左脚よりも多くの気を纏わせる。


 ゴリマッチョはレイスの眼前で足を踏ん張り右拳を大きく振り被る。


「ふんっ!!」


 拳が放たれると共に、漆黒の闇と紅蓮の炎がレイスを襲う。防御の気を発動していないレイスの勝利は厳しいと思われた。だがそれが収まった後、レイスは何と立っていた。


 しかしレイスはそのまま後ろに倒れていく――その途中で右脚を真上に振り上げた。


「……っ!」


 ゴリマッチョは拳を振り抜いた姿勢なので隙だらけだし、顎に直撃し脳が千切れんばかりに揺れているハズだ。


「……」


 グルリと白目を剥き、ゴリマッチョも仰向けに倒れていく。


『おおっと? これはまさかの相打ちなのか!?』


 実況が倒れた二人を見て言うが、脚だけで起き上がった人物がいた。


「……」


 レイスだ。


 もちろんゴリマッチョの渾身の一撃を防御せずに脚の踏ん張りだけで耐えたため上半身は傷だらけだ。レイヴィスに守られていない腕と顔には大きなダメージがあるだろう。気の五つ融合をした脚もかなり疲労がきているハズだ、ガクガクと震えている。


「……勝者、一年SSSクラス!」


 レフェリーはゴリマッチョの戦闘不能を確認すると、レイスの勝利を告げた。


「……」


 二年SSクラスのメンバー二人がゴリマッチョを抱え、駆け寄ってきた医療メンバーが治癒を施す。レイスは力尽きたのかフラついて前のめりに倒れる――その途中でフワリと宙に浮いた。


「……特別サービスだ」


 アリエス教師が前に手を伸ばしていた。そのままフワフワとレイスが運ばれてくる。


「……いってくるわ」


 そのレイスと入れ替わりに、リーフィスがベンチから足を踏み出す。


 パキッ。


 その足元の地面は、凍りついていた。

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