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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
68/163

変態VSマッチョ

※本日二話目です

 男子が代表メンバーに少ない、とのことで始まった男子対女子の四人対戦だが、すでに三戦を終えている。


 ウォーミングアップを済ませてあったらしいオリガが初戦の相手をフルボッコにしてまず一勝。


 次はイルファで容赦なく魔法で相手を蹂躙して二勝。


 サリスが入学式の日に俺と戦ったヤツと戦い、いつも通り隙間に通すような精密な突きで相手を圧倒し三勝。


 もうすでに勝敗は決まったようなもんだが、実はことの発端として最後の二人が最も重要らしい。


 ゲイオグ(俺がいつもマッチョって呼んでるヤツな)対レイス。


 サリスの対戦も一応本命だったらしいが、サリスの強さは誰もが知るところなので一応って感じだ。


 だがレイスは授業であまり本気を出さないし、どれくらい強いのかもイマイチ分からないということで、男子では最も代表に近いマッチョが戦うことになった。


 ……俺の予想では、実力が拮抗していると思われる。


 魔法よりも気寄りな二人で、互いに体術を得意としている。気の扱いと体術はレイスの方が上だが、マッチョには魔闘というモノがある。


「……最初から全力でいかせてもらうぞ……!」


 野次馬の観客が囲む円の中心で対峙する二人。マッチョが最初から全力を出すらしく、魔闘を展開する。


 魔闘とは、魔法を組み込まれた全身鎧だ。組み込まれている魔法は使う者によって違うが、大概の魔闘は身体能力強化の魔法が多い。そこに火系統などの魔法を付け足す程度だ。


 使う属性の色が鎧の色になっていたりするのだが、マッチョの魔闘は青紫だった。……実に属性が判別しにくいな。


 顔から爪先までの全身を覆う青紫の鎧は、金色の蔓のような装飾が施されていた。頭は目の部分だけがガラス張りのようになっている。そこは紫だ。頭にはクワガタのような内側に曲がった角が生えている。


 マッチョ本人の体格と合わせて、かなりゴツい。


「……そう」


 だが魔闘を見てもレイスは眉一つ動かさない。いつもより冷静――というよりは冷たく見える。……相手が女子じゃないからじゃないといいんだが。


「……すぐに余裕を失くしてやろう……! 錬闘鬼!」


 そんなレイスを余裕だと勘違いしたマッチョは、いきなり気の三つ融合を使う。……さすがに俺がちょっとコツを教えてやっただけはあって、元一流まではあっさりと辿り着いたか。


 水色、赤、青が混じり合ったオーラを纏うマッチョ。攻撃、バランス、装備の強度強化か。かなり本気だな。


 防御を硬気で二重にするのではなく錬気で魔闘の鎧の強度を上げたのには、マッチョの魔闘に対する自信が見受けられる。


「……衝破鬼」


 対するレイスは両手に緑、灰、赤が混じり合うオーラを纏わせる。……ふむ。さすがに全身に満遍なく纏うマッチョよりも気では上か。一点特化としてはかなりいいが――。


「……っ!」


「ふんっ!」


 それだけじゃあ魔闘には勝てない。


 高速で背後へと回り込まれたレイスが僅かに目を見開きつつも、マッチョが振るってきた拳をスルッと避ける。……回避に無駄な力が入っていない。体術はさすがというべきか。


「……甘いな。青紫魔闘ブリザード・ボルト・ブリュンゲル、起動ッ!」


 マッチョは短期決戦でいくようで、もう魔闘の持つ力を解放する。


「……っ。錬闘鬼」


 レイスはマッチョが纏う全身鎧から放たれる青い冷気と紫の雷を見てさすがにヤバいと思ったのか、全身に水色、青、赤が混じり合ったオーラを纏う。


「……甘いな!」


 しかし、縦横無尽から襲いくる冷気と雷、そしてマッチョの拳がレイスを防戦一方へと追いやる。


 だが元々身のこなしがいいレイスはレイヴィスに攻撃を当てるなどしてダメージを軽減したりしつつ耐える。


 そんな状況が五分ずっと続いた。


 全身鎧に覆われているマッチョは分からないが、レイスは見るからに疲労し、息荒く汗ばんでいる。


「……さすがに、キツいわね」


 レイスはそう言って、防御から攻撃へとシフトさせる。一気にスルリとマッチョの懐に入った。


「っ!」


 そして初めてレイスがマッチョに攻撃をする。


「ぐっ!」


 気では上回るレイスの掌打だ。まともに受けたマッチョの腹部分の鎧にヒビが入る。


 ……その時レイスはチラリと掌打をした自分の右腕とヒビの入った鎧を見比べた。


「……割に合わないわね」


 レイスは失笑を僅かに浮かべる。


「……なかなかの攻撃。俺の鎧に一撃でヒビを入れるとは大したものだが、まだまだぁ!」


 マッチョはそんなレイスに冷気と雷を直撃させる。


「……っ」


 攻撃直後でまともに受けたレイスは吹き飛び、しかし華麗に着地する。


「……けど、何回か当てれば割れるのね」


 やっと入れた一撃がヒビを入れるだけに留まりピンチは変わらぬレイスはしかし、仄かに笑う。


 ……衝気を上手くコントロールして鎧だけにダメージを与えたのか。さすがとしか言いようがない。


 破気で鎧を直接当てた前部分、衝気でレイヴィスや内臓にダメージを与えず背中部分にヒビを入れたのだ。気の使い方はこのクラスでも俺に次いで、ということは魔力のある中でも気の使い方では最強の部類に入る。


