一年SSSクラス初陣
遅くなりましたストックがなくなった訳ではなく、時間がなかっただけです
他の作品の更新は今週の土日を予定していますが……
「ん?」
俺達が一階へ下りると二年三大美女の三人が揃って壁に寄りかかっていた。
「……次、試合ね」
シア先輩が俺に視線を向けて声をかけてくる。
「ああ。何か用か?」
試合はまだ終わっていないようだが、早く行った方がいいだろう。俺は何か用があるのかと思って聞いた。
「……別に何でもないわ」
シア先輩の代わりにアンナ先輩が答えた。
「……なら何だよ。これから試合って分かってんだろ?」
用がないなら試合前に話しかけるのは良くないと思うぞ。
「……激励だ。ルクスと戦いたいからな、一言声をかけたのだ」
セフィア先輩が胸の下で腕を組んで壁に寄りかかり言う。……この二日間は原則レイヴィス着用なので、三人の美貌とスタイルに他のメンバーが気後れしていた。特にチェイグとレガートがヤバい。チェイグはサリスに腹を抓られていたが。
「……むぅ」
ただ一人メンバーではフィナがムッとしたような顔をしていて気後れしていない。……凄いな。
「……そうか。まあそんな気遣いは無用だ。俺は勝つからな、任せておけ」
俺は言って歩き出し三人の前を通り過ぎる。遅れて他のメンバーも歩き出した。
一階へ下りる階段からしばらく円状になっている中を歩くと、両側に一つずつ設置されたベンチに繋がる入り口が見える。
そこから残念そうな顔をした生徒が出てきた。……どっちかは分からないが、こっち側にいたクラスが負けたんだろう。
「……いくぞ、準備はいいな?」
「もちろんだ」
アリエス教師の確認に俺は笑って答え、先頭を切って入り口を潜るアリエス教師についていく。
「「「……っ」」」
入り口から少し歩くと、先にあった光が大きくなり、出ると光に包まれる。
ベンチはフィールドを囲む観客席の下、一階部分の壁の窪みにある。ベンチにある椅子は十個ずつの二列で二十個ある。十個は二個と八個でその間に通路があった。
「……さあ、チェイグ、メンバーは?」
俺はポキポキと拳を鳴らしてチェイグに聞く。
「……オリガ、リーフィス、フィナ、アイリア、ルクスでいこうと思う」
「フルメンバーって訳か」
「……ああ。初戦は思いっきり相手を叩き潰せ。完勝でもダメだ。圧勝しろ」
アリエス教師が堂々と腕を組んで言った。
「……厳しいことを言うぜ」
俺は苦笑しつつ、整列の号令がレフェリーよりかかったのでアリエス教師、オリガ……俺という順で並んでフィールドに上がる。
「これより三年Cクラス対一年SSSクラスの試合を始める! 礼!」
レフェリーの言葉を聞いて互いに頭を下げ、一戦目のヤツを残して担任と他四人はベンチへ戻っていく。
「始め!」
レフェリーが開始の合図をするとほぼ同時、相手の男子がオリガに突っ込んだ。……先手必勝か? それにしては表情に焦りが見える。
『さあ問題児の代一年生、SSSクラス最初の選手は、“怪力兵姫”と呼ばれるオーガの突然変異、オリガさんです!』
実況が選手の紹介する。きっと注目選手の紹介だけはするんだろう。強そうなヤツは紹介されていた。
「……おい、チェイグ」
「……ああ」
後ろの列の左から三番目に座りフィナを抱えた俺が鋭い声で言うと、前の列の一個左の席に座ったチェイグが厳しい顔で頷いた。
「……流されたか、偵察されたか。ちゃっかりオリガがスロースターターだってことを知ってやがる」
だがその程度でやられるオリガではない。
「……何だよ。そっちから来てくれるなんて嬉しいじゃねえか!」
オリガは試合の熱気に中てられたんだろう、身体は兎も角気持ちは最高潮に高まっている。
嬉しそうに笑うと突っ込んできた男子に対し一歩踏み込んでおもむろに右手を伸ばす。
「っ!」
いきなりの行動に相手は驚く。
オリガは驚いたその顔を右手で鷲掴みすると、思いっきり地面に叩きつけた。
「っ……!」
男子は堪らず気絶する。……そりゃそうだ。地面に後頭部がめり込む程の力で叩きつけられてるんだぞ?
