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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第二章
57/163

クズ王子降臨

本日三話目です

「「……」」


 俺とバカ王子は鍛練場で対峙していた。


「……何してるのよ。折角私が平和的解決を模索してたのに」


 クラスメイト達は俺達を囲むように並び、アリエス教師は審判のため円の中にいる。


 そこにアイリアが俺のとこに来て、小声で耳打ちしてきた。


「……煩いな。折角キスされそうなとこを助けてやったんだからこのまま俺に任せろって。どうせあいつ殴りたいって思ってるんだろ? ついでにボコボコにしてやるから」


「……ダメよ。そんなことして国王に目を付けられたらどうするつもりよ」


「……知るかよ。相手が何だろうと、ムカついたらぶっ飛ばすのが俺の流儀だ」


「……王族に対する敬意を持ちなさいよ」


「……あんなクソ野郎に払う敬意は持ち合わせてないんでな」


「……」


 アイリアと小声で言い争ってしまう。……何でそんなに相手の肩持つかな。


「……そんなにあいつの肩を持つくらいなら、結婚しちまえばいいんじゃねえの?」


「っ! ……殺されたい?」


「……そんなに嫌なら俺に任せろって。精々、共犯だと思われないようにしてやるから」


 国王から恨みを買うのが嫌らしいし、そこは俺が引き受ければいいだろう。


「……別にそんな気遣いはいいわよ。それよりどうするの? もう殴ったとはいえ、これ以上手を出したら反逆罪に問われる可能性も……」


「……別にそんなことどうでもいい。俺は俺が気に入らないヤツを許すつもりはない。それで反逆罪に問われるようならこの国はもう終わりだな。壊滅させてやるよ」


「……っ! そんなことしないで。私やフィナまで巻き込まれるじゃない」


「……じゃあ俺を選ぶなよ。お前が俺を選ぶから関係性が面倒になったんだろ? 物分りのいいヤツを選べ。これはお前の人選ミスだな」


 俺はニヤッと笑う。


「……確かに私は王子相手にも怯まない人を選んだんだけど……」


「ん?」


 アイリアはさらに小声で何か言った。小声すぎて何を言ってるのかは分からなかったが。


「……何でもないわ。それより、一人で罪を全部被るなんてことはさせないから」


 アイリアは真剣な顔でそう言うと、円の中に入っていった。


「……別れ話は済んだか?」


「……はっ。別れないから大丈夫だ。それに、今後一切会えないのはお前の方だ」


「……つくづく気に障る平民だな! 教えてやろう、この僕の素晴らしい装備は高価かつ豪勢だ! 貴様の……ぷっ。何だそれは。そんなモノで僕に勝てるとでも? 剣を貸してやろうか?」


「……誰がそんなナマクラを借りてどうしろっていうんだよ。それと、俺の武器をバカにするなよ。殺すぞ」


 俺はついつい殺気を漲らせる。……落ち着け俺。棒だからバカにされるのは分かってたハズだ。


「はっ! 下々の分際でこの僕を殺す? それに僕を殺したらどうなるか分かっているのか?」


 バカ王子は嘲笑して言う。


「……知るかよ。俺が俺のしたいようにやって、俺が正しいと思うなら、反対するヤツは叩っ斬るまでだ。剣気」


 俺は木の棒の刃に当たる部分の根元に指を当て、滑らせて刃を展開していく。


「……随分と貧相な武器だな」


 クソ王子は嘲笑して剣を抜く。……うわっ。構えが素人くせえ。こんなんでよく騎士団長も負ける気になったよな。


 握りが甘い。ぶっ叩いたら吹っ飛びそうだ。腰が入ってない。ちょっと押せば倒れそうだ。


「……破剣」


 俺は剣気の刃に破気を混ぜて白と灰色の刃に変える。


 ……こいつにもちょっと痛い目を見て欲しいが、肉体的な方は俺がやるからいいとして、精神的な方は誰がいいか。やっぱり国王だな。あの装備壊したらさすがの親バカでも叱るかもしれないな。聞いてみるか。こいつと口利くのは嫌だが。


「……その装備、いくらぐらいするんだ?」


「? 教えてやってもいいが平民には到底払えない金額だからな。どうしても、って言うなら教えてやらないでもないぞ。五億だ」


「「「っ!!?」」」


 その値段に、全員が驚愕した。


 ……え~っと、億? 億ってどこにある単位だっけ? 俺が使うのは精々万単位だし……。千万を超えたら億になるんだったか。国家財産がどれくらいか知らないが、あれ売ったらアイリアの家でも一生遊んで暮らせるんじゃねえかな? ……ヤバい。あれ壊すよりも売り払った方がいい気がしてきた。


