一日目終了
何か三話ぐらい書けてしまったので更新します
クラス対抗戦の一日目が終わった。
俺の所属する一年SSSクラスも三回戦への出場を決めたんだが、十人中三人の欠場が決まっているためクラスメイト達の雰囲気は明るくなかった。
「……このままだったら全員やられちゃうんじゃないか……?」
という不安が見え隠れしている。……しかも次の相手は二年SSクラス。全校でも五番以内には入る猛者が相手だ。だが俺の目標は決勝で三年SSSクラスか二年SSSクラスかは分からないが、そのクラスを倒して優勝を勝ち取ることだ。
「……」
特にチェイグの気分が落ち込んでいる。……現在は夕方だが、二回戦目で相手にこっ酷くやられたサリスはまだ目を覚ましていないからだ。
それにリリアナはほぼ無傷だし、サリスももうすぐ目を覚ますと学校専属の医師が言ってくれたので安心出来るが、イルファの方はかなりの重傷だ。治癒魔法が使えるヤツ全員が回復をしてくれたので命に別状はないということだが、数日は目を覚まさないという話だった。
「……なあ、チェイグ」
「……何だ?」
俺は落ち込み医務室のベッドに寝かされているチェイグに声をかける。
「……明日の三回戦のメンバー、どうするつもりだ?」
「……」
俺が聞くとチェイグは俺を振り返って睨みつけてきた。……そんなこと今言うなってか?
「……今、言うことか?」
「……ああ。今言うことだ。これから今日は解散ってことになるからな。事前に知らせておいた方がいいだろ?」
俺は震える声で尋ねてくるチェイグに対しはっきりと頷く。
「……だからって今聞くことはないだろ。サリスもイルファも、目を覚ましてない。それなのに不謹慎だとは思わないのか?」
チェイグは口調こそ荒くなってないが、言葉の端々には俺に対する怒りが滲み出ていた。
「……俺がキレたのは俺達に対して死なないギリギリを狙った対策を立ててきてるヤツらにだ。別にサリスが負けたことに関して怒るつもりはねえよ」
「っ……!」
俺が言うとチェイグは俺のレイヴィスの胸ぐらを器用に掴んで睨みつけてきた。
「……サリスは全力を尽くして戦った。でも負けたんだ。最後のがなくてもサリスはあそこで気絶してた。全力を尽くして負けたのは、サリスがあいつよりも弱かっただけのことだろうが」
「……っ」
俺が冷静というよりは冷徹な口調でチェイグに言うと、チェイグは悔しそうな顔をしていたが手を放した。
「……それとも何か? 敵の弱点を突いた相手が悪いのか? 気の四つ融合までしか教えなかった俺が悪いのか? 違うだろ」
「……ルクス。もし気の五つ融合を使えてたらサリスは勝てたのか?」
俺が追撃しようとすると、チェイグは俯いてボソリと聞いてきた。
「……勝てただろうな。四つ融合であそこまで圧倒したんだ」
俺はその言葉に頷く。
「っ! じゃあ――」
「……じゃあ何で教えなかったのかってか?」
「……あ、ああ」
俺がチェイグの言葉を先読みして言うと、チェイグは戸惑いながらも頷いた。
「……そりゃ教えないに決まってんだろ。だって気の四つ融合であれくらい疲労して最後には気絶したんだぞ? 五つ融合を教えたとして、使ったらどうなったと思う?」
「……」
チェイグは俺の言葉にハッとしたような顔をする。
「……サリスは俺に気の複数融合を教えて欲しいと頼んできた。それは俺が気の融合を使えるからってのもあるが、他に手がなかったってのもある。サリスには他に相手に勝つ方法がないと思ってたんだよ。俺はもちろん他にも方法があるのは知ってたし、気の複数融合がかなりの疲労を伴うことも知ってる。だからあんまり人には教えたくないんだ。例えばチェイグが俺に気の三つ融合を教えてくれと頼んできたら、断る。セフィア先輩にコツを教えたのもレイスに教えると言ったのも、気の融合に耐え得る実力を持ってるからだ。対するサリスは今まで三つ融合も出来なかった。それを四つ融合まで持ってくとすれば慣れてないしかなり危険な状況に陥る。俺はそれをサリスにちゃんと言ったんだ。最悪の場合数日寝込むし寿命が縮まる。気ってのはそう簡単に消費していいもんじゃねえんだよ」
