超絶な先輩
一週間ぐらいとか言っておいて二週間近くかかってすみません
書く方に集中しすぎてました
「……」
俺は一通りの鍛練を終えて、草むらに寝転がっていた。
今日の天気は快晴。澄み渡った青空が見えるいい天気だ。
俺はそんな青空を仰向けに眺めながら、頭の後ろで手を組み爽やかな早朝の風に身を委ねていた。
今日はアリエス教師がクラス対抗戦のメンバーを発表すると言った日だ。
いつも軽い感じの俺だが、今回は出たいので色々考えてしまう。
そして俺はきっと、出てもどこかで負けるだろう。
そんな確信があるのだ。
俺の負けが必ずしもクラスの負けに繋がるとは思わない。俺の他にも強いヤツはいるからだ。俺が出るとして、その五人の内、何試合目で出るのかは分からないが、俺が最後、大将戦というらしいが、そこで出ることはないと見ていいだろう。
「あら、ホントにここにいるのね。セフィアの言ってた通りだわ」
透き通るような綺麗な声が聞こえた。だが俺は特に驚きを示さない。だって気ですでに俺の方へと歩いてくる人物については捕捉していたからだ。
「……誰だ?」
俺は上体を起こし、その人物の方を向いて聞く。……向いてから、俺は絶句した。
超絶美人がそこにいたのだ。朝日が後光のように照らしているのも相まって、神々しくさえ見えた。
……セフィア先輩を呼び捨てすることから、二年か三年の先輩と分かる。セフィア先輩とは婚約者騒動以来話していないが、セフィア先輩が俺のことを話したとなると、親しい同級生の友人かもしれない。遠い友人に話して何になるというのか。
ってことは、同じ二年SSSクラスの二年三大美女の一人だろうか。容姿だけでいえば、セフィア先輩よりも上かもしれない。
よくスタイルのいい人をボンキュッボン、というが、この人はドドン! キュッ、ドン! みたいな感じだ。それくらい凄い。体格との比率を考えればフィナがあのままの比率で大きくなったとしても勝てるかどうか……。
この人はレイヴィスを着たら、多分男子は注意を惹かれて瞬殺、なんてことになってしまうだろう破壊力を持っている。
鮮やかな朱色の長髪と瞳は夕日によく映えそうだが、朝である今でも充分綺麗だ。
一年SSSクラスの綺麗所と交流のある俺だが、不覚にも見蕩れてしまった。……だって凄いんだよ。
「……ホントにセフィアの言う通りね。先輩にも敬語を使わないなんて」
フフッと少し嬉しそうに笑う。……マズいな。一挙手一投足が可愛いこういう人と関わりを持つと他の女子に負い目が出来そうだ。なんとなく、だが。
「……やっぱり先輩なのか。セフィア先輩と同じ二年SSSクラスの?」
俺は草むらの上で胡坐をかいて座り聞いた。……見蕩れている場合ではない。この人には悪いが、これをきっかけにセフィア先輩に謝る機会をゲットするチャンスなのだ。
「そうよ。私はスフェイシア・オーガット・ディック・アーチェント。シアって呼んでいいわよ。あなたがルクス・ヴァールニアよね。セフィアに勝ったっていう」
シア先輩はさらに歩み寄ってくると、俺の隣に座った。……何でだよ。
「……ああ、まあな。情けない話、気の五つ融合を使っておいて結構ギリギリだった」
俺は少し苦笑して言う。……正直、体力的な問題で結構焦った。セフィア先輩が完全に気の四つ融合を使いこなしていれば、分からなかったかもしれない。
「そうなの? セフィアによれば攻撃は全て見切られ、掠りもしなかったって」
シア先輩は驚いたように俺の顔を見る。……まあ、それも間違ってはいない。
「……確かにセフィア先輩の攻撃は全て見切ったし、攻撃を掠ってもいない。気の融合が一つ違うだけで身体能力に差が出るからな。だが、気の融合には多大な体力を消費する。それは今まで気の三つ融合が限界とされてきた所以だが、それは知ってるだろ?」
