ダークホース、登場
第三試合、二年AクラスVS一年Sクラスの試合はいい勝負と言えば聞こえはいいが、内容はかなり差があったように思う。
一年が頑張って粘りいい勝負に見せていた、というような気がする。
第四試合、二年DクラスVS一年SSクラスの試合は四勝一敗で一年SSクラスが勝ち進んだ。
さすがに一年で二番目に強いと思われるクラスだけはある。二戦目の負けた試合もいい勝負だったので順調に勝ったと見ていいだろう。
第五試合、一年EクラスVS三年Sクラスの試合は実力に差がありすぎて全敗。初戦の全敗よりも差が大きいため三分と経たずに試合が終わった。
第六試合、二年FクラスVS二年Eクラスの試合は同学年でクラスが一つ違うだけということもあって普通にEクラスが勝った。
確か次は二年SSSクラスと戦うとこだったか。これならあの三人が出れば勝ちは決まったようなもんだろう。
第七試合、一年GクラスVS三年Aクラスの試合は、一戦目からどよめきが走っていた。
「……ね、寝た!?」
会場の誰かがそう言う。……まさにその通り。Gクラスの女子は場外ギリギリの位置で寝転んでいたのだ。
「……き、貴様ああああぁぁぁぁぁぁ!」
嘗められたと思ったのだろう。三年Aクラスの男子はハルバートを構えその女子に突っ込んでいく。
「ま、待て! 熱くなるな!」
Aクラスのベンチから叱咤の声が響くが、キレたそいつにはその声が届かないようだ。闘鬼の融合を使い速度を上げて突っ込んでいく。
「……」
そして寝転ぶ女子にハルバートを大上段から勢いよく振り下ろした。
すると女子はスルッと相手の背後に淀みなく回り込み、大振りをして隙だらけのそいつの背中に両手を突き出す。
「しまっ……!」
そこでやっと自分が我を忘れて大きな隙を作ってしまったことに気付く三年だが、もう遅い。
「ウインド!」
女子は手の前に緑色の魔方陣を展開すると、突風を巻き起こした。場外ギリギリの位置まで突っ込んでいた三年は、突風に背中を押され場外へと落ちる。
「「「……」」」
「……い、一戦目、勝者一年Gクラス!」
唖然とする観客達の中で一足速く我を取り戻したレフェリーが勝敗が決したことを告げる。
「……あいつは実力は折り紙付きだが短気でキレやすいという弱点がある」
チェイグが何やらメモ張を広げて呟いた。……お前、まさか全クラス代表メンバーの情報集めたんじゃないだろうな。
「……よく弱点を突いてるってことか。これは来るぜ」
「……順調に勝ち上がったとしても、全校で二位、三位を二年SSSクラスと争う強さの三年SSクラスと戦うことになるんだぞ?」
「……見てなかったのか? さっき戦ってた女子、全く怖じ気付いてなかったぞ」
「……勝ち方をインプットされてるってことか」
「……ああ。恐らくどのクラスと当たってもいいように研究してある。もちろん、俺達のもな」
あれはそういう自信があってのことだ。だが自分で考えたんじゃないな。おそらく誰か後ろで指示を出してるヤツがいる。
唖然とする観客を他所に試合は二戦目へ突入する。今度は三年Aクラスが辛くも勝利を収めたが、陣地の顔は優れない。
「……かなりやりにくそうだったな。さっきのが偶然じゃないって、だんだん会場も気付き始めたぞ」
チェイグが手元のメモ張を見ながら言う。多分チェイグのメモ張にも書かれているような対策が取られていたんだろう。
三戦目はGクラス、四戦目はAクラスと四戦して二勝二敗のいい勝負をしていた。これに会場は唖然とし、実況と解説は盛り上がっていた。
「……さて、真打ちの登場だぞ」
チェイグが言って、そいつが出てくる。
漆黒の禍々しい剣を右手で持って肩に担ぎニヤニヤとして笑みを貼りつけた俺と同じくらいの背丈をした少年。荒んだような色の黒髪はボサボサで目つきはかなり悪い。
一年Gクラスのベンチから悠々とゆっくり、フィールドへ上がっていくその足取りはしっかりしていた。緊張など感じられない。むしろこの状況を楽しんでいるようにさえ見える。
「始め!」
思わぬ苦戦を強いられた三年Aクラスが、レフェリーの合図とほぼ同時に先手を取った。
「……俺達はこんなところで、負けられない!」
三年は言って長剣を構えて突っ込む。
……闘鬼の二つ融合に加えて身体強化。さらには脚力強化か。魔法と気を併用して身体能力を上げる魔法戦士タイプ。
「……」
そんな強化を重ねて突っ込んでくる三年に対し、そいつはニィ、と笑ったまま動かない。剣は肩に担いだままだ。
「……嘗めるな!」
三年は嘗められていると思い真っ向から突っ込んで剣を振るう。……さすがに強化を重ねている上に腕もいい。速いな。
「「「っ!??」」」
