クラス対抗戦予告
遅くなりましたすみません
もう何話かストックがあるので一週間かそれくらいでしばらくは更新するかもしれません
「もうすぐ、クラス対抗戦が行われる」
ある日の朝、アリエス教師は開口一番にそう言った。
クラス対抗戦?
俺はいつも通りフィナを抱えながら首を捻った。
「……はぁ。周知のことだとは思うが、クラス対抗戦について若干一名分かってなさそうなヤツがいるので説明するか」
アリエス教師は首を捻った俺を見てため息をつくと、黒板に向かった。……何故かクラスメイト全員の視線が俺に集中していたのは、どういうことだろう。少しはオリガに向いてもいいと思うんだが。
「クラス対抗戦とは、略称だが、正式名称はライディール魔導騎士学校校内クラス対抗代表団体戦だ。その名の通り、クラスの代表者が五人出て戦い、先に三勝した方の勝利となる。勝敗が決しても最後までやること。メンバーは担任が指名するが、今までの成績が考慮される。一年の場合は先の襲撃での活躍も考慮されるだろう。当日は騎士団や国王、様々なお偉いさんが来る。三年にとっては名前を売る最後のチャンスだからな。本気で来る」
アリエス教師の言葉にゴクリ、と生唾を飲み込む音が聞こえた。
「……逆に言えば一年や二年が三年に勝つことでアピール出来るチャンスでもあるってことか」
俺は顎に手を当てて呟く。
「……そうだな。そういう見方もある。クラス対抗戦はトーナメント形式で行われ、三年と二年のSSSクラスは一回戦をパス出来るようになっている。クラス数の関係でな」
俺の呟きが聞こえたらしいアリエス教師は苦笑して言い、説明を続ける。
「トーナメントは三つのクラスを二つと一つに分けることで半々にしているが、場合によっては、もし三年と二年のSSSクラスが同じ側になった場合は調整するな」
「……ってことは、運が悪けりゃ決勝でしかSSSクラスの先輩と戦えないって訳か」
「……お前は運の良し悪しが逆だな。だがまあ、そういうことだ。初戦で当たることはないが、早々に当たることは想定しておけ。明日、メンバーを発表する。メンバーは控えを合わせて十名。あとスタッフとして一、二名。医療メンバーとして何人か。計十五名以下ってとこだな。大体察しがついているとは思うが、今日滅茶苦茶頑張れば代わるかもな。無茶さえしなければ、だが」
アリエス教師は不敵に笑う。
クラスメイト達の反応は様々だ。このクラスの強いヤツはかなり強いのでほぼ決定しているが、十人が圧倒的に強いんじゃなく、控えでも自分が入るチャンスがあると思ったヤツが真剣な表情になり、自分は入らないだろうと思ったヤツがホッと息を吐いたり、個人で言えばアイリアは必ずと言っていい程入る確立が高いので滅茶苦茶真剣な顔をしていたし、リーフィスは興味なさそうに窓を眺めているし、オリガはやる気満々そうだ。
浮かない顔をしているのは、チェイグとフェイナ、あとはチェイグを心配そうに見つめるサリスぐらいだろうか。
チェイグは二年留年して入学したにも関わらず今年も正式なメンバーに加わることはないんだろう。実力で言えばチェイグが勝つのは不可能って訳じゃないが、勝てないだろうことは俺にも分かる。入るとしてもスタッフだろうしな。
フェイナはほぼ確実に医療メンバーとしてメンバー入りするだろう。おそらくは魔法全てにおいて高い能力を発揮するアイリア以外ではこのクラス一の回復魔法使いだと思う。回復魔法を使う者の上下を決めるのは少し難しいため、あくまで目安でしかないが、このクラス一ということは学年一も有り得る実力者である。残念ながら攻撃魔法や体術はあまり得意ではないので戦う方のメンバーとしては選ばれないだろうが。
サリスはおそらく戦うメンバー十人に選ばれる。控えかどうかはアリエス教師次第なので分からないが、メンバーには入るだろう。だがサリスの心配はチェイグの方にあるようだ。俺と同じように考えたのかもしれない。
……サリスとチェイグの仲についてはすでに周知なので馴れ初めを聞きたいところだ。
「公平に実力と状況判断能力だけ見て決めるからな。文句を言っても代えないぞ。悔しかったら来年までにそいつらを倒すくらいに強くなることだ」
アリエス教師はそう言うと書いていたトーナメントを消し、教室から去っていった。
「……ふむ。大体メンバーは決まってくるよな、スタッフ君」
「……おい。勝手に俺をスタッフと決め付けるなよ、メンバー君」
アリエス教師が去ってから軽口を叩き合うチェイグと俺。
「俺はメンバーか分からねえけど、大体予想はつくだろ? アイリア、オリガ、リーフィス、イルファ、フィナ、サリス辺りはもうほぼ確実と言っていい」
「……今年は女子が強いからな。まともに戦えるのお前だけじゃないか?」
俺が挙げた名前を聞いてチェイグもそう思うのか、苦笑した。
「……正面からやり合ってまともに戦えるのはオリガとサリスぐらいだろうな。遠距離攻撃されるのはちょっとキツいんだよ。どこまで本気を出さなきゃいけなくなるか」
俺はそんなチェイグにため息をついて答えた。
「……気の全部融合を使えるヤツが何言ってんだよ。でもまあ、男子から選ばれるとすればルクスとゲイオグぐらいだろうな。あとは分からない」
「ゲイオグ?」
「……お前、仲の良いクラスメイトの名前くらい覚えろよ。あのマッチョだよ」
チェイグは呆れたように言いながら、シュウと一緒に歩いてこっちに向かってくるマッチョを指した。……ああ、マッチョか。マッチョって呼んでるから気付かなかったぜ。
「……マッチョはマッチョでいいだろうが。渾名は仲の良い証拠だ」
「……絶対覚える気ないだろ」
チェイグが半眼ジト目を向けてくるのを、俺はしれっとして無視した。
「よう、二人共。ルクスの方はメンバー入り出来そうだな」
俺とチェイグの間の通路に並ぶようにして立ち止まった二人の内、シュウが早速クラス対抗戦の話を持ち出してきた。
「チェイグもスタッフとして、マッチョもメンバー入り出来るかもしれないだろ」
「……俺は?」
俺が苦笑して言うと、シュウが不安そうな顔で聞いてきた。……全く。俺がどう答えるかなんて分かってるだろうに。
「お前は無理だろ」
だから俺は、爽やかな笑顔で言ってやった。
「……いや、分かってはいた、分かってはいたんだぜ? でもさ、そこはお世辞でももしかしたら入るかもしれない、くらいは言ってもいいんじゃねえの? 罰は当たらねえよ?」
シュウはガックリと肩を落として言った。
「……いや、お前がメンバー入りするだなんて世辞を言ったら、他のヤツに失礼だろう」
「お前最低だなっ!」
「いつも通りだろ」
「いつも最低だよ!」
「……まあまあ、落ち着け、シュウ。ルクスも悪気があって言ってる訳じゃないんだ。なあ?」
チェイグが苦笑いを浮かべながら俺とシュウの仲裁に入る。
「ああ。悪気はない。自覚があるだけにな」
「むしろ最低だろ!」
「ははっ」
俺はキリッといい顔をして頷くと、シュウがツッコんだ。チェイグは相変わらず穏やかに笑うのみだ。……仲裁はどうした。まあ冗談だと分かってるから止めないんだろうが。
そんなこんなで、今日も一日平和を過ごした。