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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
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メンバー発表

 ……はぁ。


 俺は早朝鍛練の際、二年三大美女のシア先輩をからかうのに予想以上の精神的疲労を伴いぐったりしつつ、何故か今日は朝からフィナの機嫌が悪いので教室で隣の別々の席に座っていた。


 ……フィナがアイリアに何か耳打ちしていて、その後アイリアも俺を非難するような視線を向けてきたので、何か気に障ることでもしてしまったんだろう。何かは分からないが。


「じゃ、連絡するからなー。席に着け」


 アリエス教師がツカツカと教室に入ってきて、いくつかのグループで雑談していたクラスメイト達を席に着かせる。


「……いよいよ、クラス対抗戦のメンバー十四人を発表する」


 アリエス教師が真剣な表情でそう言うと、昨日と同じようにゴクリ、と生唾を飲み込む音が聞こえてきた。……十四人か。メンバー十人とスタッフと医療メンバーが四人ってことだろうな。


「まずは戦うメンバー十人からだ」


 アリエス教師はそう言うと、手元の紙に目を落とす。


「まず一人目、アイリア・ヴェースタン・ディ・ライノア」


 アリエス教師がアイリアの名前を呼ぶと、当然、と頷く者がいたりして、盛大な拍手が送られる。


「二人目、フィナ」


 アリエス教師がフィナの名前を呼ぶと、盛大な拍手が送られる。肝心のフィナはというと、ボーッとした様子で何で拍手されているか分からないようだった。


「三人目、リーフィス・イフィクル・ヴィ・ブリューナク」


「四人目、リリアナ」


「五人目、イルファ」


 順当に女子五人の名前が呼ばれ、あと五人。アイリアは堂々としたものだったが、フィナ、リーフィス、リリアナはいつも通りで、イルファはペコリと小さく頭を下げた。


「五人の名前を上げたが、この五人がずっと出る訳じゃないからな。六人目、オリガ」


「うっす」


 オリガはやる気満々で返事をする。


 盛大な拍手が送られるのは他と同じだが、少し笑い声が混じっていた。


「七人目、サリス・メイオナ・ジャガン」


 サリスは名前を呼ばれると、ホッとしたように息をついた。


「八人目、レイス・リンクス・スフィア」


 レイスはいつもの無表情で、特に反応は示さなかった。


「……女子はこれで終わりだ。次、男子になる。九人目、レガート・リーバン・フィル・ブレード」


「……えっ?」


 俺の考案したかくれんぼで意外にも最後の方まで残ったレガートの名前が呼ばれると、他のヤツも驚いていたが、一番驚いているのは本人だろうか。拍手が一拍送れてやってくると、レガートはやっと実感したのか恥ずかしそうに小さく頭を下げた。


「レガートはかくれんぼの件で活躍したが、それ以外にも戦いに関しては充分な成績を収めてる。お前達がノーマークだっただけで、驚く程のことじゃない」


 アリエス教師は少なからず驚きが広がっている教室に、呆れたように言った。


「最後、十人目になる」


 アリエス教師が言うと、視線があちこちに移る。……おそらく、誰が呼ばれるか見当をつけているんだろう。


 視線は主に五つくらいに分かれている。


 チェイグ、マッチョ、シュウ、入学初日俺に喧嘩を売ってきたヤツ(名前は知らん)、そして俺だ。


 正直、俺になるかどうかは分からない。まさか女子が八人だとは俺も思わなかった。六、四で女子が多い、みたいな感じになるのかとも思ったが、このクラスの女子は強いから仕方がないのか。


「ルクス・ヴァールニア」


 アリエス教師が俺の名前を呼んでくれる。……俺は思わずニヤけるのを隠すために手の甲で口元を隠した。


「この十人で団体戦を行う。惜しい者もいたから来年は頑張るといい。ルナとゲイオグ辺りはかなり迷ったな。それでは、今回メンバーの補助をするスタッフを発表する」


 アリエス教師はそう言ってスタッフの発表へと続ける。


「チェイグ・オルバ・ハールトン」


「……」


 チェイグが名前が呼ばれてふぅ、と息を吐いていた。……似た者夫婦かよ、お前ら。


「スタッフはもう一人、ルナ・アイナス・ヴェイガ」


 アリエス教師に名前を呼ばれたルナは少し驚いていたようだ。……忘れていたが、いつかシュウとかと一緒に狩りに出掛けた時に一緒だった女子だ。名前聞いて顔を見て思い出した。


「次、クラス対抗戦では学校の医療スタッフでも手に余る程怪我人が出ることも多い。よってクラスに医療メンバーを置き、その成果によって医療技術を見ることにしている。医療メンバー一人目は、フェイナ・アルラート」


 アリエス教師は医療メンバーを置く説明しながら、一人目の医療メンバー、大体の予想通り、フェイナが指名された。盛大な拍手を惜しみなく送られ、フェイナは照れて頬を僅かに染めていた。