「……壊したり何かしたらさすがに何か言われるのか?」


「えっ? …………まあ、僕なら許されるだろう」


 アホ王子はあからさまに視線を泳がせた。……そうか、さすがに怒られそうか。


「……」


 俺はいいことを聞いたと、ニタァ、と嫌な笑みを浮かべる。


「「「……うわっ、悪い顔」」」


 うるせえよ。


「な、何だ?」


 マヌケ王子が若干引いていた。……引くなよ。俺の方がお前にドン引きだってのに。


「……別に。まあかなりの防御力だそうだし、俺が斬っても壊れないんだろうなっ!」


 俺は引いてさらに隙だらけになった野郎に突っ込み、反応される前に剣を縦横に振るう。丁度十字を切るように斬ってやり、そのまま後ろに抜ける。


 パキィン。


「っ………!!?」


 クソ野郎はこの世が終わったような顔をしていた。


 だって金色の装備が、スッパリと斬れたんだから。


「な、何をした!?」


「何って、斬ったんだよ。言っとくが小細工なんかしてないぜ。小細工が通用しないくらいいい装備なんだろ?」


 ホントはただの装飾品だろうに。もしかしたら豪華なだけで値段は嘘ついてるかもな。さすがに無理だろう、あんな値段。


「……くそっ! よくも僕のお気に入りの装備を! 許さない! 一番惨い処刑方法で殺してやる!」


 ……何だよ、それ。自分のお気に入りの装備を壊されたから怒ってるのか。くだらねえ。


 怒り心頭っぽいアホは剣を思いっきり握り、力任せに振るってくる。


 俺はそれをあっさりとかわすと、剣も斬り壊す。


「なっ……!」


「……気って、どうせ知らないんだろ? まあ知らなくていいや。どうせもう、知ることもねえだろうしな」


「……っ! 下々の分際で僕に逆らうな! 大人しく従っていればいいんだ! パパに言いつけてやるからな!」


「……自分では何も出来ないボンボンが、庶民に勝てると思うなよ。今日のお前の言動は、国王の教育が疑われるモノだったぞ。平等主義を謳う国の王子が差別意識持ってるなんて、国王が知ったら激怒してもいいと思うんだが、親バカらしいからな。国王共々、後悔させてやるしかねえな」


「……パパに手を出して無事で済むと思うなよ! まあ僕に手を出した時点で無事には済ませないがな!」


「……勘違いするなよ、ガキが」


「は? 僕は同年代だぞ? どこがガキだ?」


「……精神的にガキだっつってんだよ。人を分けて考えるようなヤツはクズだ。そんなことも分からねえからガキなんだよ」


「……っ! もう許さない! 絶対にだ!」


「……あっそ。俺は別に許しを請おうなんざ思ってねえよ。勘違いするなって言ってんだ。これは喧嘩じゃねえ、決闘なんだよ」


「……それがどうした?」


「……違いが分からねえからガキなんだよ、クソが。喧嘩と決闘は違う。これは決闘だ。どっちかが負け、どっちかが勝つ。それまで終わらない。だから」


「えっ……?」


 俺はいきなり踏み込み、剣気を解除して木の棒で顔二回と腹を殴った。


「がっ……!」


 俺と交錯したクズ王子は地面に崩れ落ちる。


「……俺がてめえを攻撃するのは勝つために仕方ないことであって、正式なモノだ。決闘で相手に手を出すのは当然。それで処刑されるなら、俺はこの国への失望を隠せないな」


「……ふ、ふざけるな! 王子である僕に手を出しておいて!」


 ヘボ王子は憤って無様に殴りかかってくる。


「……だから、決闘の場において身分を持ち出す精神がウザいんだよ! 闘鬼!」


 俺は隙だらけのアンポンタン王子を全身に青と赤のオーラで身体能力を強化し、強か全身を木の棒で殴った。


 ……七発ぐらいいったな。


「ぐふっ……」


 再び崩れ落ちる。……そろそろ身体に痣が出来ただろうし、徹底的に顔を殴るか、うん。別に性格最悪の癖して顔良いのがイラついている訳じゃないからな?


