黒幕側の計画
前回の予告通り、黒幕側の話です
切りがいいので一話更新にします
電気ではなく、蝋燭の火で明かりを灯す薄暗い会議室。
そこには円卓を囲む初老のやたらと高価な衣服を身に着けた男性達がいた。
「……前回は失敗してしまいましたが、収穫はありました。ルクス・ヴァールニアの力についてですが、気においては最強といったところですかね。ゲドガルドコング百体程度では抑えられなかった。それどころか他のモンスターも殺られてしまった、と。想定外の力に失敗してしまいました。しかし今回は違います。相手の力を見誤ることはありません」
柔和な笑みを浮かべた二十代に見える青年が会議室の中、一人だけ立って言った。
「……クラス対抗戦、か」
初老の男性の一人が青年の言葉に言う。
「……はい。正式名称はライディール魔導騎士学校校内クラス対抗代表団体戦、略称クラス対抗戦。ライディール魔導騎士学校で開催されるそれには、国王や“紅蓮の魔王”と呼ばれる理事長や王国近衛騎士団団長などディルファ王国の要人が多く集まっています。各クラスの代表は潰し合うように死力を尽くして戦うでしょうね。そこを狙います。クラス対抗戦最終日、刺客を送ります」
青年は頷き柔和な笑みを崩さないまま今回の計画を説明していく。
「……国王を葬れるのはいいが、大丈夫なのか? 前回なら兎も角今回は全校生徒全員がいる。その刺客とやらが倒される可能性も……」
前回の失敗からか弱気な発言をする男性に青年は柔和で穏やかな笑みを浮かべる。
「……問題ありませんよ。今回の刺客はゲドガルドコングのようなオルガの森深部、つまりは聖地の浅い場所から連れてきたような雑魚ではなく、聖地でも我が物顔で闊歩出来るような怪物を用意しました」
「「「……っ!」」」
オルガの森深部、モンスターの聖地とさえ呼ばれるそこには名を口にするのもおぞましい怪物が跋扈している。……だからこそ英雄夫婦が深部の見張りとしてその近く、オルガの森に村を作って住んでいるのだが。
「……なんと……!」
「……それならあの憎き国王共々皆殺しに出来ますな!」
会議室に喜色の強い空気が流れ始める。
「……ですが問題はクラス対抗戦の組み合わせですね。まあそれはこちらで手を回せますので、何とかしてルクスとあの最強生徒会長にぶつけ、共倒れするまで戦ってもらうしかありませんが……。まあこちらの手の者がいますから、問題ありません。いざとなったら卑怯な手を使って彼を怒らせ生徒会長を恨んでもらうしかありませんね。ルクス含む一年SSSクラスのメンバーは強くも穴の多い者ばかり。二年SSSクラスの三人は準決勝で生徒会メンバーと戦ってもらって消耗してもらいましょう。出来れば数日は動けないぐらいがいいんですが。生徒会はさすがに私の話に乗ってくれないでしょうね」
そこで一旦ふぅ、と息を吐いて青年は言葉を区切る。
「上級生でプライドの高い者を唆し、どんな手を使ってでも勝たせれば傷付くでしょう。すでに私の手の者は行動を開始しています。あとはどこまであの生徒会長を弱らせてくれるか。トーナメントは適当に仕組んでおきますが、弱点や対処法は対戦する全クラスに流しておきますか。密偵はたくさんいますが、動かすのは少数でいいですね。一年SSSクラスの準決勝には三年SSクラスでもぶつけておきますか」
青年は柔和な笑みを浮かべながら楽しそうに話を進めていく。
「……して、その刺客とはどんなモンスターなのだ?」
生徒達を封じてもまだ理事長やその他凄腕の者達が警備に就いている。その者達を退けられる程のモンスターなのか、という不安を表した問いだ。
「……心配しなくてもいいですよ。まあしかし、前回私の策で失敗したのは弁明出来ませんので、言いましょう。――カタストロフ・ドラゴン」
「「「!?」」」
その名を聞いた途端、男性達の顔色が変わった。
「……な、何だと!? あんなモノを使うのか!?」
「……あれが解き放たれたら世界は……!」
「……っ!」
驚愕する者、腰を浮かせて抗議する者、自分を抱えるようにし青褪めた顔で震える者。反応は様々であったが、そのカタストロフ・ドラゴンというモンスターがどれ程恐ろしい存在かを物語っているようだった。
カタストロフ・ドラゴン。それはモンスターの聖地と呼ばれるオルガの森深部に住まう漆黒のドラゴンだ。しかし漆黒の身体には金色の蔓のようなモノが埋め込まれていて、その体長は二十メートルと巨大。尻尾の一振りで街一つを壊滅させ、ブレスで世界を焼き尽くすとまで言われる、災厄の竜。
そんなモンスターを使うとなれば自分達にも被害が及ぶのではないか。そんな不安が現れていた。
「……問題ありません。あの方がいればライディールを壊滅した後でカタストロフ・ドラゴンを始末するのは簡単なことですから。まあ、カタストロフ・ドラゴンは使えるのでそのまま王都に向かわせてもいいのですが。あの理事長含む教師陣相手にカタストロフ・ドラゴンだけでは不安が残りますね。混乱に乗じて内乱でも起こさせますか。ではそのようにいたしますので、皆さんはご安心を。愚かな人間共を駆逐し、あなた方の時代へ」
青年が柔和な笑みを浮かべて言うと、男性達は冷や汗を浮かべて笑みを浮かべた。
……こいつらは敵に回してはいけない。
表現は違えどそんなことを思っていた。
……そして、あなた方を切り捨てあの方の時代へ。
青年は男性達が自分や組織に恐怖を抱いているのを読んで、内心で悪魔の笑みを浮かべた。
全てはあの方が世界を制するための駒。
あの方が目をつけたルクス・ヴァールニアという人物に嫉妬することはない。あの方が彼を見ていようともあの方のために生きてきた自分が負ける訳がないという自信がある。魔力を持たないという異例の存在。
だが所詮はルクス以外の全員が持つ力の半分しか持てない弱い存在。いくらは今は脅威であったとしても、永遠に彼が最強である時代はやってこないのだ。
今は脅威、だがそれだけ。
そう思うと少し、青年は虚しくなった。
せっかくあの方が見つけた暇潰しだというのに。