だが、その剣ごと、着ているレイヴィスごと、三年はそいつの振るった一撃で袈裟斬りされ鮮血を噴き出す。……何だと? 気も魔法も使わずにレイヴィスを斬るだと? あいつの膂力は確かに高いがレイヴィスを斬れる程ではない。フルパワーのオリガが、切れ味のいい剣でやっと切り傷が付けられるような強度を持ってるんだぞ? かなりの防刃になってるんだが。
「……ってことは、あの剣か。――魔剣だな」
俺が苦い表情で呟く。左肩から右腰までバッサリ斬られてしまった三年は死にそうだったためレフェリーは一年Gクラスの勝利を宣言し素早く三年Aクラスの陣地へと運び駆け寄ってきた医療メンバーに任せる。
「……ええ、おそらく。一年Gクラス、今回のダークホースになるわね」
アイリアが頷き言った。……勝ち上がってきたら俺の相手になるのか。あの魔剣がどういう能力を持っているかは分からないが、警戒するには充分だろう。
「……すまないが一年Gクラスについてはノーマークだった。情報を集めようとしても阻害されてる感じだったが……」
チェイグが申し訳なさそうな顔をして言う。
「……ま、この会場にいる誰もがノーマークだっただろうぜ。情報もないしこっちの弱点はバッチリ研究されてるみたいだな。――お前ら、問題あるか?」
「「「ない」」」
答え方は様々だったが、意味するところは一緒。
「……問題ないってよ。俺達は相手が誰だろうと、戦って倒す、ただそれだけだ」
だからチェイグが謝ることはねえよ。
俺はそう言外に言って宣言した。
第八試合、三年GクラスVS二年Cクラスの試合は辛くも大将戦で三年Gクラスが意地を見せて勝利。
第九試合、一年BクラスVS三年SSクラスの試合は三年SSクラスの圧勝。五戦終わるのに二分とかからなかった。
その五戦目。
「……あれが三年SSクラス最強と言われる、レクサーヌ先輩だ」
チェイグの要注意人物リストに入ってるような強いヤツはたまにこうして紹介されるのだが、実況も同じようなことをしている。
レクサーヌという人は二年三大美女と並んでもいいくらいの美女だった。
クリーム色の長髪に垂れ目で目は細く開いてないように見える。恐るべきはその胸。
シア先輩が全体的に超絶なスタイル、セフィア先輩が引き締まった弾力あるスタイル、アンナ先輩が柔らかいスタイルだとすると、レクサーヌ先輩は引き締まった身体で尻が大きいようには見えないが、胸だけが半端じゃない。それこそシア先輩を超える大きさだった。俺が見た中でも巨大なモンスター以外でこの先輩より胸の大きいヤツはいないことだろう。
それもそのハズ、レクサーヌ先輩には薄い茶色の上に曲がった角が二本、対になるように生えていて、同じく薄い茶色の耳は横に伸びている。
獣人、それも牛人族という種族である。
相手の二メートルを越える巨体で筋肉隆々の男子がレフェリーの合図に従って、少しその脅威的な胸に気を取られつつ突っ込んだ。
拳で戦うタイプらしく、鬼気を纏って突っ込むが、レクサーヌ先輩は雑に相手の腕を掴むと、腕と腰だけで下半身は使わず、後方へぶん投げた。
「……物凄い速さだったぞ」
俺はレクサーヌ先輩が手を放してから相手で壁に叩きつけられるまでの時間があまりにも短いため呟いた。
「……ああ。あれが三年SSクラス最強、牛人族のレクサーヌ先輩だ」
チェイグが険しい表情で言う。それ程強いということか。
「……それにしても、凄いな」
「……ああ。なあ、レガート?」
「えっ? ……ああ、うん。ホントに凄いね」
俺が言うとチェイグが同意しレガートに同意を求め何について聞かれたか分かったのかレガートも頷く。……そりゃ実力も凄いけどさ、あの超絶シア先輩をも上回るんだぜ? 男としては、なあ?
「……何が凄いんだ、チェイグ?」
「……何が凄いの?」
サリスとアイリアからの目が笑っていない微笑みを受けた俺達三人は冷や汗が流れるのを感じたが。
「……そりゃあ実力だろ」
「……ああ」
「……う、うん。凄い強かったよね」
俺が言うとチェイグが頷きレガートも誤魔化す。
女性陣からの視線がキツくなるが、仕方がない。
だって、なあ?
第十試合、一年DクラスVS二年SSクラスの試合は二年SSクラスが強さを見せつけて完勝。大体三分ぐらいだろうか。
第十一試合、一年AクラスVS三年Eクラスの試合は先に一年Aクラスが三敗してしまうも、残り二戦で苦戦しつつも勝利を収めた。どこかで一勝していれば勝てていたかもしれないという結果に悔しそうにする一年生だった。
第十二試合、二年BクラスVS三年Fクラスの試合は拮抗していた。
「……さて、いくぞ」
次に試合がある俺達一年SSSクラスはアリエス教師に言われ、立ち上がって観客席から円柱の塔に入り螺旋階段を下りていく。
……さて、初戦だし、どんなもんかね。