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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
77/163

毒蜘蛛の本気

メリークリスマス


という訳で書き上がってるのをいくつか更新します

「……この布陣の意味は?」


「……相手の情報収集力を知るためだ。メンバー全員の能力を知っているか、というな」


「……なるほどな。だが気をつけた方がいいぞ。死なないギリギリを狙ってくる可能性が高い」


「……そうか。充分気をつけてくれ」


 俺とチェイグが会話していると、周囲の気も引き締まっていく。


 ……相手は三年Fクラス。初戦の三年Cクラスよりも弱いハズなんだが、嫌な予感しかしないな。


「「「……」」」


 俺達メンバーとアリエス教師含む六人と、相手クラスの六人が並ぶ。……ん? おかしいな、こいつら。控えにいるメンバーの方が気が高いヤツもいるぞ? 特に最初の二人。魔力が高いのかどうかは分からないが、少なくともリリアナとイルファに敵うハズもないヤツだ。


「これより三年Fクラス対一年SSSクラスの試合を始める! 礼!」


 レフェリーが宣言すると、双方軽く会釈するくらいで初戦のリリアナと相手の男子を残してフィールドから下りてベンチへ戻っていく。……最初とは違って歓声が湧き上がった。


『一回戦、物凄い力を見せつけてくれた一年SSSクラスですが、二回戦はどうなのでしょうか! 先程の三年Cクラスよりも下のクラスではありますが、油断は出来ないといった表情です! 両クラス、メンバーを変えてきましたが、戦況にどういった影響を及ぼすのでしょうか!』


 実況が嬉々として言う。


「……なあ、チェイグ。メンバー変えるってこと誰かに言ったか?」


「……情報漏れを気にしてるのか? だが応援したいって言ってたヤツ以外には教えてないぞ?」


 ……応援したいって言ってたヤツか。これはやっぱ自分で確かめるしかねえかもな。


「……ま、別にいいか。誰が相手でも薙ぎ倒すだけだしな」


「始め!」


 俺は他から見たら気にしてない風を装って言った。


 試合が始まる。……さて、まずはリリアナにどう対抗するかが問題だな。


『一戦目、一年SSSクラスは“魔性の毒蜘蛛”と呼ばれるリリアナさんです! 毒や糸を多彩に操り高い身体能力を持つアラクネという種族ですね!』


「……ヒートブレス、コールドブレス」


「っ……」


 開始早々相手の男子が魔法を二つ使う。……熱気と冷気を出すだけの魔法だが……。


「……チッ。しっかり情報収集してやがる」


 その証拠に、リリアナの警戒心が上がった。


「……どういうことだ? あれは攻撃する魔法じゃないだろ?」


 チェイグが不思議そうに聞いてくる。


「……見てりゃ分かる」


 俺は今フィナを抱えていない。前の列の席に座って試合をよく見るためだ。……そう、見てれば分かる。


「……ちゅっ」


 リリアナはしかし、妖しい笑みを崩さない。相手に余裕のなさを悟られないためだろう。右手の人差し指を咥え、音を立てて引き抜く。指先はぬらりと光って艶かしい。


「……?」


 相手は何をしようとしているのか分からないようで、怪訝そうな顔をしていた。


「……バァン」


 リリアナが妖しく微笑んだまま言うと、指先から白い弾丸が放たれた。


「っ!」


 そしてそれは相手に当たる直前で網となって広がり、相手の動きを封じた。


「……ふーっ」


 リリアナは大きく息を吸って大きく息を吐く。……本気でやる気らしい。毒の息を吐いた。しかも身体から毒を気化して発している。相手を毒で倒す気らしい。


「……おかしいな。いつもなら殴って倒すのに」


 チェイグが真っ先に異変に気付いた。


「……今、リリアナはあんまり動けないんだよ。あの熱気と冷気のせいでな」


 俺は冷静に試合を眺めながら言った。……この弱点は獣人などに共通するモノだ。頑張って防げるもんじゃない。


「……毒槍」


 リリアナは身体から毒々しい紫の液体を溢れさせて槍状にし、相手に向けて飛ばす。……おそらく殺さないように致死毒じゃない毒にしているハズだ。だから、どうやっても相手が降伏するか自分でぶっ飛ばすかのどっちかしかない。