「……決闘で負けるのは俺が無礼だからじゃねえ。てめえが弱いからだ」


 俺は木の棒を肩に担ぎ、告げる。


「……ふざけるなよ、平民風情が!」


 そう言うと手の前に魔方陣を展開する。……魔法が使えたのか。そりゃビックリ。


「……死ね。オーロラ・ノヴァ!」


「っ!?」


 それ結構な威力の魔法じゃねえか!


 俺は滅多に使われない程強力な魔法が発動されたのを見て、本当に驚く。


 魔方陣から虹色の波動が放たれ、人を消し飛ばす程の光が俺を包む。


「――」


 ……それが収まると、俺は地面に倒れていた。


 いやぁ、しくったな。まさか基本の全属性を使う魔法の中でもかなり上位のモノを使ってくるとはな。


 王族だけはあって、結構な魔力保有量らしい。特に強そうじゃなかったのに。


「……ハァ、ハァ。どうだ? 思い知ったか、平民風情が。これで僕の勝ちだな。一生僕の奴隷として飼ってやる」


 俺が薄目を開けて見ると、勝ち誇った顔が見えた。……イラつくな。


「……こんなもんか?」


 俺は何事もなかったかのように立ち上がる。……いや、ホントはマジで痛かったんだ。装気使わなかったしな。制服のブレザーは吹き飛びシャツも焼けている。普通の布じゃないハズだが、かなりの威力だな。


「なっ……! 僕の全魔力を注いだ魔法だぞ!?」


 驚愕していた。……なるほど。大した魔力でもない癖に全属性の魔法を使えるから魔法をほとんど使わなくてもこれを切り札として覚えていたって訳か。悔しいが、才能の成せる業って訳だな。天才肌らしい。真面目に訓練すれば結構いい線いけると思うんだが。


「……てめえの実力はそんなもんだったって訳だ。俺は魔法を軽減させた訳じゃない。こんな雑魚があんな魔法を使えるなんて、ビックリだったからな。だが俺は消し飛んでない。それはてめえの実力がショボいからだ。本来のオーロラ・ノヴァは人間を消し飛ばす程の威力だからな」


 俺はダメージをくらって溜まった血を口から吐き出す。


「……まあてめえの実力についてはもう分かり切ったことだから今更って感じだが、どうでもいい。それよりも重要なのは、てめえが俺を殺そうとしたことだ」


「……死ななかっただろう」


「……国を継ぐ王子が人殺しを人前でしようとした件、国王はどう思うだろうな。さすがに王宮のヤツらもお前に失望を隠し切れないだろうし、民衆も次期国王がてめえみたいなクソだと知ったら反乱が起こってもおかしくない」


「……そんなことは有り得ない! 僕は王子だ!」


「……それが?」


「なっ……!」


「……王子とかどうでもいいし。俺にとって重要なのはてめえがムカつくことだけだ」


「ふざけるな! 僕は王子なんだ! 王子なんだぞ!」


「……」


 だから、それが? 俺にとっては身分とかどうでもいいし。


「……はぁ。もういいや。てめえみたいなヤツに、生きてる価値なんてねえよ。剣気」


 俺は冷酷に呟き、木の棒に指を当てて滑らせ刃を展開すると、左手で振り上げた。


「ひっ……! 止めろ! 王子である僕を殺すなんてただで済むと思ってるのか!?」


「……知るかよ。てめえに生きる価値があるとすれば国の実権を狙う貴族共に利用されるだけ。そんなことになる前に殺す」


「……止めろ! 王子の命令が聞けないのか!?」


「……国王が権限持ってるだけで、王子には何の権限もねえよ。少なくとも、俺に対してはな」


「止めろと言ってるのが聞こえないのか! パパに言いつけてやるからな!」


「……死人がどうやって喋るのか、教えて欲しいくらいだぜ」


 俺は無表情に剣を真っ直ぐ、振り下ろす。


「……止めなさい」


 だがそこに、割って入る人物がいた。アイリアだ。


「……」


 アイリアは俺の手首を掴んで止めていた。……もうちょっとだったのに。


「……アイリア。ははっ、そうだよな。王子である僕を殺すなんてさせる訳がないよな。君は僕の婚約者なんだから」


 さっきまでビビって目を閉じていたのが、青褪めた顔で引き攣った笑いを零した。


「……アイリア、やっぱり君は僕と――っ!」


 俺が力を抜いたのを見て手を放したアイリアは、そいつの頬を平手打ちした。……腰が入り手首のスナップを入れ、ちょっと気を纏ってのビンタだったため数メートル吹っ飛んでいった。