「一戦目、勝者一年SSSクラス!」
圧倒的な力を見せつけたオリガに会場が歓声を送る。
「……ちぇっ。もうちょい楽しみたかったのにな」
ベンチへ戻ってきたオリガは早々に終わってしまって不満そうだ。
「……そう言うなって。リーフィス、頑張れよ」
俺はオリガに苦笑しつつ次の試合のため立ち上がったリーフィスに声をかける。
「……大丈夫よ。すぐに終わるから」
リーフィスは冷たくそれだけを言ってフィールドまで歩いていく。
「始め!」
レフェリーの合図とほぼ同時にリーフィスは右手を突き出し冷気を放出していく。
『さあお次は“氷の女王”リーフィスさんの登場です! 先程のオリガさんはその力を見せつけてくれましたが、どうでしょうか!』
実況はリーフィスの紹介もする。
「……フレイム・ローブ!」
だが相手の男子は炎を全身に纏う魔法を使って冷気を遮断する。
「……」
やっぱり事前にこちらの行動が分かっているかのような対処法だ。
「……仕方ないわね。――凍れ」
リーフィスは呟き、冷たく命じた。すると魔方陣も展開されていないのに相手が凍ったように動かなくなった。魔法も中断される。
「二戦目、勝者一年SSSクラス!」
これはまずいと思ったレフェリーはすぐに試合を止めた。
「……治癒魔法より火系統の魔法の方が早く治ります」
リーフィスはそれだけを言うとフィールドの台を下りてベンチに戻ってくる。
「……そうか。あれは相手自体を凍らせたんだな?」
俺は戻ってきたリーフィスに呟く。……確かそういう魔法も存在する。魔方陣さえ出現させないで使えるような難易度の低い魔法じゃなかったハズだが、やっぱりリーフィスは“氷の女王”に相応しい実力を持っている。
「……そうよ。よく分かったわね」
リーフィスは少し驚いて言った。
「まあな」
俺はそれだけを言ってフィナの脇を抱え床に下ろす。
「……ん。すぐ戻ってくる」
フィナはそれだけを言ってゆっくり歩いていく。走ると転んで恥ずかしいからだろう。
「始め!」
『さてお次は可愛らしい外見とは裏腹に途轍もない力を秘めた魔人、“神童”フィナちゃんの登場です!』
フィナの登場に湧く会場。フィナは見た目がいいからな、盛り上がるだろう。……実況もちゃん付けで呼んでるし。
「……悪いが、勝たせてもらう!」
相手は巨体の男子は近接戦闘を挑むらしく気の二つ融合――闘鬼を使うと一気に突っ込んでくる。……フィナの運動神経が悪いのを知っての特攻かは分からない。だがその可能性はあるだろう。
「……煩い」
フィナは迷惑そうに言うと右手を前に突き出した。
「……空砲術式」
手の前に緑色の、魔方陣とは違う紋章を展開するとそこから空気の砲弾を放った。
「ぐおっ!」
フィナに容赦なく突っ込んでブーイングを受けた巨体の男子だが、腹に空気の砲弾が打ち込まれ身体をくの字に曲げて後方に吹っ飛ぶ。だが元の位置に戻っただけで場外へは落ちない。
「……爆発術式、連鎖」
フィナは足が止まった相手に対しさらに追撃を加える。多くの赤い紋章が相手を筒のように囲む。その最上部はアリーナの上空にまで届いていた。おそらく十メートル以上はある。
「……へ?」
相手がキョトン、としている間に一番下の爆発術式が起動し爆発が起こる。
「ぐああぁ!」
爆発はさらに連鎖して下から上へと上がっていく。……爆発で上へ上へと吹き飛ばされていく相手を気で感知した。
「……」
フィナは筒の一番上までいって上空へ打ち上げられ、気絶していると思われるのでそのまま真っ逆さまに落ちてくる相手を見ようともせず、踵を返す。
「三戦目、勝者一年一年SSSクラス!」
場外へ落下した相手を見たレフェリーがすぐに勝者を告げるとフィナは台を下りる。とてとてと歩いて戻ってくるフィナだが、
「……っ」
何もない場所で転んだ。……あっ。
「……」
フィナは静まり返ったアリーナの中、注目されながらも気丈に立って、しかしベンチの方へダッシュして戻ってきて、前の列の椅子を飛び越えて俺に抱き着いてきた。
「……よしよし」
俺は涙目になっているフィナの頭を優しく撫でて慰める。
『……グッジョブ!』
実況がそんなことを言って親指を立てていた。……グッジョブ、じゃねえよ。観客も可愛いとか言うな。可愛いけど。
続いてアイリアが真剣な表情の中、どこか不機嫌そうな雰囲気でフィールドへ向かっていく。
「頑張れよー」
俺はアイリアの背に声をかけるが、無視された。
『続いて登場するのは一年最強と名高い魔槍と聖槍、二つの槍に選ばれた“双槍の姫騎士”アイリア様です!』
アイリアが二人の槍を構えてフィールドに上がると大歓声が巻き起こった。……凄い人気だな。
「始め!」
始まると緊迫した空気が両者の間に漂う。……アイリアは真面目だからな。手加減ってもんを知らない。
「はああぁぁぁぁ!」
相手の女子が勢いよく二本のレイピアを構えて突っ込んでくる。……アイリアはオールラウンダーだからな。対策はより強くなることぐらいだろうか。それか片方に超特化するかしかない。
「……」
突っ込んだ女子はアイリアと交差し――アイリア後方の場外へと吹っ飛んだ。
一瞬で着いた勝負に会場が湧く。……交差した瞬間、両手の槍でレイピアを半ばから折ると脇に槍を差し込んで持ち上げるように投げたんだ。ちゃんと力加減ってもんを弁えているようで安心した。情け容赦なく叩きのめすようなことをしなくて良かった。
『さすが! さすがアイリア様です! お聞き下さいこの歓声!』
実況の声にも熱が入っていた。……あんた上級生だろ。何でアイリアに様付けしてんんだ。
と俺は思わないでもなかったが、ここまで四戦四勝の圧勝でアリエス教師の言う通りにしているので、俺もそれに乗っからなければならない。
「……ん」
落ち着いたフィナを隣の椅子に下ろし、俺はフィールドへ出ていく。……あいつへの挑発を含めて木の棒を左手で持ち肩に担いでの登場だ。
「「「ブー!!!」」」
……うおっ。俺が登場してからすぐに会場一致の大ブーイングだと? 何故だ?