「……ヒーリング・キュア」


 だが相手も毒対策をしない訳がなかった。毒を回復し続ける魔法だな。これで毒で降伏させるっていう選択肢は潰された。リリアナの顔も優れない。


「……どうした? かかってこないのか?」


 蜘蛛の糸から何とか脱け出し、情報通り、というような笑みを浮かべた相手はリリアナに尋ねる。


「……仕方ないわね」


 リリアナは冷や汗を掻いた顔で微笑み、再び人差し指を咥えてすぐに引き抜いて相手へ向ける。


「……また網か。そうはさせん! ファイアローブ!」


 だが相手も黙っている訳がない。全身に火を纏って網に備える。


「……ふふっ」


 リリアナはしかし微笑んで弾丸を放つ。白い弾丸ではなく、紫の弾丸だ。


「っ!」


 紫の弾丸は火の衣を貫き右肩のレイヴィスに当たった。……レイヴィスが焦げた、か。リリアナが本気で殺す気になってたら一瞬だったな。


「……酸の毒よ。もうちょっと強くすれば溶かせるかしらね」


 リリアナは余裕を取り戻し、笑う。


「……ヒートブレス、コールドブレス!」


 相手はそろそろ決めようと思ったのか、さらに熱気と冷気を撒き散らす。……チッ。このままじゃ勝てないか。


「……フィジカル・バースト!」


 魔力はもうこれ以上の長期戦、二つずつ魔法を残して戦うとしたら、そろそろ決めないと魔力が持たないのかもしれない。身体能力を大きく上昇させる魔法を使った。


「……っ」


 リリアナは表情を険しくする。……今近接をされるのはヤバいからな。魔法四つは元の位置に設置してある。


「どうした? もう動けないのか?」


 勝てる! そう顔に出ている男子は素早く懐に入ると、リリアナの振るった拳を易々と屈んで避け、腹を殴った。


「……くっ」


 リリアナは顔を歪めて苦悶を表し後退する。だが動きがぎこちないリリアナの後ろに回り込んで裏拳を背中に叩き込み、相手は休む暇を与えない。


「……大したことねえんだな、一年SSSクラスも! 大将の器が知れるってもんだぜ」


 前に飛ばされたリリアナに向けて男子はニヤリとした笑みを浮かべてそんなことを言った。……何だとこの野郎?


「……へえ? ルクスのバカにするのね?」


 リリアナは怖いくらいに微笑み近付いてきた男子の肩を掴む。


「ぐっ……!」


 その手から紫色の液体が溢れ、レイヴィスを溶かしていく。


「……私を怒らせたらどうなるか、教えてあげる!」


 リリアナは肩を焼いて苦痛に耐える相手の腹部を、拳を振り上げて殴って上に飛ばす。


「……確かに私の弱点は熱気と冷気よ。でも人間の身体能力で、蜘蛛である私の本気に勝てる訳ないってこと、教えてあげる」


 リリアナは嗤うとバキバキという音を立てて姿を変えていく。


『おおーっと、これはついにリリアナさんが本気になったか!?』


 実況が興奮した様子で言う。


 リリアナの下半身が、深緑色の巨大な蜘蛛へと変化し、背中から深緑色の蜘蛛の手を四本生やす。額からこめかみにかけて、リリアナの瞳と同じ黄色をした玉が埋め込まれているようになった。リリアナの身体は蜘蛛の腹、背中部分から生えているような形だ。


 ……下半身のレイヴィスは変化に邪魔だったからか変化する直前で溶かしていた。背中も同様だ。そのせいでリリアナのレイヴィスはブラジャー程度にしか残っていない。しかもまだ溶け続けている。


 クラス対抗戦ではレイヴィスの着用が義務付けられている。リリアナのレイヴィスが溶けたら無条件で負けてしまうだろう。


「……私を怒らせたこと、後悔させてあげるわ」


 空中では身動きが取れないのか、落下してくる相手を見て笑い、下半身の蜘蛛が上を見上げ、相手が射程圏内に入った――その瞬間、高速で振られた蜘蛛の腕が相手の意識を奪いレイヴィスを爪で引き裂いて場外へ吹っ飛ばした。


「一戦目、勝者一年SSSクラス!」


 ドサリと場外に落ちた相手を見てレフェリーが勝者を告げる。リリアナはホッと息を吐いて、完全に溶けていくレイヴィスに応じて胸を腕で隠す。


 それを含めて勝者のリリアナに大歓声が送られた。


「……ルクス、ちょっとその布持ってきてくれる?」


 リリアナはその姿のまま、前列の席に放り投げていた布を持ってくるように言う。……こんなこともあろうかとってことか。


「……おう」


 俺はその布を持ってフィールドに向かっていく。


「……」


 背中の蜘蛛脚を戻し巨大な蜘蛛の下半身をだんだん小さくしていき、ついには俺よりちょっと高いぐらいにまで縮んだ。俺はそこで布を広げ、正面から肩にかけるようにしてやる。……リリアナが何かを企んでいるかのような笑みを浮かべていることに気付いた。


「っ!」


 俺はリリアナが布をかけられ前も隠せる、という直前で、ゆっくり戻っていた身体を一気に元に戻した。……そのせいで俺はリリアナの全貌を、前から見ることになる。


「……感想は?」


 公共の面前で裸を見せるような真似をしておいて、してやったりの笑みを浮かべて聞いてきた。……どうもこうもねえよ。


「……ドキッとするから止めてくれ」


 俺は言って、大きな布でリリアナの太腿まで隠すと、目を逸らしてベンチへ戻っていった。


「「「……」」」


 するとこちらのベンチからはよく見えていたのか、全員が俺をジト目で見ていた。


「……俺が悪いのか、これは」


 俺は頭を抱え、嘆息して元の席に座る。


 ……その後上機嫌なリリアナが俺の右隣に座ったため、さらに睨まれてしまった。

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