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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第二章
56/163

クソ王子推参

本日二話目です

「……あれが?」


 いけ好かないそいつは俺を指差して聞いた。……おい、何だよあれって。モノ扱いか俺は? ああん?


 詰め寄って胸ぐらを掴み上げたい衝動に駆られたが、眉を寄せるだけに留めた。


「……人をあれなどという指事語で呼ぶのはどうかと思われますが」


 引きつった笑みを携えたアイリアが遠回しに俺をフォローする。


「僕は下々をどう扱おうと許されるんだ。だって僕は王族だからね! しかも僕は国王の一人息子として次期国王の座を約束されている!」


 偉そうにそうほざいた。


 ……ああ、ウザい。もう殴っていいかな?


 大体、国王が平等主義を名乗ってんのに、王子がこんなんでいいのかよ。親バカで王子を甘やかしたとしても、こんなんじゃ将来の王国が不安だぞ。


 ……って、王子!?


「……王子、だったのか」


 俺は少し目を見開いて小さく呟く。


「……知らなかったのか? ディルファ王国第一王子と言えば、世界でも知らない者はいない、というくらいに有名な我が儘王子だぞ。現国王は極度の親バカで王子に甘く、大きな問題を起こしても説教はせず注意だけに留めておいた。それが我が儘を暴走させ、あれに至るんだ。国王が親バカのため王子には逆らえず、誰も王子の蛮行を咎めることが出来なかった。それであそこまで自信過剰なヤツに育ったんだが、知らないのか?」


 俺の呟きを聞いたらしいチェイグが教えてくれる。……知らないのか、って二回も聞かなくたって知らねえよ。そんなに有名なのか?


「……殴ったら『父上にも殴られたことがないのに!』、とか言いそうだな」


「……止めろ。王子を殴ったら罰則どころの話じゃないぞ」


「……何だよ、俺の味方じゃねえのか?」


「……」


 チェイグにニヤリとして聞くと、黙ってしまった。……皆、内心では王子をぶん殴りてえと思ってはいるが、立場が立場なので出来ない、と。そういうことだな。


「……アイリア。あれは他の女子を抱えているが、それはどうなんだ? 確かに一夫多妻制ではあるが、学生の内から平民ごときが何人もの女子と付き合うなど不健全極まるぞ」


 王子が険しい表情で言った。……ヤバ。いつも通りフィナを抱えたままだった。ここは俺が弁解するよりアイリアが誤解を解いた方がいいんだが……。


「「「……」」」


 王子の指摘にクラスメイトがしまった、という表情をしていた。アイリアも固まっている。これについては考えていなかったらしい。


「……え~っと、あの娘はその……」


 アイリアがぎこちなく俺の方を向く。……すまん、計画が狂ったらしいな。


 俺は顔だけで謝っておく。……ちゃんと伝わったかは兎も角。


「娘です!」


「「「………………」」」


 俺を含め、全員が絶句した。


 ……いやいやいや! さすがにそれはないだろ! 常識的に考えて、無理がありすぎる!


 俺もそれを王子が信じる訳がないと、やっちまった感が溢れてくるが、


「……なるほど、そうか」


 王子だけが一人、納得したように頷いていた。


 ……な訳あるかっ!!


 きっとアリエス教師を含め全員がそう心の中で叫んだことだろう。


 ……バカだ。真のバカがここにいる。


 大体、ライディール魔導騎士学校は十五歳からしか入れない。だというのに十五歳の夫婦に十五歳の子供がいる訳ないだろ。頭おかしいんじゃねえの?


「……くっ! ということはアイリアとあれはもう……! だがそれでもいい! 別れれば子持ちでも!」


 ……おい。


 王子は悔しそうにしながらもすぐに自信を取り戻すとそう言った。


 ……何だこいつ。


 俺は急に憐れみを覚えてしまった。


「……だが、この場で奪ってしまえばそれで終わりだ」


 王子はすっかり気を取り直すと、アイリアと向き合った。アイリアの顎を持ち、自分から顔を近づける。……ちょっと待て。


「……っ!」


 アイリアは自分でも信じてくれるとは思っていなかったのか驚いていたが、王子の急な行動により別の驚きに包まれ、ギュッと目を閉じた。


 ……お前ともあろう者が、こんなヤツのされるがままになってるんじゃねえよ。


 俺はフィナを隣の席に下ろす。


 クラスメイトの大半がこの世の終わりだ! という顔で王子の行為を見ていた。……しゃーねえか。


「……闘鬼」


「……おい、まさか……!」


 小さく呟き木の棒を手に持った俺にチェイグが声をかけるが、無視だ。


「このっ……!」


「ん?」


 王子の顔がアイリアの間近に迫るが、王子は俺の声に反応した顔を上げる。


「クソ野郎が……っ!」


「へぶぁっ!」


 俺は自分の席から思いっきり跳んで王子の近くまでいき、そのままの勢いで王子の顔面を木の棒で殴った。


「「「っ……!」」」


 やっちまった! という表情をする他全員。


「……別にお前を助けた訳じゃねえからな。俺は俺で、こいつをぶん殴りたいだけだ」


「「「ツンデレっ!?」」」


 ツンデレじゃねえよ、うるせえな。


「……っ! よくもこの僕の顔を! パパにもぶたれたことないのに!」


 ……ぷっ。言ったよ、マジで。まあ父上がパパで殴られたがぶたれたに変わっていたが。


「……」


 チラリとチェイグの方を見ると、口元を手で押さえて笑いをこらえていた。……フィナは不満そうに俺を睨んで唸っている。


 ……お前ら完全に他人事じゃねえか。


「……知るかよ。王子だか何だか知らねえが、人間としての倫理を疑われるような行為をしていい訳がねえだろ。ぶん殴るぞ」


「もう殴っただろう! 王子であるこの僕を殴ったこと、後悔させてやる! パパに言ってお前を公開処刑にしてやる!」


「……あっそ。お前ごときに負けるような騎士団がいるとこに、俺が負けると思ってんのか? お前ごときが騎士団長に勝てるなら、俺が国を滅ぼすなんて容易いだろ」


「っ! この僕をごとき呼ばわりするだと! 騎士団長がどれだけ侮辱されようが下々のことはどうでもいいが、この僕を侮辱するなんて許される訳がない!」


 ……。


「……じゃあ俺と戦ってみるか? 決闘しようぜ。お前が負けたら土下座して俺に一生敬語な」


「なっ……! そんなこと出来る訳が……!」


「何だ? 自信ないのか? 自称強い人さん?」


「っ! 僕を何度も侮辱したな? もう謝っても許さない! いいだろう、その決闘を受けてやる! 僕が勝つから負けたら、という条件は呑もう。僕が勝つのは決まっているが、僕が勝ったらお前は飽きるまで奴隷として過ごし、徹底的に屈辱を与えてから公開処刑してやる!」


 俺の挑発に乗ってまんまと決闘に乗ってくれた。……調子に乗んなよ、ボンボンが。俺に勝てると思うな?


「……はぁーーーーっ」


 アリエス教師の大きなため息が聞こえた。


「……バカ」


 アイリアの呟きが聞こえた。……折角お前のピンチを救ってやったのに、バカとは何だ、バカとは。まあお前の苦労を無駄にしたのも俺なんだが。


 ……まあ、これで合法的にボコボコに出来るから良しとしよう。

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