「……ええ。私はあまり気を使う方じゃないから気の三つ融合がどれくらいキツいのかは知らないけど、気の三つ融合に至った最初の人は、至ったというだけで実用には程遠く、すぐに効果が切れてしまう程だったらしいわ。実用に至っても効果がすぐ切れてしまい、使った後に大きな疲労を残すことからもこれ以上の域に達するにはドラゴンなどの気の保有量が大きい者じゃないとダメって言われて気の融合は三つまでが限界とされたのよね。だからこそ二、三年があなたの存在に注目してるんだけど」
シア先輩は俺の右隣に座っているが、左手を着いて俺に身を寄せてきた。……注意が真面目なモノから変わりそうだから止めて欲しい。
「……まあ、俺はシア先輩とかと違ってそれしか出来ないからな。気の保有量でいえばドラゴン並みじゃねえの?」
俺は少し自嘲気味に笑う。視線はシア先輩から外して正面を見ている。
……そういえば、あまりにも自然すぎて忘れていたが、この人高位の貴族だよな。俺がタメ口だろうが気にした素振りを見せないんだが。セフィア先輩の友人ならそれも有り得るのか。
「……それは凄いわね。ある意味では生徒会長と対をなしてると言ってもいいわ」
「生徒会長?」
俺はおそらく三年SSSクラスにいるだろうその肩書きを聞いて、何故今それが出てくるのかと気になってシア先輩の方を見る。……抜群すぎるプロポーションに目を惹かれそうになるが、頑張って逸らしていた。といってもシア先輩の顔を見つめる形なので、あまり変わらないように思える。どこを見ても目を惹かれる美人だからな。
「……ええ、そうよ」
シア先輩は何故か頬を染めて顔を逸らした。……あまり触れない方がよさそうだ。
「……生徒会長。おそらく今のこの学校では最強の男よ。魔力、気共に一流――まあこの気の一流は三つ融合までをあっさりやってのけるっていう意味だけど、魔力に偏った私や気に偏ったセフィア、もう一人の二年三大美女って呼ばれてるアンナも魔力に偏ってる中、最強を謳われる中では唯一の両刀使いよ。生徒会のメンバーは原則最強のメンバーで構成しなければならないけど、その生徒会の中でも圧倒的に強いわ。……私も二年最強の一人、なんて煽てられるけど、正直勝てる気がしないもの。決勝か準決勝で当たることになるとは思うけど、大将戦としてやっても勝てないわね」
シア先輩は険しい表情で言い、最後は弱々しく自嘲気味な笑いを浮かべていた。……どんな表情でも絵になる人だが、やっぱり笑顔が一番だよな。この場には俺しかいないし、気休めでもいいから言ってやるか。
……控えめに三年の他のクラスには負けないという自信があることには触れないでおく。
「じゃあ準決勝で俺達が当たったら倒してやるよ」
俺はニカッと笑って言う。……いや、ちょっと違うな。何かが違う。人を励ますにしては生意気っぽい。
「ふふっ……。まさか一年生の口からあの生徒会長を倒すまで勝ち上がるなんて、しかも生徒会長まで倒すなんて言葉を聞いたのは初めてよ」
だが意外と効果があったようでシア先輩は笑顔を見せてくれた。……まあ結果オーライってヤツだな。
「……でも、あの生徒会長の強さは反則よ。当時ここで最強の名を欲しいままにしてたあなたのお父さんにも匹敵する程の実力らしいけど、まあそれを言ったらアリエス先生に怒られたわ」
シア先輩は冗談だと思ったらしく、微笑んで言った。
「……あの親父とな……。へぇ、それは面白くなってきたな。是非戦いもんだ」
俺はしかし、冗談を言っているつもりはないので、ニヤリとして言った。……俺が一度も勝っていない親父に匹敵すると言われれば、面白くなってきたとワクワクするのも仕方がない。
「……あなた、もしかしてさっきの本気で言ってたの?」
すると、俺の本気が伝わったらしく、少し驚いたような顔で俺を見てきた。