「……すまなかった。だがそれならお前はどうなんだ?」
「……バカ言うなよ、チェイグ。俺にはこれしかねえんだ。魔力と両方を持ってるお前らと一緒に考えんなよ。――俺は気の保有量が違う」
チェイグはやっと頭が冷めたようで俺に頭を下げる。だが続いて俺に聞いてきた。……俺はかなり核心に迫られる質問で内心焦ったが、笑って言った。
「……そうか」
チェイグは弱々しくだが微笑んで言った。……ちょっとは調子が戻ったようだな。
「……明日のメンバーだが、今日の二試合で確実に分かったことがある。少なくとも選手十人の情報と弱点は、どのクラスにも漏れているようだ。しかも相手は二年SSクラス、強敵だ。となると先手必勝がそのまま形になる可能性が高いため、オリガじゃなくてレイスに一番手を頼もうと思う。あとフィナとレガートを変える。三回戦はレイス、リーフィス、レガート、アイリア様、ルクスでいこうと思ってる」
チェイグは気分を少なくとも表だけは切り換えて言った。それにレガートはゴクリと唾を飲んでいた。……まあレガートは自分に自信がないヤツだからな。一回目でSSSクラスに入学出来たんだから、もっと自信を持っていいと思うんだが。
「……オッケ。まあ今日はサリスについててあげろよ、チェイグ君」
俺は笑って言い、すぐに医務室から退出する。……ホントは怒ってんだけどな。そりゃ三年が手段を選ばずに勝とうとするのは仕方ないかもしれない、将来がかかってるんだからな。だがそれにも限度ってもんがあるハズだ。いくら勝ちたいからといって相手を半殺しにする必要はないと思う。
「……ルクス」
俺がとりあえず明日戦う全員はボコボコにしてやる、と決意を固めているところに、後ろから話しかけてきたヤツがいた。
「リーフィス?」
俺のあとを追ってきたらしいリーフィスだ。
「……明日、見てなさいよ。私は絶対、負けないから」
リーフィスは決意――というか覚悟を決めたような真剣な顔で俺を見つめて言った。……何だ? そんなことならわざわざ俺に言わなくてもいい気もするが……。
「……ああ。見ててやるから、勝って俺に回してくれよ。でもわざわざ俺にそんなこと言わなくてもいいんじゃないか?」
俺は笑って言いつつ、リーフィスに聞いた。
「……違うわよ。言うのと言わないのじゃ、全然違うわ」
だがリーフィスは至って真剣な表情のまま首を横に振る。
「……そうか? まあいいや。じゃあこうするか。お前が勝ったら俺も意地で勝ってやるよ。誰が相手だろうとな」
「……相手が生徒会長でも?」
「当たり前だ。俺は約束は破らない男だぞ」
俺は笑って続ける。
「……そう。ルクスらしいわね」
するとリーフィスはやっと微笑んだ。
「……だろ? ああ、あとリーフィス。あんまり思い悩むなよ? 皺が増えるぞ?」
「……余計なお世話よ」
俺が冗談めかして言うとリーフィスはムッとしたような顔をする。
「……ま、あんまり気にすんなってことだ。――俺はお前の味方だからな」
俺は最後にリーフィスの頭をぽんと軽く叩いて踵を返し、肩越しに手を振ってその場を去る。……ちょっとクサかったかな。リーフィスがどういう言葉を欲しいかは分からないが、これで少しでも気が軽くなればいいと思う。
「……」
リーフィスは俺のあとを追ってくることはなく、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。……きっとリーフィスは悩んでいたんだろう。本気を出すべきかどうか。俺の予想が正しければリーフィスは氷でも生物最強だ。リーフィスが思い悩んでるのは力を持っていることではなく、力を明かすこと。
ま、俺は特に気にしないけどな。リリアナだってあれはほぼ人間じゃないし。あれが本当の姿かどうかは分からないが、少なくとも今判明している人型種族の中でも人間離れした姿には違いない。
だがあれはあれでカッコいいと、俺は思うのだ。
「……さて。明日だな」
俺は一人廊下を歩きながら呟いて、ニヤリと笑う。……明日全てが、決まる。
俺がやることはただ一つ。目の前の敵をぶっ倒すことだけだ。