「は、始め!」
相手は筋肉隆々で大きな戦斧を持った男子だった。レフェリーは大ブーイングに戸惑いながらも試合開始の合図を送る。
『これはこれは、一年SSSクラスのフィナちゃんアイリア様を含む綺麗どころを侍らせ二年三大美女にも手を出したと言われる超最低男子にして彼の英雄ガイス・ヴァールニアとエリス・ヴァールニアの一人息子にして魔力がないという問題児が集う一年生の中でも特に問題児である、ルクスに会場から大ブーイングが送られます!!』
……おい、俺の紹介酷くないか? それに何で俺だけさん付けしないんだよ。今まで下級生でもさん付けだったってのに。
『え~、噂によるとフィナちゃんを脅迫し、アイリア様を脅迫し、セフィア様に詐欺で近付き、シア様を口説き、アンナ様を図書館で襲い、王子をぶん殴り、人を人とも思わないようなクソ野郎だと聞いておりますが、国王様、いかがでしょうか』
実況がさらに俺の悪口を加え、一番聞いちゃいけないヤツに聞いていた。
『……まあ、あのクソ息子は殴られて当然だと思うが、女にだらしないのは親子揃ってのことだな』
国王は気さくに微笑むと「クソ息子」と言い笑って続けた。……おい、親父。何で国王に知られてんだ。いや、ヴァールニアっていう名字は国王から貰ったらしいからそうなのかもしれないが、国王気さくすぎないか?
「……余所見をするな!」
俺が国王の方に視線を向けていると、もう試合が始まっているので相手が突っ込んできた。……あちこちから「ぶっ殺せ!」とか「殺っちまえ!」とかいう声が飛んでいるのは勘弁して欲しいが。
「……破気」
俺は木の棒に破気を纏わせると、俺も応じて駆け出した。
『さあただの木の棒一本で斧に立ち向かうルクス! 勝機は一切ないように見えますが、バカなのでしょうか!』
……実況は完全に俺の敵である。
「もらった!」
実況や観客に後押しされ、相手は俺に目がけて戦斧を振り下ろしてくる。
「……」
だが俺は木の棒を横に一閃することでそれを砕いた。
『……はっ?』
勝機はないとか言ってやがった実況は木の棒ではなく斧の方があっさり砕け散ったことに関して呆然としていたが、俺はさらに追撃する。破気を解除し実況や観客と同じように呆然とする相手の右手を払い、返す刀で左手を払う。
「……」
そこから思いっきり顎目がけて木の棒を振り上げた。
「かっ……!」
顎に攻撃を受け脳を揺らされた相手は、目をぐるんと回して気絶し、仰向けに倒れる。
「五戦目、勝者一年SSSクラス! よって一年SSSクラスの勝利とする!」
レフェリーが相手が気絶したことを確認して勝者を告げると、会場は呆然としたまま静まり返った。
疎らにパチパチと拍手が聞こえてきたかと思うと、VIPと解説のじいさん、二年三大美女の三人からだった。
そこから拍手は広がり、やがて全体から降り注ぐ。……ま、こういうのも悪くはないな。
俺はそう思って踵を返すと、一年Gクラスのあいつがニタニタ笑いながら俺を見ていた。
「……けっ」
俺は小さく舌打ちしつつ、そいつに向けて右手の拳を逆さにし、下に親指を突き出す。
……俺には隠し玉がいくつかあるんだ、てめえが思い描くように負けたりなんかしねえよ。
俺は不敵にニヤリと笑い、ベンチへと戻っていった。