「……何だよ、やっぱり冗談だと思われてたのか。俺は本気で言ってるんだぜ? 相手がどれだけ強くても、勝ちたいから勝つんだよ。最初っから負けると思ってりゃ、どれだけ実力が拮抗してても勝てないんだよ。勝つ気でいなきゃ勝てない」
俺は当たり前のことなので、心外とばかりに眉を寄せてから、何でもないことのように笑って言った。……まあ、ホントに何でもないことだ。勝つ気でいなきゃ勝てない、なんてのは俺に言われなくてもシア先輩も勿論分かってるだろうしな。
「……そうよね。勝つ気でいなきゃ勝てない、かぁ。ちょっと私、弱気になってたみたい」
だがシア先輩はどこか吹っ切れたような爽やかな笑顔を見せた。……おぉ、どうやら本当に効果があったのはこっちのようだ。
「……ありがと、ルクス」
「……いや、別に。俺は何もしてないけどな」
シア先輩が満面の笑みで言うので俺は内心ドギマギして素っ気なく言う。
「……そういえば、ルクスはセフィアとのキスを拒絶したらしいわね?」
「……うっ」
だが突然ニヤリとした嫌な笑みを浮かべると、小悪魔めいたことを言ってきた。……いやまあ、あれは拒絶というか、その……。
「冗談よ」
俺がどう言ったらいいか悩んでいると、俺が困っている姿を見て満足したのかフフッと微笑んで言った。
「……彼氏役だと思ってたって? ホント、セフィアとルクスには悪いけど、聞いた瞬間大笑いしたわ。まあセフィアも悪いわよね。説明のし方が彼氏役を頼むような感じだったらしいし、自分よりも強い男子なんて生徒会長ぐらいしかいないもんだから、しかも真っ向勝負負けたもんだからセフィアとしてはその気になってもよかったんじゃない?」
……その気って。
俺は今までで一番楽しそうに話すシア先輩にジト目を向けた。……俺、その件で今もセフィア先輩から避けられているんだが。
「……まあ、セフィアは恥ずかしくてなかなか会えないみたいだから、無視したのは毎日後悔してるのよ。セフィアの方から話しかけるらしいから、それまで待っててくれる?」
シア先輩は一番の優しいというか、温かい笑みを浮かべた。……ちょっと姉みたいな部分があるんだろうか。
「……まあ、そういうことなら」
俺はそれに圧されるような感じ頷く。
「……シア先輩って、何かセフィア先輩の姉みたいだな。何かこう、そんな感じがする」
「……まあ、そうかもしれないわね。二年三大美女、なんて言われてる私達はルームメイトなんだけど、だからこそ分かるのよ。他二人は確かに綺麗だけど、私はそこまでじゃないって。だからだと思うわ」
「……」
……そう、なのか? 美女かどうかでいえば、セフィア先輩より美女って感じがするんだが。セフィア先輩は美人って感じなんだよ。カッコいい美人、みたいな?
「……そう、か。そう思ってるなら仕方ねえよなぁ」
俺は独り言のように呟く。……この人、自己評価が、容姿に関して過小評価すぎるだろ。シア先輩なら女に興味がない男も落とせそうなのに。
「……」
「……ま、あんまり自分を過小評価しすぎない方がいいぞ。じゃないと――」
「えっ?」
俺はさっきからかわれたお返しにと、少しからかってやることにする。俺はシア先輩の柔らかい二の腕を掴むと、そのまま押し倒す。……ヤバいな。からかいがからかいじゃなくなりそうだ。
俺は驚いたような顔で頬を染めるシア先輩に、顔を近付けていく。……近くで見ると細かい部分まで見えるが、さすがに綺麗だな。
「……こんなことになりかねないんで、気を付けてな」
俺はパッと顔と手を放すと、笑って立ち上がり、去っていく。……ああ、やっぱやらなきゃよかったな。
「……」
シア先輩を振り返ることはなかったが、シア先輩も俺に声をかけることはなかった。
……あんな美女に迫れる程、俺は経験ないからな。冗談で済まさなきゃやってられねえよ。
俺は草むらから森林に入ってシア先輩から見えなくなった後、なんとなく頭をかいた。