「二人目、シーナ・アンザック」


「よしっ」


 アリエス教師に名前を呼ばれたシーナという女子は人目を憚らずガッツポーズした。それに笑い混じりで大きな拍手が送られる。


 ……確か、シーナは少年っぽい体型と性格をして、女子にモテるヤツだったな。俺はあんまり関わりがないから知らなかったが、回復魔法が得意なんだな。


「以上が、今年のクラス対抗戦メンバーだ。一部を除けば、二年にも三年にも勝る実力を持ってるヤツもいる。団体戦だ、勝てないことはない」


 アリエス教師の言葉に、メンバーは真剣な表情をする。……一部ボーットしていたりするが、俺はもっと酷い。メンバー入り出来たことが嬉しくて、ニヤニヤが止まらない。口元を隠したままだ。


「……本番前に調子を崩すことのないように。それと、お偉いさんの前でいい格好しようと思って頑張ることだな」


 アリエス教師は冗談っぽくそう言って、教室を去っていく。


 アリエス教師が教室を去りドアを閉めた瞬間、メンバー以外が一斉に動き出した。


 メンバーへの激励や世辞を言いに、移動するためだ。


「やっぱお前は入ったか。俺も入りたかったな~」


 シュウもその一人で俺とチェイグの間の廊下に早速移動してきた。マッチョも一緒だ。


「惜しいにも名前が挙がらなかったヤツが何言ってんだよ、なあレガート?」


 俺は珍しく俺達の方に来たレガートに尋ねる。


「……いや、僕が選ばれたのがおかしいから、そうでもないと思うけど」


 レガートは相変わらず自信なさげに弱々しく微笑んだ。


「……何言ってんだよ。アリエス教師の評価をバカにしてんのか? 目が節穴だと言いたいんなら本人に言えよ?」


「……いや、そういう訳じゃ……」


「……ルクスお前、あんま話さないヤツ相手でも容赦ないのな」


「誰が相手でも一貫した俺、がモットーだぜ」


 俺はジト目を向けてくるシュウに対し、寧ろ誇らしげに言った。……そのおかげでセフィア先輩やアイリアが助かったんだからいいじゃねえか。


「……まあ確かに、アイリア様やセフィア先輩を助けたのは、ルクスのそれだからな」


 チェイグが苦笑して言った。……うんうん、やっぱりチェイグは分かってるよな。


 俺は満足して頷く。


「……ルクス。今日の朝一緒にいた女、誰?」


 不意にフィナが俺を袖を引いてジッと目を見つめ、聞いてきた。


「……お前また女作って……」


「変な言い方するな!」


 シュウが上体を仰け反って言うのでツッコんだ。……周囲の女子に睨まれるんだよ。俺の評価が変な方向性を帯びてくるだろ。


「……誤解だっての。なあフィナ?」


 俺はいきなりそんなことを言ってきたフィナに微笑みかける。だがフィナの責めるような目は収まらない。……内心俺は焦っていた。何故なら事実、今日の朝二年三大美女の一人、シア先輩と会っているからだ。


「……ん。今朝ルクスの身体から別の女の匂いがした」


 だがフィナは首を横に振って目を少し細めて言った。


「……そんな匂いとか分かる訳……」


「……いや、魔人は五感が優れてるからあるいは……」


 俺が引き攣った笑みで否定しようとすると、チェイグがそんなことを言った。……おい、チェイグ。お前はどっちの味方だ?


「……誰?」


「誰だよ、まさかまた二年三大美女の……!?」


 フィナがジッと俺を見つめ、シュウがまさか! という表情で聞いてくる。……妙なとこで勘がいいな。


「……ああ。スフェイシア先輩な」


 俺はため息混じりに告白する。……もうここまで来たら無理に隠す必要もないだろう。隠してもいつかボロが出るだろ。


「……お前っ……! やっぱり二年三大美女と……!」


 シュウがわざとらしく涙を流しながら俺の胸ぐらを掴み上げてくる。俺はそれを受けてさらっとシュウの手首を掴み捻り上げることで制圧する。


「いてぇよ! このムッツリが!」


 シュウは本気で怒っているように見えた。……俺はムッツリじゃねえよ。


 そう思いながら手を放す。


「……ただちょっと話しただけだっての。別に何もねえよ」


 俺はため息をついて言う。……だがフィナの視線が収まらない。


「……ただ話しただけならここまで匂いが付くことはない」


 フィナよ……そこまでして俺を貶めたいか。


「……どういうことだ!」


「……別に何もねえよ」


 ……ちょっとからかいはしたが。


「……ルクス。ダメ、絶対、浮気」


 フィナは俺の顔を小さく柔らかい手で挟んで目をジッと見つめてくる。


「……浮気じゃねえけどな」


 俺は顔を逸らそうとするが、フィナの怪力は健在なので逃れられない。


「……ダメ、絶対」


「……分かった」


 フィナが繰り返すので、俺は仕方なく頷いた。


「ルクス・ヴァールニア君、いる?」


 フィナのおかげで変な、いや解決するような空気になったが、教室の出入り口から顔を出したシア先輩によって、その空気は脆く崩壊する。

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