「……な、何を……」


「……あんたみたいな最低なヤツ、生きる価値なんてないわよ」


 アイリアは冷酷な目で、俺より冷たい目でそいつを見下ろし、いや見下し、告げた。


「は……?」


 そいつは何を言われたか分からなかったようで、目を丸くする。


「……あんたみたいな最低なヤツ、生きる価値なんてないって言ったのよ。正直に言うけど、婚約は私の意志で断るわ。私はあんたとなんて結婚したくないのよ。つくづく最低だ最低だとは思っていたけど、ここまでクズだと思わなかったわ」


「……」


 そいつはアイリアに酷なことを言われてショックを受けていた。……これなら俺、いらなかったんじゃねえかな。


「……そんな……」


 そいつはガックリと肩を落とす。……いい様だな。もうちょっと辱めないと俺の気が済まないんだが、ここからまた俺が手を出すのも何かなぁ。


「……お前、名前は」


「ん? ルクス・ヴァールニアだが?」


 俺に聞いたんだろうし、特に隠すような名前でもないので普通に答える。


「……ヴァールニア? ああ、あの平民出の調子乗ったクズ英雄の息子か! 平民出の癖して国一の英雄だなんだと言われパパの申し出を断ったヤツだろう!」


 すっかり落ち込んでいたが、ヴァールニアと聞いて顔を上げてさっきのように嘲笑する。……アイリアの冷酷すぎる視線を受けてしまった、という顔をしていたが。


「……」


 俺は親父と母さんがバカにされたことに対し怒りが沸き上がり思わずそいつの胸ぐらを掴み上げてぶん殴りたい衝動に駆られたが、それは出来なかった。


「……ガキ、今何て言った……!」


 俺よりも怒りを露にしている人がいたからだ。


 ……そういえば親父と母さんは英雄だったんだと、今になって思い出したのだが、そんなことはどうでもいい。


 その人は見かけは幼女で年齢を詐称しているんじゃないかと思う程だが、聞けば俺の両親と同年代らしいから三十五ぐらいということになる。二十歳の時に俺を生んだとか。……騙されていなければそれくらいだ。


 彼の大戦では数多の敵を葬り英雄の一人として数えられる実力者、アリエス教師だ。


 キツい幼女みたいな彼女だが、今は怒り心頭、髪が何故か逆立って地面が欠け宙に浮いていく。実際に人を殺してきた者だから発することの出来る濃密な殺気を放っている。


「……っ!」


 そいつはもう、殺気を向けられガクガクと震え、青褪めて腰が抜け立てない状態だった。……触れちゃいけない逆鱗に触れてしまったらしい。


「……ルクスの親だけじゃない。あの大戦では数多くの平民出のヤツらがいた。そいつらが戦ってくれたおかげでお前が生きている! 平民出の英雄は多い。むしろ貴族出の英雄の方が少ないくらいだ。だというのに今、お前は英雄を侮辱したのか? この国の民を誰よりも多く救った英雄達を、侮辱したのか?」


「ひっ……!」


「ふざけるなっ!」


 怯えるそいつを気にもせず怒りのままに言葉を紡ぐアリエス教師が手を翳した。……マズい!


「……」


 アリエス教師が何かしようとしたのは、オリガとリーフィスが手を押さえることによって収まったが、そいつは気絶していた。……あれ程の殺気を受けたんだからな。俺でもちょっと冷や汗が出ちまった。


「……ふっ。いい様だな」


 俺は失禁したそいつを見て、嘲笑う。今までの分、お返ししないとな。女子は目を逸らし、男子は笑いを堪える中、アリエス教師が大きく息を吐く。


「……悪かったな。もう大丈夫だ。お前達は教室に戻れ。私はこいつを国王の下へ送ってくる。ついでにこれ以上このまま野放しにするようなら、昔の仲間を集めて国滅ぼしてやると伝えてくるから、もうこんなことにはならないだろう」


 アリエス教師は怒りを収めると、静かに言った。


 紫の膜がアリエス教師とそいつを包み、一瞬で消えた。……テレポートかよ。しかも何も詠唱もしてないのに。


 ……やっぱアリエス教師、こえぇ。


 俺がこの件で、一番思い知ったことだった。

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