 一見いい勝負の二人。だが俺の表情は最初凄いな、と湧いていた時とは違い険しかった。


 レイスが攻勢に出たことにより二人の戦いはさらに激しさを増し、野次馬もヒートアップしていく。


 その十分後、つまり勝負開始から十五分が経過していた。


 だが二人の勝負は決着を迎えず激戦を繰り広げている。


「……ルクス?」


 俺はスッと立ち上がり、フィナを下ろす。聞かれるが、無視だ。事態は一刻も争う。


「……」


「おおおおおぉぉぉぉ!」


「……っ!」


 白熱した戦いに集中している二人は、ゆっくり近付いていく俺に気付かない。二人が両側から真ん中に向かって突っ込むそこに、俺は到着する。


「「っ!」」


 だが二人は本気のため急には止まれない。俺に二人の全力攻撃が向けられる形になるが、


「……破気」


 俺はマッチョが突っ込んでくる右手に灰色のオーラを纏い、同時に突っ込んできた二人の腹を裏拳で殴った。


「「……っ!」」


 二人は悶絶し、かなりダメージが溜まっていたので地面に尻から倒れる。俺の破気を受けたマッチョの鎧は、レイスに多くのヒビが入れられ欠けていることもあって砕け散る。


「……てめえらは、アホかっ!」


 俺は地面に座り込んだ二人の脳天に、チョップを下す。


「「「……」」」


 唖然とする野次馬達は無視し、二人への説教を開始する。


「ゲイオグ!」


「……お、おう!」


 俺は初めてマッチョの名前を呼ぶ。真面目だからだ。


「……てめえ、気を使わないで魔闘は十五分が限界だって前言ってたよな? しかも気の三つ融合は使い始めてから日が浅い。限界は十分ってとこか。それなのに両方使って十五分戦うとか、何考えてんだ、ああん?」


 俺はついマッチョを睨みつけるようになってしまう。


「……そ、それはだな。負けられない戦いだから……」


「……この野郎……! 活気チョップ!」


 俺は聞き分けの悪いマッチョの脳天に、黄緑色のオーラを纏わせチョップを下す。


「痛い! ……ん? 傷が?」


「……ただの応急措置だ。回復出来るヤツ、頼んだぞ。まあ、俺が何で止めたかも分からねえようなヤツは、助ける価値ねえが」


 俺は吐き捨てて、クルリとマッチョからレイスへと視線を移し、医療メンバーとしてクラス代表に選ばれた男勝りな女子、シーナにマッチョを任せる。


「……肉体の疲労が凄いじゃん。あともうちょい続けてたら三日三晩苦しんだな」


 シーナはマッチョの身体を診察して言う。


「レイス!」


「……何よ」


 俺がざわめく野次馬や俺を驚いたように俺を見上げてくるシーナとマッチョを無視してレイスを呼ぶと、レイスは疲労の滲んだ無表情で憮然として顔を上げる。


「……活気」


 俺は活気を発動させて、レイスの両腕に軽くチョップを下す。


「っ~~~!」


 するとレイスは無表情を歪め、自分を抱えるように腕を押さえた。


「……お前、最初攻撃した時に右腕ヒビ入ったか何かあったろ? で、それを庇うために左腕ばっかで攻撃してるからこっちは折れてるな。右腕で三回目ぐらいの攻撃をして折ったな。腕折ってるのに無理矢理攻撃加えるからさらに酷いことなってんじゃねえかよ」


「……」


 レイスは気まずそうに視線を逸らす。


「……お前、代表メンバーだろうが。なのにムキになって勝とうとしやがって。お前が出られなくなったらどうする気だよ」


 俺はレイスを見下ろして睨み、言う。


「……別に、負けるのが嫌なだけよ」


「……そうかよ」


 俺は何も聞かず、その場から去る。


 レイスの下にはフェイナが駆け寄り、すぐ様治癒をかけていく。


「……迷惑ってのは、自覚しないところであるもんだぞ」


 俺はその去り際に、レイスに忠告しておく。どういうつもりで勝つまでやろうとしていたのかは兎も角、直前に怪我をされてはそっちの方が迷惑だ。


「……悪かったわね」


 レイスの謝罪に思わずチラリと振り返ると、少し驚いているようでしかし、微笑んでいた。


「……気、四つ以上の融合教えてやるから、無茶はすんなよ」


 俺はそれだけ言って、そのまま頬を膨らませて拗ねている様子のフィナの下へ歩いていった。


 微妙な空気だったが、勝てなかったということで、男子の言い分は認められず、このクラスにおける女子の優位がさらに上がった。

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